182.おかしい……やっぱりおかしい(SIDE:メイ)
おかしいのは登場人物の大半が該当します……
っというのが、作者の本音である(爆)
「お客様。湯加減どうでしょうか?」
「ふん。まだまだぬるいな。俺は熱いのが好みだ、もっと火をくべろ」
「わかった。ユキ、火力アップ」
「おっけーファイヤー!!」
(おかしい……やっぱりおかしい)
メイは目の前の男、実妹であるユキとマイから釜茹での拷問を受けているクズの様子をじっと観察していた。
初日の拷問では感情的になりすぎて危うく殺しかけた。
去り際に隣室で控えていた神官と治療師に必要最低限の手当を命じたわけだが、今朝のクズは必要最低限ではなく必要最大限の治療を受けたかのようにぴんぴんしていた。
多少不可解な部分こそあれど、拷問をしない選択肢はない。よってメイはユキとマイと共に昨日の拷問の続きを行うが、クズの様子は昨日とはあからさまに違っていた。
わざと神経を逆撫でするかのような発言でやり過ぎた拷問を行うように誘導してるような気配がある。
クズの身に何が起きたのか……
一体なぜさらなる拷問を求めてるのか……
相手がただの人間であれば、そこまで気を張る必要性はない。
何か企みがあるならそれを吐かせればいい。
そのための拷問であり、口を割らせる手段も元暗部だった父ラリーやどうみても拷問技としか思えないマッサージテクニックを多数持つアムル辺境伯夫人ユリア改めユリネからみっちりと教え込まれてる。
だが、相手は力を消失したとはいえ元『魔王』。
背後に強大な国力と武力を持つ帝国や魔王退治の専門家である幾多の勇者を翻弄し続けている『悪魔王』が控えている可能性を考えると慎重にならざるを得ないのだ。
だからこそメイは予定を変更。拷問に参加するのではなく、一歩離れた位置での様子見に徹した。
常人には感じ取れない力の流れを見る目でもって徹底的にクズを観察した事で一つの結論を出す。
「ユキ、マイ。ちょっと休憩しましょうか」
「わかった」
「後よろしく」
助手として付いてきてもらっていたアムル家お抱えの私兵達に後を托し、素直に引き下がるユキとマイ。
その際にクズから「おやおや、この程度でばてるとは情けないなぁ」と煽られるも、ここで冷静さを失えば負けだ。
だからクズの事は一切合切無視し、一度外に出て隣室へと入る。
「メイお姉ちゃん。クズに関して何かわかったの?」
「そうね……私の意見より先に二人の意見を聞きたいわ。二人とも魔法の力は私より上なのだから」
「メイ姉様、力は私達より劣ってても技量は遥か上」
「うん。メイお姉ちゃんは私達みたく炎や氷を大火力でぶつけない代わりに風を徹底的に研ぎ澄ました一撃でずんばらりんだもんね。文字通りの」
「風の力を纏わせた手刀、大岩だけでなく背後の木々や大地まで真っ二つにする程の切れ味あるのになぜわざわざナイフ使うのか」
「二人は手に炎や氷を宿して脅すでしょう。それと同様で私はナイフを警告として使ってるのよ……炎や氷と違って手に風を纏わせただけで怯える人はあまり居ないわけだし」
「あーなるほど。それは納得」
「疑問解決したところで質問の答え……クズに“闇”の気配はある。と同時に“光”の気配ある」
「うん。マイの言う通り、それは私も感じた。“闇”に対して“光”が抗おうとしてる……クズのどこに“光”あるんだかなんだけど」
「二人とも私と同じように、クズの中に“闇”と“光”を感じってるのね……ただ私の場合は……」
メイはユキとマイと違って観察に集中していた。
なので二人よりも深い所で“闇”と“光”を感じていた。
だから一つの結論を出していた。
「あくまで予想だけど、クズの中で『天使と悪魔の葛藤』が起きてるのかもしれないわ」
天使と悪魔の葛藤。
それは悪魔の誘いを天使が止めに入る事で勃発する、悪魔と天使の争いだ。
だが、それを起こすには悪と善のどちらに転がるかわからない拮抗した精神状態が必須。
クズはもうすでに悪魔の誘いにどっぷり浸かっているのだ。
そんな人間に態々天使が現われるはずがない。
よって、ユキとマイの反応は……
「「おまえは何を言っているんだ……」」
である。
「ですよねー自分で言っといてあれなんだけど、私も『これはないわー』って思ってるのよ。だから忘れて頂戴」
そんなわけで『天使と悪魔の葛藤』はありえない仮説ということで却下された。
その一方、クズの精神世界では
「デルフリさん。悪魔の戯言なんかに耳を傾けてはなりません!早く目を覚まして現実を受け入れるのです!!!」
「その言葉、そっくりお返ししましょう。デルフリ様、天使の戯言に耳を傾けてはなりません。私の言う通りにすれば、あなたには世界を手にする力が手に入るのですからね」
メイがありえないっと却下した仮説通り、天使と悪魔がクズをはさんでの舌戦を繰り広げられていた。
天使と悪魔が頭の上で言い争う。
なーろっぱ以前の古き良き描写だけど、なーろっぱでは更なる派生が生まれてるわけで……
果たして、クズはどんな争いと結末を迎えてくれるのか、そうご期待くださいw




