177.クラーラは関係ないのだからすぐに帰してあげてよ!!!(SIDE:アーデル)
だが断る!!
いや、それ絶対反省してないし、納得させる気すらないだろ。
そんな煽ってるとしか思えない返答にアーデルの怒りは有頂天。クラーラと同じくフォーク……ではなくテーブルを掴む。
不器用という自覚があるアーデルはフォークを狙い通りに当てられるとは到底思ってない。
よって、不器用でも当てられるであろうテーブルを感情のまま投げつけようとするも、そこをクラーラに制された。
「お義姉ちゃんも落ち着いて。こういったタイプは一度はぐらかされたらもう真相を聞き出せないと思ったほうがいい。だから今は引き下がるのが正解!!」
「で、でも……」
「お義姉ちゃんの怒りたい気持ちはわかるよ。それでもここは私に免じて矛を収めて。今は無理でもいつか絶対聞き出してやるから」
「……ここまで言われたら仕方ないわ。この件はクラーラに免じて矛を収めてあげるわ」
「よしよし、よく感情を抑えられてお姉さんうれしいわ。だからお礼に一つだけ真実を教えたげる……世の中理不尽な事だらけ。例え神であっても抗えない運命というものがある。今はそれだけで勘弁してね」
「はいはい、わかりました~……全く、とんだ聖女様だ事。皆に本性ばらしていい?」
「けけけ。もし“ボス”の正体をばらそうとしたら、お前を物理的にバラシて口封じするまどぁあああ?!」
グシャー
クラーラの説得に応じて一度は引き下がったアーデルではあったが、直後のオニオンの言葉に到底無視できないキーワードを耳に入れた瞬間、即座にテーブルをひっくり返してオニオンを潰した。
その一連の流れにクラーラも『あーあ。やっちゃった……』なんて表情をするが、同時に『まぁ仕方ないか』っとあえて黙認するかのような態度を取った。
だが、頭に血が上った状態のアーデルにとってクラーラの機敏なんて些細な問題。
今のアーデルが重要視してる事は、クラーラを物理的に口封じ……すなわち、殺す宣言をした悪魔にトドメを刺す事のみ。
よって、アーデルはさらなる追撃としてテーブル越しで足蹴しようとしたその瞬間……
パン!!
「はっ!?」
手鳴らしの音で頭に上り切っていた血の気が一瞬で消え去った。
燃え盛っていた業火を冷や水で強制的に沈下させられたかのごとき心情の変化にアーデルはつい惚けていると、再度パンパンっと手鳴らしの音が響く。
「はいはい。オニオンちゃんには後で私からよ~~っく言い聞かせておくから、少し落ち着きましょうね」
「あ……はい」
一体何が起きたのか、全く理解が及ばないながらもクレアお姉さんの口ぶりからしてこの人の仕業なのはわかった。だが、アーデルがわかるのはこの程度。
「全くもぅ。この子は口封じが必要といっても、先ほどの約束を自ら破棄するような発言は完全アウトでしょうに……ここは賄賂を渡すといった穏便に対処が思いつかなかったのかしら」
得体の知れない不気味さを感じるが、当人はアーデルの心情なんて知らんっとばかりにこみかみに手を置きながらふぅっと溜息混じりにぼやく。
その姿は悪戯好きの息子に手を焼くお母さんのような姿だ。アーデルもクズ関連で似たような経験あるし、冷静になった頭でよくよく思い返してみると、クレアお姉さんはクラーラに危害を与えるような発言を一切行ってない。
クラーラを無傷で帰すという約束を違える気はなさそうなので、大人しく席へとつく事にした。
だが、クラーラは違った。彼女は賄賂の言葉をチャンスとみたらしく、得物を狙う狩人のような目へと変化して畳みかけてきた。
「賄賂がもたえるならさっき出したタルトのレシピ。あれがほしいな~にやにや」
「その程度ならいいわ。元々あげてもいいかなっと思ってたものだし」
「ちっ、それなら別のたかればよかったかも」
「心配せずとも、これから二人に課す一か月の修行の成果次第でじゃタルトのレシピよりいいものがたくさん手に入る機会えられるわよ」
「ちょっと待って?!私も修行するの?!しかも一か月!!」
「そうよ!!修行するのは私だけで十分!!!クラーラは関係ないのだからすぐに帰してあげてよ!!!」
「帰してもいいけど、アーデルちゃんはデールマンちゃんの声が聞こえないのでしょ。通訳がなければ半年コースになっちゃうし、その間の女王不在なフランクフルト王国の統治どうなるかしらね~……居残り組も優秀だし一か月程度ならなんとかなるでしょうけど半年なら……くすくす」
「ぐぅぅ……子供の頃もそうだったけど、相変わらず意地悪い選択肢出すわね。しかも、その選択肢が聖女修行を行う事前提っていうのが……」
「うん。私もお義姉ちゃんが聖女なんてちょっと無理があると思うのだけど、本当に聖女の修行させるわけ?」
「もちろん。アーデルちゃんの場合はちょっと型破りな聖女になるけど、革命を迎えたばかりの不安定な小国の女王と兼任するなら型破りなぐらいが丁度いいはずよ。
だから……まず細かい事は考えず、地獄のような聖女修行をこなすことだけを考えましょうか。詳しい話はそれからよ」
こうして、初日の話は半分以上がクレアお姉さんに主導権を握られたままで終わった。
アーデルは釈然としない想いこそあっても、聖女の修行を終えた際に得られるメリットまで提示されてるのだ。
デメリットもそこまで酷いモノは提示されてないし、クラーラも報酬に釣られてかやる気になってるので、まずお試し的に一週間の軽い前段階修行を二人でこなす事となった。
まずは20キロの亀の甲羅を背負って牛乳配達。
その後は素手で土を耕して、エ□本を読んで、穴掘ったり埋めたりして、すっぱだかになって泳いで、縄で縛られた状態で敵から逃げる……
あるぇ~?なんかこれ、すっごいいかがわしい修行内容になってるような????




