146.ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!すんません!!!知らなかったんですぅぅっぅぅぅぅぅぅぅう!!!!
無知とは罪である
“神の手”のウェディングドレス
それは、大国の王族にも匹敵するほどの影響力を持つとされる“神の手”のサクヤの結婚式のためだけに作られたとされる『神器』の一つ。
人類では全貌を解き明かす事が不可能な未知の素材で作られたという希少性もさることながら、着用者本人の功績も上乗せされたせいで値段の付けようがない程の価値があった。
それだけにこの『“神の手”のウェディングドレス』を身に着けた花嫁は神から祝福された花嫁の証明ともされている。
だが、その祝福は簡単に受けられない。
なにせ、このドレスは『神器』とされてるだけあって自らの着用者を選ぶのだ。
その条件は心が清い者なのかっと言われたら……別にそんな事ない。
自他ともに認められる清楚な聖女が拒否された事もあれば、数々の男たちを篭絡したような悪女が容認された事もある。
光魔法の使い手が拒否されて、闇魔法の使い手が容認された事もある。
そんな具合に、どんな基準で選ばれてるのかわからない……が、確かな事は一つ。
ドレスに着用を認められた者は、誰しもが神から祝福されるに相応しい“何か”を備えていたということだ。
そのため、『“神の手”のウェディングドレス』に選ばれた花嫁は一種のステータスともいえるのだが……
何事にも裏事情というものがある。
身に着ける者を選ぶこのウェディングドレスだが、元々は“神の手”のサクヤのために聖域の聖女が授けたものだ。
それゆえにサクヤの子ども……すなわち、サクヤの血縁者だとほぼ無条件と言ってもいいほどに容認される。
そして………
ロンジュが将来継ぐであろうサクラ商会の現商会長カスミは“神の手”のサクヤの娘、三女である。
そのため、サクヤの孫にあたるロンジュもドレスの裏事情をすでに把握済みというか……
(まぁユリア義母さんが30年前に死んだとされてたおふくろの下の姉であるユリネ叔母だから、必然的にアーデル義姉さんはサクヤ婆の血縁者になるんだよな)
当時はこの事実を知った時こそ驚いたが、30年前の王国での騒動を考えれば死の偽装もやむなしっと納得できた。
それに、死の偽装といっても親族のような身近な者達の間では公然の秘密扱いだったそうだ。
(秘密といっても、俺のおふくろとユリネ叔母は姉妹だけあって顔の作りとか雰囲気がそっくりだから大体の奴は血の繋がりを察せられるんだよな。
察せられないのはよほどの鈍感な奴なんだが……なんでその鈍感枠にアーデル義姉さんや義理の兄さん達が入るんだよ。本人から直接真相ばらされてようやく気付くってアムル家の連中の目には何か変なフィルターでもついてんのか?!)
ロンジュは心の中でそうぼやきつつも、今は新しく生まれ変わる王国への恩を売るチャンスだからっと頭を切り替える。
そう、これは恩を売るチャンスなのだだ。
なにせ、『“神の手”のウェディングドレス』は『神器』とされてるだけあって通常は持ち出し不可。
審査を受けるにも、まず当人が足を運ばないといけないのだ。
だが、今回は特別に持ち出しの許可が得られた。
まぁドレスを管理する側からしてみれば、非公式ながらも持ち主であるサクヤの孫にあたるアーデルへ便宜を図った程度。
特別扱いなんて当然だが、他者からすればそんな事情知るわけない。
つまり、フランクフルト王国の商業ギルド支部には隣国の『神器』を貸し出してもらえるだけのコネがあると対外にアピールできる機会となるのだ。
さらにアーデルは大国の王族ですらも平然と拒否される『神器』に選ばれたという箔を付ける事が出来る。これは1000年以上続いた王家の血筋に変わる外交の武器として通用する武器にもなりうるのだ。
アーデルも自分の母親が30年前の騒動の当事者でもあるユリネだった事を知らされて驚きはしたが、元々アムル辺境領は素性を隠した訳ありの受け皿となってる地だ。
例え身内だろうとも、事情あっての秘密ならばっとすんなり納得。ドレスの授与も孫特権を使わせてもらうだけなのだからっとロンジュの提案に乗ったのだが、ここで予想外の出来事が起きた。
「記録によればクールーラオロウ帝国の皇女がこのウェディングドレスに認められず拒否された事を逆恨みしてか戦争を起こしかけたという事例もあった程!!
さらにいえば、帝国が態々ブリギッテ第4皇女をフランクフルト王国へと嫁がせたのも、恥かかされたゴッドライフ領国に報復戦争を行うための橋頭保を築かせる策略の一つと言われており、交易路もそのために……」
「「「「「「…………(えっ?!あのドレスって帝国が報復戦争を引き起こそうとするぐらい価値あるものだったの?!)」」」」」」」
ヨハン大司教補佐は自身が述べたようにウェディングドレスを保管管理していたゴッドライフ領国の教会所属であり、今年70歳となるサクヤと同世代でもあったがためにドレスの価値や逸話をより詳しく理解していた。
その理解度は身内であるロンジュすらも超えるほど。
つまり、ロンジュはドレスの真の価値を見誤っており、そのロンジュ達から解説されたアーデル達も同様に価値を見誤っていたのだ。
まぁそれは血縁者として身近に接し過ぎたせいで本来の価値を低く見積もりすぎたという血縁者あるあるな話。ロンジュを責めるのは酷な話であるも、今回ばかりは規模が洒落になってなかった。
(お、おれ……もしかしてとんでもない品を持ち出して来ちゃった……のか?)
ロンジュ当人としては商業ギルドや王国に多大の恩を売りつけて後々の王国進出で便宜を図ってもらうためという、商戦での足がかりのつもりだったのだが……
実際は商戦どころでは済まされない大戦争に発展しかねない発端を作り出した可能性があるわけだ。
「「「「「「………(ちょ、ロンジュ!!あなたなんてもの持ち出して来たのよ!!!)」」」」」」
(ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!すんません!!!知らなかったんですぅぅっぅぅぅぅぅぅぅう!!!!)
アーデルを始めとした主な面々から一斉に睨まれた事もあり、ロンジュは想像の中でDO☆GE☆ZA!!で謝るのであった。
余談だけど、ロンジュ君が愛用してる刀は無名の名刀勇者の剣とほぼ同格の伝説クラス。
でも、実際に使ってる当人は無名の名刀程度にしか思ってなかったりする。
そんなわけで彼は戦闘力やら商談こそ一流だが、代償的に鑑定眼がへっぽこらしい。
といっても、そのへっぽこな鑑定眼だからこそ通常なら『どうあがいても絶望』しかないお義姉ちゃんを前にしても『この先に希望がある!!』っと誤認できて立ち向かえたのかも……?




