173.なるほど。さっぱりわからん。(SIDE:アーデル)
お義姉ちゃん達も常識外れではあるけど、所詮は人間の範疇。
それゆえに人外の思考回路なんて、わからなくて当然であるw
曾祖母……といってもその見た目は30歳程だ。到底18歳の曾孫が居るとは思えないほどに若々しい。
(でも、あの姿は『若返りの薬』で若返ってるだけで実年齢は100歳超えてるのよね)
⑨年前も到底信じられないっと言ったら、実際に薬を飲んで10歳前後まで若返る事で証明したのだ。
そこまでされたら信じるしかない……が、だからといって真正面からお婆ちゃんなんて口にできない。
もし口にしたら最後、どんな目に合わされるかわかったものでないからだ。
事実、アーデルも⑨年前の初対面時につい『お婆ちゃん』と言ったら笑ってるけど笑ってない顔で『お姉さん』呼びを強要された。
よって、アーデルは曾祖母と言わずに魔女のお姉さんっと称するのである。
だが、今はそんなことどうでもいいだろう。
「さてっと、まずは何から話そうかしらね……」
アーデルがあれこれ考え事をしてるうちに、テーブルの上には人数分のお茶とお菓子の用意が終わってたようだ。魔女のお姉さんは席に付き、これから世間話をするかのような軽い調子で語りはじめる。
「ボス、まずは質問に答える形でいいんじゃねーのか?特に姉の方はいまいち理解が追いついてなさそうしな」
「じゃぁそういう形にしようかしら?義妹ちゃんもそれでいいわね」
「それでいいよ。私は道すがらデール……いや、今はデールマンって言うのかな。お義姉ちゃんに昔あげた人形の付喪神となってたデールマンから道すがらいろいろ事情聞いてたし、今はお義姉ちゃんの方を優先してあげて」
「なら、お義姉ちゃんに話の主導権を渡そうかしら。まず何から聞きたい?」
「では聞きます……隣にさらっと加わってる褐色肌の少年は誰?!それと目の前のケーキとお茶は大丈夫なの!!?というか、少年に渡してるお茶なんなの!!!?蠢くだけじゃなく怨念のような声が響いてるじゃない!!!」
「あらあら~一気に捲し立てて来たわね~少しは落ち着きなさいな」
「ケケケ。もしかしてこのお茶がほしいのか?だったら分けてやらんでもないぜ」
「こらこら、オニオンちゃんも冗談はよしなさい。それは平凡な人間が魔王化出来るように調整したものと違って未調整なのだから、そのまま飲ませたら大変な事が起きる事ぐらいわかってるでしょ」
「わかってるぜ。確か付与される魔王の力に身体が耐えきれずドロドロと溶けてスライムみたいな軟体生物になっちまうんだろ」
「運が悪ければそうなるけど、万が一適合なんかしちゃったら30メートルを超える大怪獣になっちゃうわよ。私も昔に力を欲したある人間にそれを飲ませたら、その30メートルを超える大怪獣になった挙句に理性無くして大暴れ。討伐はもちろんの事、証拠隠滅含む諸々の後始末で大変な思いしたのだから、それを絶対人間に飲ませないように」
「おいおい、そんな危険物を俺に飲ませようっていうのかよ」
「人間じゃなく悪魔なら問題ないわよ……たぶん」
「たぶんかよ!?」
「嫌なら飲まなくてもいいわよ」
「いや飲むぜ。ごくごくごく……あーうめー」
「えっと……」
「あーごめんなさい。お義姉ちゃんの質問に答えないといけなかったわね。まずあの子はオニオンよ。あのクズに取りついて魔王へと変えた『悪魔王』のオニオン。少年の姿は私が従えてる悪魔の一人、皆から『悪魔博士』って呼ばれてるサツマちゃんが作った人造の身体に憑依してるの。
ちなみに私のこの身体もサツマちゃんが作ってくれたものなのよ」
「そういうことだ。お前らも実態のない悪魔の姿よりこっちの方が話しやすいだろ…………メタな意味でも」
なるほど。さっぱりわからん。
アーデルはそう思うも、ここで突っ込んだら負けな気がしたのであえてスルーする。
というか、アーデルは元から考えるより先に動く性質だ。
最初のインパクトが強烈過ぎてついつい突っ込んでしまったが、らしくないからっと開き直るかのごとく目の前に出されていたお菓子……モモのタルトをフォークでぶっさしてかぶりつく。
毒が入ってようとも、気合で無理やり解毒すれば問題ない。
そんな思いで口にしたタルトは、熟したモモを包む生クリームと固い生地が非常にマッチした、素朴ながらもどこかなつかしさを感じるような味だった。
つまりは……
「美味しい……」
「ふふふ。口にあってくれてよかったわ。さっ、見ての通り毒なんて入れてないから義妹ちゃんも安心して食べなさい」
「じゃぁ遠慮なく頂きます。クレアお姉さん」
自己紹介時にアーデルとクラーラは名前を名乗ったのに、魔女のお姉さんは名前を名乗らずただ『悪い魔女』としか言わなかった。
しかし、クラーラから『クレア』と呼ばれた事で魔女のお姉さんはにこやかながらも、その目に少し鋭さが増した。
その空気の変化にアーデルは静かに椅子を後ろに引くも、即座にクラーラが止めた。
ここは私に任せろっと仕草で制してきたので、アーデルは逡巡の後に大人しく座る選択を取る。
義姉からの了承を取ったことで、クラーラは改めてお姉さんと対峙した。
「さて、まずはおせっかいですけど、そんな怖い目で睨んだら美人が台無しになっちゃいますよ」
変態紳士M「お前は何を言ってるんだ?美人が怖い顔で睨んだ程度で台無しになるわけがないじゃないですか。むしろ、我々の業界では最高のご褒美!!」
侍女K「などと言っております。女王(仮)様」
女王(仮)R「なるほど。(アムル家の)矯正施設送りね」




