16⑨.ワシが最期にみせるのはアムル家が代々受け継いだ未来に託す筋肉……そして……アムル家の魂じゃぁぁぁぁぁぁ!!(SIDE:アル爺)
これぞまさしくシリアスな笑いであるw
異論は認めないwww
瀕死ながらも息はあるアーデルとなんらかの強いショックを受けて気を失ってるメイの2人を担ぎ、道を引き返していくアル爺。
その帰路の道も半分過ぎた頃、身体に異変が起き始めた。
「ぐっ……」
先ほどまで万能感あふれていた身体から急激に力が抜けていくのを感じた。
いきなりであれば驚く所であるも、事前に24時間というタイムリミットが定められてる事を知っていたアル爺は薬の効力が切れてきたのだと察した。
樹海のような危険地帯では、慌てれば死に直結する事を理解できていたアル爺は冷静に状況をみて……
「くく……このままでは間に合わぬな……」
絶体絶命なのだと理解した。
だが、慌てない。
「『行きは良い良い帰りは恐い』とは、誰の言葉じゃったかな……」
アル爺は言葉の由来を詳しく知らないが、この言葉は危険地帯を散策する者への教訓として広く伝わっていた。
アル爺自身、何度もこの教訓通りな危機に瀕した事がある。
何度も帰還を諦めざるを得ないようなピンチに陥っては、慌てる事なく冷静に勇気と根性。そして筋肉で打破してきた。
「そう、なんだかんだ言っても最後の最後に頼りとなるのは、筋肉……最後にモノを言うのは筋肉じゃよ……じゃから……」
急速に力が抜けていく筋肉に再度活を入れるため、アル爺は息を整える。そして……
「ワシが最期にみせるのはアムル家が代々受け継いだ未来に託す筋肉!!アムル家の魂じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カラダもってくれ!!『M・B・M・B』!!!
「爺さん!!しっかりしろ!!」
「死ぬな……死ぬんじゃない!!ここでくたばったら駄目だろ!!」
「ははは……すまぬ……死神の奴が迎えにきた……ワシはもうダメじゃ…………だが、二人は……無事なんじゃな?」
「あぁ!!医療の心得がある奴が診たが、二人とも衰弱こそしてても命に別状はないそうだ!!」
「さらにいえば、クラーラ嬢も一時危篤だったが回復どころか完治の兆しがみえたそうだ!!もう病で死ぬことはなくなったんだ!!」
「そうか……クラーラも無事だというなら……もう思い残す事は……いや……あるか……」
残されていた全ての力を絞り切り、もはや目もみえなくなったアル爺の今際に浮かんだのはもう一人の孫……
凄惨な現実に耐えきれず正気を失い、今なお夢心地の世界をさまよっているもう一人の孫……
ビィトの事だった。
(後は……後はあやつを正気に戻してやれれば……)
“いいものを見せてくれた礼だ。特別大サービスとして、その願いも叶えてやろう”
(……はっ?)
唐突に現れたスマホから発せられた謎の声。
意識が遠のき、気が付いた時には白い空間に居た。
そこには虚空をみつめながらぶつくさと何かをつぶやいてるビィトの姿があり……
「なんじゃこりはぁぁぁぁぁぁぁ!?」
なぜか置かれていた姿見に映っていたのは、全ての力を出し切った燃えカスのような老人ではない。
金髪の若い娘……死んだ直後であろう20歳頃のハイジだった。
一体なぜ自分がハイジの姿になったのかわからない。
状況はさっぱりわからないが……
“3分間待ってやる”
空中に浮かぶスマホからの声かけもあり、のんびりしてる暇はないと判断。
よってアル爺はなぜハイジの姿になったのかを考えるのではなく、ハイジとなった今は何をすべきかを考えた。
ゆっくり考えてる時間はないこともあり、アル爺は直感でハイジならこうしたであろう行動を起こした。
それは……
「何寝ぼけてんだごるぁ!!」
飛び上がって空中からの連続ヘッドバットでビィトの体制を崩し……
「アムル家に代々伝わりし48の殺人技の⑨極奥義のひと~つ!!」
足先で頭を挟み込んでまた飛び上がり、上下左右に振り回しながら……
「筋肉の復讐劇!!!」
地面へとたたきつける、荒療治ともいうべき治療を施す事であった。
こうして正気へと戻ったビィトだが、アル爺に残された時間はもうなかった。
それに、自分がアル爺だと正体を明かすよりハイジと思わせたままの方がいいと思い、多くを語らずただ一言……
「私が居なくなっても、しっかりしなさいよ」
孫として見てきたハイジならこう言い残すであろう言葉を残し……
“時間だ”
アル爺はもう思い残す事はないっとばかりに、正気を取り戻したビィトに笑いかけながら……ハイジの姿と共に、その意識を消失させた。
そして、あれから⑨年の月日が過ぎ……
「さぁもっと力を込めて回さんか!!貴様ら奴隷にはこの毎日8時間の労働が待ってるのだ!!今日の飯を腹いっぱい食いたいというなら、もっと根性入れてやれー!!」
一切の日が差さない地下の労働所にて、赤黒い肌で角を生やした鬼と呼ばれる極卒が『俺はテキトー伯爵子息だぞ!!』とか『そうだ!俺達貴族を不当に扱うなんて不敬罪だぞ!!』とかすでに何の役にも立たない貴族の特権を振りかざして働こうともしない新入りの奴隷達にビシバシと鞭を振るってる中……
「はっはっは。借金返済と美味い飯のためじゃ。トリネーよ、今日も一日仕事をがんばるぞい!!」
「あぁ、真面目に働けばそれだけ好待遇が得られるんだ。だから今日もよろしくな。アル爺さん」
サツマと名乗った悪魔が提供してくれた『若返りの薬』の代価として指定された10年の労働義務を果たすべく、新人であるトリネーと共に自ら謎の棒を手に取ってグルグル回しはじめる若干若返ったアル爺の姿があったそうだ。
最初こそ唐突に始まったアル爺の閑話。
なぜこのタイミングだったのかは、オチが害虫貴族の子息達の末路につながるからでした(笑)
っというわけで、これにて『第二章 王国革命からの害虫貴族駆除編』が終了。
次回から『第三章 義姉妹拉致からの帰還、そしてクズインガオホーからの超ざまぁ編』が始まります。
章を跨ぐ度にひどいざまぁな目に合わされるクズ。
次章ではどれだけひどいざまぁが繰り広げられるか、こうご期待くださいましw




