172.だってここじゃ次期王太子妃や女王代理なんて肩書が全く意味なしてないし~いい加減になっても仕方ないじゃな~い(SIDE:アーデル)
お義姉ちゃん……あなた様は最初っからいい加減じゃありませんでしたっけ?
「ここに来てもう一週間……なんだかあっという間ね」
「そう感じるのはお義姉ちゃんだけでしょ。私はまだ一週間しかっというより、国の心配しなくていいの?」
「大丈夫大丈夫。ロッテンとマイヤーは私よりも政務に向いてるし、私が居なくてもなんとかしてくれるはずでしょ……たぶん」
「たぶんって……お義姉ちゃん、ここに来てからずいぶんいい加減になってきてない?」
「そ~かもね~だってここじゃ次期王太子妃や女王代理なんて肩書が全く意味なしてないし~いい加減になっても仕方ないじゃな~い」
「あ~もうだめだ~~おしまいだ~~すっかり堕落しちゃった~しくしくしく」
堕落したっとクラーラは嘆くも、アーデルは気にしなかった。
これがあの人の策略だと気付いてようとも、温泉の湯舟という魅力に抗う事などできないのである。
とはいえ……
アーデルは別に骨の髄まで堕落しきる気はなかった。
特に一週間前の調停式で最後の最後に冒した失態。
魔物の山が崩れた事で出来た隙を見事につかれたせいで、魂を抜かれた挙句にこんなとこまで連れて来られたわけだ。
(まぁあそこで拉致に失敗してても、結局ここへ連れて来られるシナリオは変わりなさそうっていうのがねぇ……ぶくぶくぶく)
アーデルは顔の下半分を湯舟に浸からせながら、一週間前を思い出しはじめた。
「貴様!!何者だ!!アーデル様とクラーラ嬢に何しようとした!!!」
“ミテワカラナイノカ?フタリノタマシイヲヌカセテモラッタダケダ”
(えっ、何々?この状況なんなんの!!!?)
アーデルは魂を抜かれた状態ながらも、悪魔の手の中で周囲の様子は見聞きできる状態だった。
そのせいでクラーラが崩れ去る姿を目撃してしまい、瞬間頭が真っ白になってしまった。
いつもなら衝動的に暴れまくる所であるも、その暴れるための肉体がないため何もできず……
それでも意識だけは大暴れしていたので、結果としてあの後何があったのか全く頭に入ってなかった。
「ツイタゾ。後アトハジブンノアシデタテ」
それからしばらくして、悪魔から促された事でアーデルは正気に戻った。
気付けば、自分は見知らぬ所に連れ込まれた……わけではなかった。
「ここは……?」
「オレタチノ“ボス”ノリョウイキダ」
「領域……」
アーデルは改めて周囲を見渡す。
左右に広がる木々から、どこか森の中なのはわかる。
鬱蒼と茂った森ではあるも、目の前に続く道は簡易的ながらも整備された跡がある……
アーデルは薄っすらとだが、ここに見覚えがあった。
⑨年前のあの日、クラーラを治せるであろうお母さんのお母さんのお母さん…
曾祖母の元へと向かっていた際に通った道だ。
あの時はわけもわからずであったが、それは今回も同様。
なぜ自分がここに居るのか理解が及ばなかった。
「オモイデニヒタッテルトコロワルイガ、“ボス”ガオマチダ。ツイテコイ」
「待って!!貴方の言う“ボス”って……?」
「シリタイナラジブンンデタシカメルンダナ」
「わかったわ」
そう言い残した悪魔は歩き出し、その背をクラーラが疑問も持たずに続くのでアーデルも仕方なく後を追う。
(ダメダメ。いろいろ考える事が多いけど、優先順位を間違えてはいけない。そう……私が一番に優先すべき事項。それは……)
「お義姉ちゃん、あの悪魔の“ボス”に開口一番で『私はどうなってもいいから、義妹にだけは手を出さないで!!』なんて言う気じゃない?」
「ぎくぅ~~!!ケ、ケッシテソンナコトハカンガエテオリマセンワ……」
「どうだか……」
お前の考えてる事はお見通しっとばかりにジト目で睨まれるクラーラにアーデルは焦る。
焦りながらも、必死に頭をまわす。
(慌てるな!!まだ慌てるような時間ではない。プランAが駄目でもプランBがある!!私はプランBに……)
「お義姉ちゃん……破れかぶれの特攻かまそうとしたら、その頭を引っ掴んでそのまま全体重かけて顔面を地面に叩きつけちゃうからね」
「ぎくぎくぅぅぅぅぅぅうぅぅう!!!?ケケケケケケシテテテソンナコトトトハハハハ」
「うんわかった。私の事どう扱う気なのかよ~っくわかったから、私の意見言わせてもらうよ。
私の幸せはお義姉ちゃんの幸せあってこそなの!!お義姉ちゃんが悪魔の生贄になるなら、私も一緒に生贄になるからね!!!」
「で、でも……」
「でももなにもない!!!これは決定事項!!いいよね!!!」
「……わかったわ」
クラーラは分の悪い勝負だとあっさり手を引く癖があっても、たまに引かない時がある。
例え分の悪い勝負であっても引かないと決意したら頑として引かないのだ。そうなったクラーラへの説得は文字通りの意味を含めて骨が折れる事を経験上理解してるのでアーデルは仕方なく引き下がる。
そうなると、次に取れる手段は……
悪魔との“ボス”と交渉だ。
なんとか交渉して穏便に帰してもらう方向へと持っていく。
クズを魔王に変えてしまうような悪魔を従える“ボス”相手に穏便な交渉なんて無理難題ながらも、アーデルはそれが不可能ではないと思っていた。
っというより、徐々に思い出してきた記憶通りならそこまで無理難題にならない……ような気がする。
まだまだ楽観視できない状況ながらも、この先に居るのが“あの人”であればまだ希望がある。
決してあきらめるな!!
アーデルがそう決意を固めてる内に森を抜けたようだ。
抜けた先にあったのは、大きな木だ。
淡い淡いピンクの小さな花びらが満開に咲いた、どこかでみたことあるような木。
風が吹く度に花びらが舞い散る中、木の根本に建つのはこじんまりとした一軒の小屋。
(ここは……やっぱりあの時の!!)
「“ボス”。タダイマカエッタゼ」
心の準備をする間もなく、悪魔は無造作に扉を開けて中に入ったのでアーデルも覚悟を決める。
「お邪魔します……」
悪魔に続いて中に入った。
そこに居たのは……
「いらっしゃい。⑨年前は悪い子だったお嬢ちゃんとその義妹ちゃん」
記憶通りの……黒いローブに黒いとんがり帽子と絵に描いたかのような魔女の姿をした曾祖母改めお姉さんだった。
初期から度々話題にでてた曾祖母の魔女様、ついに登場。
ちなみに、この人は当初だとかなり初期に出す予定だったけど諸々の理由で描写を軒並み削られたり後ろに回されたりで、気が付けば第三章まで引っ張っちゃいました。てへぺろ(笑)




