156.我々には聖女王アーデル様が居るのだ!!!決して諦めるな!!(SIDE:トビアス)
王様は仲間を呼んだ。
しかし、誰も助けが来なかった……?
トビアスは当初、クズから放たれた闇のオーラに気圧されたせいで呆然としていた。
パニックこそ免れるも、完全に戦意を消失してた。
だが……
“何寝ぼけてんだ!ごるぁ!!”
(はっ!?)
脳天に衝撃を受けたかのような気がして、我に返った。
慌てて周囲を探る。何かを探すようにして周囲を見渡せばそこにあったのは……
『絶望』と化したクズに真向から立ち向かうアーデル達
そして、周囲に散った無数の化け物に抗う者達だった。
今は衛兵や冒険者達が奮戦してるおかげで戦況は拮抗していても、相手は際限なく次々と湧き出て来るのだ。
倒しても倒しても敵が減らない戦場は心身を容赦なく削り取る。
このままではいずれ瓦解する。
誰かがなんとかする必要があった。
だからこそトビアスはアーデルに鼓舞を入れてもらおうとした。
自分は前に出るタイプではない。裏方こそが自分の居場所なのだと思いながら口を開いたその瞬間……
“私が居なくなっても、しっかりしなさいよ”
不意に聞こえた声。
かつての夢の中で聞いたハイジの声が頭の中に響いた。
当時は寝ぼけていたトビアスに活を居れるための檄だった。
だが、今はあの時と状況が全く違う。
状況が違えば、意味合いも違う。
元々ハイジはとにかく考えなしに行動する癖もあって、のんびり考える時間を与えてくれない。
そのため、トビアスはハイジの意図を瞬時に汲み取った。
そう、今トビアスがすべきは……
「アーデルよ!!その手に持つ王錫を余によこせ!!!」
「えっ!?」
トビアスからの声かけにアーデルは意味がわからず惚けるも、逡巡は一瞬。
戦場での迷いは死に直結しかねないという教えが沁みついてくれてる事もあってか、言われるがまま王錫を投げつけてくれた。
その際、手加減なしに投擲されたせいで凄まじい速度で飛来するも……
どげぐきゃめきょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
「ぴぎゃぁ!?」
トビアスは都合よく襲い掛かってきた化け物を前面へと突き出して盾にした。
凄まじい音を立てながら背中にめり込んで貫通してた王錫をトビアスは背中からではなく胸から引き抜き、脳天に一撃を加えてトドメを刺す。
この一連のやり取りで王錫が見るも無残な形になってしまったが、関係ないっとばかりに頭上高くに掲げながらトビアスは吠える。
「皆の者!!『希望』は捨てるな!!!我々には聖女王アーデル様が居るのだ!!!決して諦めるな!!」
具体的な指示のない、希望的観測もいい所な鼓舞。
だが、今はこれでいい。
元とはいえ、国のトップであった王が王の証たる王錫を戦場のど真ん中で堂々と掲げる。
決して諦めてないっという姿をみせる。
困難に真正面から立ち向かう姿をみせる。
そうすれば、後に続く者が出てくれるはず。
そんな王の鼓舞に力強く応えてくれたのは……
「ヒャッハー!!その通りだぜー!!!俺達は聖女王アーデル様がいるんだーー!!」
「ヒャッハー!!寝てる場合じゃねー!!祭りはこれからだぜー!!」
「ヒャッハー!!太鼓がなければ、魔物を叩けばいいだけだぜー!!」
かつてアルプス山脈の牧場でビィトとして暮らしてた頃に交流していた元モヒカン達だった。
………………
彼等はビィトと交流していた頃こそ血気盛んなヒャッハーであったが、あれからすでに30年も経過してるのだ。
彼等はいつまでもヒャッハーしてるわけでなく、どこかのタイミングで結婚して子供を作り、家事や育児に没頭するというヒャッハーから遠ざかる生活を送るようになっていた。
そのため、初戦こそ善戦していてもブランクと加齢もあって早々に体力が尽きて重症を負い、後方へと下げられた。
到底戦線復帰できる有様でなかったが、トビアスの鼓舞を受けて再度立ち上った。
周囲の静止の声を聞かず、彼等はかつてのスタイルを……かつてアムル辺境領の各地をめぐっては数々のトラブルを対処していた頃のように、髪を血で無理やりモヒカンに固めながら『ヒャッハー!』っとばかりに王の元へと駆けつけていく。
先ほどの鼓舞のせいで、化け物からのヘイトを集めてしまって集中攻撃を受ける王の元へ……
民衆達は最初こそ彼等を愚かと論じた。
命を捨てるようなものだと……
何を無駄な事をしてるのかっと思うも、王達は無駄と思わなかった。
決して諦めず、見るも無残な有様となった王錫で化け物達の殴りつけながら周囲に鼓舞を続ける、かつては愚かとされていた前王トビアス。
そんなトビアスを支えるべく、文字通り身体を張って守り続ける元モヒカン達。
その姿に民衆達は思うところがあったが……
それでもまだ立ち向かうだけの勇気はまだ湧かなかった。
このモヒカン達、逆算すると今は50半ばぐらいなんだよねぇ……
なのにヒャッハーってこれは愚かっていうより、痛い大人というべきかもしんない(笑)




