147.これは……昔無くしたと思ってた人形のデール!?
昔無くしたと思った物が思いがけない所からハケーン。
これはあるある……だよね?だよね?
「はっはっは!!アーデルよ、このような素晴らしいウェディングドレスを前にして何怖い顔をしてるというのだ?そのような顔をすれば皆が怖がるではないか」
「そ、そう……ね」
ハイドは話の流れに乗る事なく一歩離れた位置で皆のやりとりを……まぁ彼の場合はドレスの逸話や付与価値を一切合切無視して純粋にドレスそのものの価値で判断してるのだろう。
その単純明快ぶりは見習うモノがあるのでアーデルは一度全ての外部情報をリセット。
フラットな目でもってドレスを品定めした。
『神器』とも称される『“神の手”のウェディングドレス』。
型はAラインをベースとしたオーソドックスなもの。施された刺繍の飾り付けは花びらを模したシンプルなデザインであり、奇抜さはさほどない。
問題があるとすれば、ドレスそのものは一般女性サイズで作られているせいで、一般女性よりも高身長で腕回りやら胸部装甲やらが大きいアーデルが着るには大きな手直しが必要ということだろう。
(まぁ私サイズのドレスなんて普通置いてないから、手直しなんていつもの事なのだけど)
子どもの頃は大人サイズという逃げ道はあったし、普段着も男物に手を伸ばせばそれなりの選択肢がある。
だが、ドレスに関してはそうもいかない。
(クズ一派は私がドレスを毎回仕立てたりオーダメイドしたりで金かけすぎって騒いでたけど、私だって好きでやってるわけじゃないのよ。平均より小柄なおかげで選り取り見取りなクラーラと違って私に合うサイズのドレスは限られてるのだから必然的に……」
思わずぽろりと目から汗が流れ出てしまったので素早くふき取り……異変に気付いた。
(あれは……なに?)
再度目をこすってドレスを見つめる。一見では何もないようにみえるドレスの腰辺りに“ナニカ”が付属されているのに気付いた。
ほんのわずかに輪郭が浮かび上がる程度の、微かな気配を感じる程度の“ナニカ”
それでいて懐かしく感じる“ナニカ”……
幼い頃に無くしてしまった記憶の……魂の片割れのような“ナニカ”
その“ナニカ”が呼んでいた。
声が聞こえるなら返事をしてほしい……
手に触れてほしいっと……
アーデルは導かれるかのようにして手を伸ばす。
「アーデル?」
アーデルの異変に……動きに気付いたハイドが怪訝な声をあげるもその行動を止めるまではしない。
ただ何かあった時のためにすぐ動けるよう警戒を強める……
それが仇となってしまった。
アーデルがドレスの腰に付属されている“ナニカ”に触れた瞬間、
カッ!!
「きゃぁ!!?」
ドレスが一際強く輝いた
そのまぶしさに周囲は思わず目を覆う。
「うおっ!まぶしっ!!」
特にハイドはアーデルとドレスを注視しすぎて光をまともに食らったのだ。
目を押さえて『目が、目がぁぁぁぁ!!』っとのたうちまわりたい衝動にかられるも、衝動を気合と根性で抑え込んで光に包まれたアーデルに手を伸ばす。
目が見えずとも感触でアーデルの手を掴んだのがわかったので強引に引き寄せる。
引き寄せて抱き寄せる。
「アーデル!!大丈夫……か……」
「え、えぇ。なんと……か……?」
光の中から引き寄せられたアーデル。
アーデルは一体自分の身に何が起きたのかわからなかったが、何かあったのはわかる。
アーデルをみるハイドが驚愕の顔を浮かべてるのだ。
何があったのはわかる。
軽く周囲をみれば皆も同様、驚愕の顔を浮かべてるのがわかる。
一体なぜっと想い、自分に視線を向けると……
「はへっ?」
女王代理としてオーダメイドで仕立て上げられた、青を基準としたドレスが白を基準としたドレスに変わっていたために、つい間の抜けた声をあげてしまった。
「な、何これ?」
「何と言われたら、ウェディングドレスではないのか?」
「ウ、ウェディングドレス!!?」
ハイドからの指摘を受けた上で改めて再度自身の装いを確認するアーデル。
結果、ハイドの言葉通り今のアーデルはウェディングドレスを着こんだ姿だった。
ただし、ウェディングドレスといっても先ほどまで目の前にあった“神の手”のウェディングドレスとは違う。
あちらがAラインをベースとしたオーソドックスな型に対し、今アーデルが着てるのは高身長な花嫁に最適っとされているスレンダータイプの型だ。
スカートの広がりが少ないため足回りが動きずらいっと思いきや、横に大きく入ったスリットのおかげで問題なかった。
問題あるとすれば、スリットが大きすぎるせいで太ももの露出が激しい事であるも、アーデルにとっては別に大した問題ない。
さらに観察を続ければ、各所のには“神の手”のドレスと同じような花びらの刺繍が各所に施されている。
そんな中で一つだけ異物と言わんばかりの付属品があった。
それは人形だった。
腰の部分にアクセサリーのごとく付けられた人形。
黒い髪をした、所々赤い染みが残る不格好な女の子の人形。
だが、そこに負の空気はない。
不格好でも子どもが一生懸命に端正込めて作った事でしか宿らないであろう不思議な暖かに満ちていた。
そして……アーデルはその人形に見覚えがあった。
(これは……昔無くしたと思ってた人形のデール!?)
人形を掴めば独りでにドレスから離れてくれた事もあって問題なく目前まで持ってこれた。
間近で確認したら当時の記憶のままの人形が……
クラーラがアーデルをモデルにして作ったからデールと名付けた人形が……
もらって以降はどこに行くにも常に持ち歩いていた人形が……
あの運命の日を境にして紛失してしまった人形が……
今ここにあった。
一体なぜこんなとこにっと思うと……不意に頭痛が走り……。
“取引成立ね。この人形、デールちゃんと引き換えにお嬢ちゃんの可愛い義妹ちゃんの病を治してあげるわ”
アーデルは思い出した。
あの運命の日に出会った魔女……いや、曾祖母にクラーラの不治の病を治す代償として……
デールを差し出した事を……
先ほどから急展開ばっかりだけど、果たしてついてこれる人はどれだけいるのか……




