166.ふふ……ワシもついにお迎えが来たようじゃな(SIDE:アル爺)
閑話その2
アルプス山脈の中腹でスローライフしてたアルお爺ちゃんのお話です。
なぜこれが今この段階でって思うだろうけど、まぁそれなりの理由あってのこと……かも?
側妃ハイジの祖父であり、クラーラの曾祖父でもあるアル爺ことアルパインはアムル家の血筋に連なる者であった。
血の気の多い戦闘狂が生まれやすいアムル家の血縁者なだけあって、腕っぷしの高さは相当なもの。
その腕っぷしを生かし、若かりし頃は長年に渡ってモヒカン達とともにヒャッハーしまくってた。
そんなある日、アルプス山脈に異変を感知したのでその調査へと訪れたところ、奥地にて人気を避けるように暮らしていた少女……
見た目15歳前後なのに実年齢が30半ばという凄まじい若作りをした、何らかの事情を抱えた少女と出会った。
アルム辺境領は何かと訳ありな者の受け入れ先となってるので、流れ者自体は珍しくない。
それでも、彼女の場合は別格だった。
なにせ出身地が『ニホン』とかいう聞いたこともない地だったり、時々『イセカイテンセイ』とか『ラノベ』とか『スマホ』とかわけのわからない単語が出たり、貴族顔負けの高度な知識を持ってたり、何よりも……親族や配偶者から酷い裏切りを受けたせいか極度の人間不信に陥ってたのだ。
魔物が闊歩するような山の奥地で女子の一人暮らしなんて無謀だから、せめて麓へと降りるべきだっと論するも『私はここでスローライフするの!!ほっといて!!!』っと全く聞き入れず……
気が付けば、何かと世話焼くようになった。
最初は無碍なく追い払われるも、だからといって大人しく引き下がれなかった。
モヒカン達から男である旦那が世話焼きなんて余計悪化するだけっと言われようとも、毎日のように通い続けた。
そうした日々を1年続ければ、カズコと名乗ってくれた少女も少しずつ受け入れてくれるようになり……
3年後にはカズコのスローライフに感化されて同棲どころか息子まで授かってしまった。
若気……いや、40超えた男に若気もなにもないが、これをキッカケにカズコと籍を入れた。
この頃には魔物が闊歩していたアルプス山脈の中腹を圧倒的な力でもって制圧完了。その後はカズコ主導で山を文字通り切り開き、近場に生息してる魔物と互角に渡り合える程に気性が荒かった山羊や羊を力と威圧で屈服させ、家畜として育てる牧場を築き上げた。
アルプス山脈の清水や栄養価の高い薬草混じりの牧草を食べて育った山羊や羊の乳は美味であり、その乳から作るバターはチーズは絶品であった。もちろん肉も負けず劣らずの品質であり、その噂を聞きつけて求める者が殺到した。
人付き合いを最低限に済ましたいというカズコの要望により、麓に中継地となる開拓村、アルプス村を建設。村はバターやチーズの他にも近辺で採れる様々な収穫物を求める客や山を散策する冒険者達の拠点として大いに賑わった。
それから月日が流れ、70間近になった頃には息子が嫁を迎えて孫のハイジまで誕生と家族が増えるも……
世の中というのは平等だった。
新たな命が生まれれば失う命もある。幸福な時もあれば不幸な時もある。
最初はアルプス村の村長をしていた息子夫婦が伝染病で死に、息子夫婦を始めとした感染者達を看病していた妻カズコも感染したことで後を追うようにして死んだ。
しばらくは息子夫婦の忘れ形見ともいうべき孫ハイジと息子の妻の姉から託された幼子。やんごとない血筋ながらもお家騒動で命を狙われてたトビアス改めビィトとの3人暮らしとなり……
二人が王宮へと居を移し、いよいよ一人になったと思ったら現役を引退したモヒカン達が『爺さん、一人じゃ寂しいと思って越してきたぜ』っと妻子を引き連れて転がり込んできたのだ。
そんな感じで孤独とは無縁な生活を続けているうちに王となったビィトがハイジを側妃として迎えたとの連絡が届き、さらにハイジが将来の王となる曾孫のデルフリ殿下を生んだのだ。
そこからまたハイジが妊娠っと順調に家族が増えていくも、運命はやはり平等だった。
ハイジは二度目の出産時に死亡し、引き換えとして生み落とされた赤子は奇病に侵された奇径児。そんな現実を直面出来なかったビィトは正気を失い発狂してしまった。
アル爺はこの瞬間、二人の孫を失ってしまったといえよう。
曾孫にあたるデルフリはどうしようもないクズへと育ち、妹となるクラーラも命こそ助かっても先は長くない。
そして……
「ふふ……ワシもついにお迎えが来たようじゃな」
90間近に迫ったアル爺自身も先が長くない事を悟っていた。
さりげにお爺ちゃんはアムル家に連なる者であり、転生者を嫁に迎えてるという割と主人公属性持ちの人間でした。
なんで、この連載が終わったらお爺ちゃん達のスローライフものを書いてみるのもよさげ……かも?




