1⑨0.ここじゃ考えるより感じる事こそが重要。成り行きに身を任せつつ、私のやるべきことをやっていこう、うん(SIDE:クラーラ)
人それを、思考放棄と言う?
「クラーラ!大丈夫!?」
「はっ!?」
義姉アーデルの呼び声にクラーラは目を覚ました。
気付けば、目の前には泣きそうな顔をしてのぞき込んでるアーデルの姿があった。
「えっと……私、気を失ってた……の?」
「そうよ!!無事でよかった!!気分は?!痛い所は!?」
「痛い所は身体中だけど、気分は……まだ後一回はいけるかな」
「そう……でも無理はしなくてもいいのよ。もう限界でしょ」
「大丈夫……私もまだいけるから」
本当は限界に近かったが、修行はそもそも限界を超えるために行うようなものだ。
それに、タイムリミットが定められてる以上は多少無茶してでもやらなければならない。
アーデルもその事は重々承知。
なので、アーデルもこれが最後の一回という条件付きで承諾し……
すでに起き上がっていたデールマンとともに作戦会議へと移った。
「それでクラーラ。次はどう攻めればいいと思う?」
この一週間、実戦で何度もぶつかってわかった事だが、アーデル単独ではまず勝てない。絶対に勝てない。半年経っても勝てるかどうか怪しい。
それはアーデルもよく理解できているため、ぶつかる前にクラーラから助言をもらう事にしていた。
「うん、次だけど……聖女の力を使ってみたらどうかな?」
聖女の力……
ここに来る前だと無意識化によるおかしな方向性でしか発現出来なかったが、事前準備として課されたサバイバル生活で童心と野生を思い出した事によって、片鱗程度であるも意識して方向性を定めるできるようになっていた。
とはいえ……
「それはまだ早いです。前にそれ使って壮絶に自爆したわけだし」
デールマンが語る通り、まだまだ不安定で実戦では到底使えるほどではなかった。
「でも、使わないと勝てないじゃない。例え自爆の危険性があっても」
「そうね。勝つためならクラーラの言う通り、リスクを取る必要性はある……でもね。私は反対よ」
「えっ?」
クラーラはアーデルの言葉に驚いた。
アーデルは基本的に失敗を恐れない。失敗すれば成功するまで挑戦するイケイケだ。
一週間前のサバイバル生活の時は不安定な聖女の力のせいで何度もひどい目に合わされてきたのだが、今回のような失敗時のリスクが低い場合は積極的に挑戦すべきである。
なのに、アーデルは聖女の力を拒否したのだ。
一体なぜっと思うと、アーデルは語った。
「クレアお姉さんは開始前に『今は基本を極める事に集中なさい』って言ったでしょ。それは、今は聖女の力に頼るなっていう意味だと思うの。
後、クレアお姉さんはこの一週間魔女や聖女由来の力を一つも使わず、純粋な技と知識のみで戦ってる。幸い時間はまだ2週間あるのだから、私達も今はまだ聖女の力ではなく純粋な技と知識だけで戦いましょ。そして、盗むのよ……クレアお姉さんの技と知識を……ね」
そう言って、にやりっと悪い顔で笑うアーデル。その笑みと発想はどことなく魔女クレアを彷彿とさせるものであり、この一週間でかなり感化されてしまったようだ。
そんな様にクラーラはぷっと笑う。
「あはは!!盗むってまさかお義姉ちゃんからそんな発想でてくるなんて……で、一つ聞きたいけど技はともかく知識まで盗む事出来るの?」
「えっと……そこはクラーラ頼りになっちゃうかなっと……モジモジモジ」
「あーやっぱりね。でもいいよ。私は知識を盗むことに集中するから、お義姉ちゃんは技を盗む事に集中して。それで、デールマンは私達が1秒でも長く耐えれるように守って」
「いいよ。そもそも、ボクは種族的に攻めるより守る事で本領発揮するってご主人様が言ってたから、守りは任せて」
デールマンは魔女クレア曰く、付喪神と呼ばれる精霊の一種。
持ち主から大事にされてきた道具に宿る精霊であり、持ち主への恩を返すために持ち主の身代わりとして災厄を引き受けることもある。
だから、デールマンに防御を任せれば二人はより一層盗むことに集中できる。
「よし、方針が決まったら今日最後の激突……行くわよ!!」
「「おー!!」」
アーデルの号令の元、各々準備を進める中でクラーラはふっと我に返る。
(ちょっと待って!?デールマンに防御を任せるとか私何考えてるの?そもそもこれ勝負といっても武力行使なんて……あーそうか、私もこの空気に感化されてきたんだ。
でも、まぁいっか。ここじゃ考えるより感じる事こそが重要。成り行きに身を任せつつ、私のやるべきことをやっていこう、うん)
考えるな。感じろ。
これは一体誰の言葉か不明ながらも、今のクラーラにとってはもっとも重視すべき言葉。
だからこそ、今は何も考えず……
心を無にする。
そして……
「「「じぇっとすとりーむあたぁぁぁぁぁぁっく!!」」」
「力の波~!!」
うぼぁー!! うぼぁー! うぼぁー……
クルクルクルキリキリキリ………
ズシャー
衝突時こそ違うも、結末そのものは全く変わり映えすることなく3人は折り重なるようにして地面に激突した。
その際にクラーラは感じていた。
理性的な目で盗んだ知識と共に、無意識で感じ取った事で得られた“ナニカ”を……
それが何かわからない……が、クラーラは直感で思う。
それこそが、勝利の鍵になる。
だが……
「もう……だめ……ぐふっ」
幾度となく繰り返された激突にクラーラのライフは持たなかったようだ。
0になると同時にその意識を消失させたのであった。
もっとも、ライフが0になったのはクラーラだけでなくアーデルとデールマンも同様。
3人は折り重なったまま、ピクリとも動くことはなかった。
「今日の修行はこれでおしまい。続きはまた明日にしましょうか……オニオンちゃん、3人を回収して介抱しなさい」
「ケケケ、了解だ。今は天使が絶えず訪れてくれるから手間かからずで助かるぜ」
こうして本日の修行は終わるのであった。
死にかけては回復、死にかけては回復……
もはや戦闘民族御用達のFF2式修行と同じ発想であるw




