151.そうだな……結婚できないのはわかった。だが、妹とは兄に尽くすものだろう(SIDE:クズ) ※ クズ5度目のざまぁ回(その7)
そんな妹はなーろっぱでも絶滅危惧種です。
仮にいても、高確率でヤンデレが入ったヤベー奴なので、どの道どうあがいても絶望な未来しかありません(キリッ)
「はぁ!?」
クズは固まった。
クラーラからの実の妹発言の意味が理解できず固まった。
なにせ、デルフリは妹が居るなんて話を聞いた事ないからだ。
だから出鱈目と思うも、クラーラは淡々と話し出す。
「信じられないって顔してるけどこれは事実。デルフリs……うん、あえてこう言おうか、お兄様も聞いた事あるでしょう。私達の実のお母様、側妃ハイジ様は二人目の出産の時に死んだって。その際に生まれた赤子も死産として発表されたけど、その赤子が私だったの」
「あ、あぁ。それぐらいは知ってる。だったらなぜ」
「生きてるのかって言いたいのでしょう?確かに生まれた直後の私は瀕死だったけどその場に居合わせていたシムズ婆様達の必死の処置で生きながらえる事が出来たの。その後は秘密裡にアムル辺境伯に養子として出されて、領地の屋敷で何年も養生してたの」
「そ、そうだった……のか」
クラーラは生まれながらの病弱で屋敷から出る事も叶わなかったのも聞いていた。
だが、デルフリはそれをアーデルから監禁されていたと解釈してたのだ。
実際に会ったクラーラは病弱とは思えないほどの健康体だったわけだし、クラーラを妬んだアーデルの嘘だと思ってた。
「病気が完治して健康体になったのは⑨歳の頃で、その前は本当に病弱だったの。アムル領にいけばその証拠なんてわんさか出てくるし、私自身も伝えたよね。昔は病弱だったと」
「それは……アーデルに脅されて監禁」
ぶちっ
何かがちぎれた音が聞こえた。
一体何がちぎれたのか、最初こそわからなかったがすぐに気付く。
左耳から走った激痛で、何がちぎれたかを……
「うん。アーデルお義姉様だけでなく私の言葉すらも信じないっていう腐った耳は二つも要らないよね。真実をみようともしない目と同様に」
激痛の中、残されていた左目に映っていたのは、クラーラの右手につかみ取られていた左耳の残骸をぽいっと無造作に投げ捨てる姿であった。
「さてっと、改めて言うね。私はデルフリお兄様とは同じ両親に生まれた兄妹なの。従兄妹同士であればまだしも兄妹同士なんてどうあがいても結婚できない。わかった?」
残された右耳で論するように話しかけるクラーラ。
その目は到底実の兄に向けるような代物でなかった。
態度も妹が兄に向けてのものではない。
そう、妹とは……
“イモウトトハ、アニニツクスモノダロウ?”
唐突に、脳裏へと浮かんだ言葉。
先ほどから何度か聞こえる謎の声にデルフリはハッと気付く。
(そうだ……妹とは兄に尽くす物だ!!)
その事実に気付いたデルフリは謎の声に導かれるがまま行動を起こした。
「そうだな……結婚できないのはわかった。だが、妹とは兄に尽くすものだろう」
「……はぁ?」
クラーラは怪訝な顔をする。
どうやらクラーラは自分の言葉がわかってないようなので、今度はこちらが論するかのごとく話し出す。
「言った通り、妹とは兄に尽くす存在!!兄の言葉は絶対であり逆らう事は許されず、どんな命令も従うモノだろう!!!
日々の世話はもちろん、夜の相手も兄が命じれば応えるのが妹だ!!
だからこそ命令する!!クラーラよ、まずはアーデルを殺せ!!殺してその王の座を兄である俺に捧げろ!!!
お前なら出来るだろう!!!なんせお前は常日頃からアーデルを憎んでると言ってたからな。俺が許すから今すぐ殺せ!!殺して……いや、半殺しにして俺の前に連れてこい!!!
あいつには俺をコケにした罪を償わせる必要がある!!楽に死なせてはやらん!!!!泣いて泣いて死を懇願するようになってからが本番とばかりに……」
夢我夢中で語るクズ。
何の躊躇もなく、これこそが真理っと言わんばかりにすらすらと淀義なく語るも、それは唐突に途切れた。
「死ね!!!」
ドゴン!!!
いきなり視界が真っ暗になった。
顔面へと襲われた強烈な痛みにクズは意識が吹っ飛んだ。
はずだった……?
……
…………
………………
「ここは……?」
気が付けば、デルフリは真っ白な空間の中にいた。
周囲には何も存在しない白く染め上げられた世界。
その白い空間の中で唯一の異物。
黒い……果てしなく黒い、異形の羽と角を携えた人もどきが宙に浮いていた。
「お前は……誰だ?」
“オレハオマエノノゾミヲカナエルモノダナ。オマエ……『チカラ』ガホシイノダロウ?”
「力……?」
“ソウダ、スベテヲテニスル『チカラ』。ウバワレタモノヲトリモドス『チカラ』……スベテヲテニスル『チカラ』ガホシイノダロウ?”
「力……それがあれば、全て取り戻せるのか?」
“モチロンダトモ。ソノカワリダイショウハイタダクガナ。オレガホシイノハ『ゼツボウ』ダ。『キボウ』ニミチアフレタモノガ『ゼツボウ』スルサマヲミセテクレルナラバスグニ『チカラ』ヲクレテヤロウ”
これは、正真正銘の悪魔の取引であった。
だが、この取引はクズにとって好都合であった。
悪魔との代価が希望に満ちた人間が絶望に堕ちる様とは、まさに今の状況に……
幸せ絶頂なアーデル達を叩きのめすだけで手に入るという絶好の条件にクズは震えあがる。
まさに神が……天が味方してくれたのだと察する。
「力をよこせ!!くれたならその絶望をすぐに与えてやる」
“イイヘンジダ……ナラバソレヲイッキニノミホセバイイ……”
どこからともなく取り出された瓶を放り投げて来る悪魔。
受け取った瓶の中身は毒々しい紫色をした何かだ。
あからさまに飲めばヤバイっと本能が危険信号を鳴らすも、悪魔はにやりと笑う。
“『チカラ』ガホシイノダロウ。ナラバノメバイイ。サスレバオマエハ『魔王』ニナレルゾ”
「ま、魔王……だと?!」
“ソウ、マオウダ……アージコショウカイガマダダッタナ。オレノナマエハ『オニオン』。オマエタチニンゲンガ『クールーラオロウ帝国』トヨンデルクニデイクドトナクアラワレテル『魔王』ハ、オレトトリヒキシタコトデナッタヤツラダ。マァ、ドイツモコイツモキタイハズレダッタガ……キサマナラオモシロイコトニナリソウダナ”
「……これを飲めば、アーデルに勝てるのだな」
「ソコマデハシラン。ダガ、オマエハノムシカナイダロウナ。ナニセオマエハジキニシヌカラナ」
「なにぃ!?どういうことだそれは!!」
「イマハオレノチカラデカロウジテイキテルガ、オレガハナレタソノシュンカンニオマエハシヌ……
イイカタヲカエヨウ。コノママシンデジゴクノゴウカニャカレルカ、クスリヲノンデ『魔王』ニウマレカワルカ。フタツニヒトツ……スキナホウヲエラベ」
「そうか。なら俺の答えは決まっている!!俺の答えは……」
デルフリは薬の蓋をあけ、一気に飲み干した。
そして……
この日、フランクフルト王国に新たな魔王が誕生した
俺は人間をやめるぞアーデルゥゥゥ!!!




