178.修行の方向性がわかれば、後は目標に向かって突撃するだけ!!簡単な話じゃない、ね(SIDE:アーデル)
突撃あるのみ!!
いや、聖女が突撃してどうするねんって言いたいけど、あの黄金の牛さんを召喚するような聖女だから……
問題ないのかな?
クレアお姉さんから課せられた地獄のような修行。その前段階とされた修行は『南国の無人島で一週間サバイバル生活をせよ』であった。
ごく一般の貴族令嬢では到底こなせそうにない修行であっても、辺境の僻地が領土であるアムル家では読み書き計算と共に必須ともされていた修行でもある。
クラーラも病弱な頃は実施こそできなくても本を読むことで知識を蓄えて来たし、健康になった後はアーデルと共に何度か経験をしている。
つまり、二人にとってサバイバル生活は慣れっこなのだ。
それでも命の危険が全くないわけでない。
指定された無人島は未知ともいうべき生態系が跋扈する前人未到の地なだけあって何が危険で何が安全か全てが不鮮明。
襲撃や毒物といった大抵の危険はフィジカルだけで解決できるアーデルなら問題なくとも、クラーラに無茶は出来ない。
アーデルはクラーラを守るために食料集めやら寝床の準備などあらゆる事を率先してこなしたのだが、それらの行動をクラーラが次々と駄目出ししてきた。
『お義姉ちゃん!!前々から何度も言ってるけど、お義姉ちゃんの身体は別格だってのをいい加減自覚して』っと、呆れ半分でアーデルの集めた食材を改めて精査したり寝床を作り直していく姿はいつも通り……
アーデルの行動にクラーラが逐一修正を入れてより安全性を高める、全くいつも通りの調子で一週間のサバイバル生活を乗り越えたいったのである。
そうしたサバイバル生活をしていく中、アーデルは余暇の時間に情報共有として⑨年前の出来事。
当時は覚えていたら余計な騒動に巻き込まれかねないからっと帰還時に忘却させられていた当時の出来事。
曾祖母でもあるクレアお姉さんにデールを代価として渡す事でクラーラの治療を引き受けてもらった事も語った。
対してクラーラもこの段階まできたらもう隠す必要はないからっと今まで誰にも明かさなかった秘密を全て語ってくれた。
その話はクラーラの病についてだった。
クラーラの病は解明できない謎の奇病とされていたが、その原因は過剰な聖女としての加護だったらしい。
身体に浮かんでいた醜い痣は聖女の力を抑える呪い……本来は悪の道に走る聖女を戒めるための呪印であり、何の罪を犯してない赤子に刻むものではない。だが、当時は呪印で聖女の力を押さえつけなければクラーラの命だけで済まない災害。王国一帯がシャレにならない災害を引き起こしかけていたため、やむを得ず呪印を刻まなければいけなかったそうだ。
その辺りの事情を教えてくれたのはアンコと名乗ったおせっかいな死神であり、クラーラはその死神と交流する内に聖女の力の一部。神や精霊のような不可視の存在と交信する力に目覚めたそうだ。
アーデルが拾えなかったデールマンの声が聞こえてたのも、その交信の力を持ってたからできた事らしい。
そうしたクラーラが今の今まで誰にも話さなかった秘密を全てさらけ出してくれた。
なお、その秘密の中には⑨年前にアーデル自身も不可解と思われるような暴走の原因の真相も含まれていた。
あれは、クラーラの中に宿っていた聖女の力を豊富に含んでいた血を大量に被ったのが原因だったそうだ。
「死神のアンコさん曰く、聖女の血は特別な力を秘めてるみたい。当初は半信半疑だったけど私の血を大量に浴びたお義姉ちゃんの暴走具合やデールが付喪神……精霊に目覚めた経緯を考えると本当だったとみていいかも」
「そ、そう……長年不可解と思ってた謎がこんな形で解明されたなんて」
「私も黙っててごめん。でも、私の血も含めた聖女の力は神様達にとって相当なイレギュラーだったそうだし、下手に効力が知れ渡ったら動乱の発端になりかねないからよほどの事がない限りは黙っておくほうがいいっと言われてたの。だから今の今まで言えなかったわけで……」
「大丈夫よ。この話はここだけの話にしておくし、もし他者に知れ渡ったら物理的に口封じしてあげるわ。バキボキバキボキバキィ」
「それは洒落にならないからやめて」
もちろんアーデル自身、本当に物理的な口封じを行うつもりはない。
あくまで今の所で場合によっては……
そんな考えを見越してか、クラーラはそういえばっと語り始めた。
「実は言うとね。デールはクレア様の手に渡った後も私達の様子を探るという名目で定期的に様子を見に来てたの。
それでね~帝国へ留学中のお義姉ちゃんの動向を正確に把握してたのはデールを通してだったんだよね~。いや~お義姉ちゃん向こうでハイド様と何度も夕べはお楽しみしてたなんて……」
「えっ……?」
お楽しみと言われて、アーデルはついつい武術大会の事を思い出す。その時は……
「特に武術大会の晩なんか凄かったって聞いたよ。なんでもベットの上で激しく(筋トレを)やりあっただなんて、お義姉ちゃんも」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!」
まさに顔から火が出るとはこのこと。
その後もクラーラは遠慮なく留学中どころか王都での生活を……
本来ならクラーラが知りえるはずのない恥ずかしい出来事をサバイバル生活中にずっと聞かされる羽目になった。
……………………
「そんなサバイバル生活を行う内に……過去を暴露されたりしてる内に思い出したのよね。
王都での淑女教育や王太子妃教育を受ける過程で忘れてしまった童心を取り戻すような感覚を……」
「いや、あれは童心っていうより野生だからね!!」
湯舟の中でサバイバル生活含む過去をしみじみ思い出してたのだが、そこへクラーラから突っ込みが入った。
どうやら考えてた事を無意識に口へと出してたようだ。最初はうかつだったと思ったが、クラーラに考えが漏れた程度なら問題ないかっと頭を切り替えた上でにやりと笑う。
「あれが『野生』だというなら、それはそれで結構。だって、『野生』こそが私の原点で『聖女』の力の源なのは確実だもの!!
修行の方向性がわかれば、後は目標に向かって突撃するだけ!!簡単な話じゃない、ね」
「その方向性がおかしすぎるんだけど……いやまぁお義姉ちゃんに宿ってる聖女の力は元々私が持ってたものだし、それがお義姉ちゃんに渡ったのも私自身がお義姉ちゃんなら適切に扱えるって思っちゃったのが原因らしいしね。
でも、聖女の花形ともいえる“治癒の力”がまさか男であるヨーゼフお義兄ちゃんに渡るなんてやっぱり何かが……いや、それでも“治癒の力”を私の中で燻ぶらせておくぐらいなら有効利用できる人に渡す方がいいわけだしもういいや。すでに私の手から離れた力なんだから、私がどうこう言う権利ないだろうし当人の好きにやらせよう、うん」
クラーラは一人で悩んで一人で納得したようだ。
その後はお互い胸がどうとかくびれがどうとかっと温泉でおなじみのキャッキャウフフトークをしつつ、一週間のサバイバル生活で沁みついた汚れと疲れを落とすのであった。
そういえば今まではっきり描写させた事はなかったけど……
お義姉ちゃんは牛を連想させるだけあって、胸は立派なものをお持ちですw




