157.俺達の街を、俺達の手で守るんだ!!!
主人公勢のピンチに民衆が立ち上がる!これぞ王道展開!!
異論は認めない(キリッ)
「貴方達は何をしてるのですか?戦わないのですか?」
未だに一歩を踏み出す勇気が出てこない民衆達に、後ろから一人の女商人が問いかけてきた。
「だ、だが……俺達程度では」
「俺達程度……ですか。元とはいえ国の象徴たる王や傷ついた老兵に戦わせといて、自分達は高みの見学とはいい身分な事です。これでは、害虫貴族達と変わりありませんね」
「な、なにを……」
「いいのですよ。誰だって痛い目をみたくないのはわかります。ですが、私はそれでも戦うつもりです。私たちの国を、街をこれ以上クズ達に荒らされたくありませんしね」
そうして一歩前に出る女商人ことシィプシィ。
その後ろに続くのはどうみても非戦闘員としかみえない面々。
中にはまだ年端もない子供すら居ても、彼等彼女達は戦う意思をみせていた。
「あーそうそう。もし戦うための武具がほしいというなら、そこらの店舗からかき集めてきました。後で請求なんてせこい真似なんて一切しませんので自由に使ってください。
……覚悟はいいですか!?まずは王様を救援します!!全速前進!!!!」
「「「「おー!!全速前進DA!!」」」」
言いたい事は全て言い終えたっとばかりに王の元へと突撃するシィプシィ達
後に残されたのは、シィプシィが伝えた通り雑多な武具を満載に積んだ荷車の数々。
しばらくは呆然とする中で民衆の一人、小さな女の子が一歩を踏み出した。
振るえる手で武器を掴みながらぽつりとつぶやく。
「お爺ちゃんを助けに行く」っと。
女の子は両親は魔物に目の前で殺されており、そのせいで魔物と戦う事に人一倍恐怖を抱いていた。
ましてや相手はその魔物が子供だましにみえてしまいかねない、化け物だ。
最初こそ怖くて震えてても、亡くなった両親に負けず劣らず愛情を注ぎながら育ててくれた祖父が血まみれながらも戦う姿にかつて両親の姿がダブり……無惨に殺される姿を何も出来ず、ただ眺めるだけだった無力な自分と決別したい想いがあったのだろう。
「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
覚悟を決めた女の子は、精一杯に自分を鼓舞させながら化け物の群れの中で奮戦し続ける祖父達の元へと向かっていく……
その後ろ姿が起爆剤となった。
「あんな小さい子まで、戦おうとしてるんだ」「俺達大人が何震えてんだ!!」「俺達も戦うぞ!!」
先ほどまで後一歩を踏み込めなかった大人達が次々に武器を手にし、女の子の後へと続いた。
例え個々の力は弱くても、数の力は馬鹿にならない。
一人では勝てない化け物相手でも、数人がかりで襲えば勝てるのだ。
さらにそれを女子供が行ったとなれば……
「逃げるんじゃない!!戦うんだ!!!」「力を合わせるんだ!!」「俺達の街を、俺達の手で守るんだ!!!」
他の民衆達も隠れ潜むのを止め、商人ギルドの者達がかき集めてきた武器を手にして立ち上がった。
こうして拮抗していた戦況は一気に傾いた。
無限に湧き出す化け物達も、それ以上の数で襲い掛かる民衆達相手では荷が重すぎた。
おまけに、立ち上がった民衆達を後押しするために天使が飛来して“祝福”まで授けたのだ。
数だけでなく質までも充実すれば化け物達は一溜りもない。
各所で勝どきが次々と上がり、士気もうなぎ上り。
この場に『絶望』に沈む者はいなかった。
そんな戦況の中でクズは……
「ナゼダ……ナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダ!!!!ナゼコウナルンダァァァァァァァ!!!!」
信じられないっとばかりに、ただ喚くだけだった。
“ナゼコウナル?オマエガフガイナイダケジャナイノカ?プークスクス”
そんなクズの喚きにしっかり応える『オニオン』。ただし、その言葉はどうみても嘲笑だった。
「きっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!貴様まで俺を笑うのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そんな態度にクズは激怒する。
だが、激怒したところで『オニオン』の態度は変わらない。
一応理由とすれば、確かに『オニオン』は力を与える代価として『絶望』を要求した。
だが、提供元までは指定してない。
つまり、クズ本人から『絶望』を回収しても全く問題なかったわけだ。
だからこそ、『オニオン』はよりクズが『絶望』できるよう、あえて嘲笑ってるのである。
それに、『オニオン』視点だと今の戦況はまだ慌てるような段階ではない。
なにせ、『オニオン』がクズに与えた“闇”の力の本質は負の力。『絶望』という名前の負の力が満ちれば満ちる程力を増す性質を持つ。すなわち、クズ自身が『絶望』に染まっても力は増すわけだ。
クズは自分が気付かない内に“闇”の力を増幅させており、闇の波動を強化するばかりか足元から続々と化け物のお代わりが生み出されていた。
戦いが長引けば長引くほど、王国側に疲労が溜まるし負傷で離脱者が増える。
今は王国側に天秤が傾いててもいずれは再度クズ側に偏るのだ。
打開するには発生源となるクズを叩くしかないのだが、クズが放つ闇の波動のせいで常人は近寄る事すらできない。
それが例え天使の“祝福”を受けた者であっても……だ。
真正面から立ち向かう7人は闇の波動を未だ防ぎきってるも、それだけ。
ただ、それは当たり前の話である。
そもそもの話、『マッスルディフェンダー』は殺人技と銘打ってるがその中身はただの防御技。
相手を一切傷つけない、傷つけることができないという、なぜこれが『殺人技』に数えられてるのかわからない技なのだ。
まぁアムル家に代々伝わっている48の殺人技は使い手や状況によって様々な派生技へと変化し続けているのだ。
その過程でひたすら耐える事に特化させた技が出来てもおかしくない。
そして、クズに立ち向かう7人がひたすら耐えるだけの殺人技『マッスルディフェンダー』を選んだ理由……
それは、自分達ではクズを倒せないっと正しく理解していたからだ。
力を得てもクズはクズだった。
でも、その得た力がシャレになってないから厄介でもある……




