13.断罪劇からの婚約破棄なんて確かに面倒事だわ
断罪劇は悪役令嬢ものなら避けて通れないイベントの一つでもある。
「「はぁ……」」
アーデルがついた溜息は丁度隣に座るゼーゼマン公爵令嬢……
王国唯一の公爵家で宰相の父を持ち、自身も次期宰相となる事が内定してるロッテンとハモったようだ。だが、ロッテンはアーデルと溜息がハモった事を気にも留めず頭を抱え始める。
「……面倒なことになったわ」
「面倒なのはわかるけど、どの部分が面倒なわけなの?」
「婚約者のマイヤー曰く、あのクズは3日後に開催しろっと命令してきた懇親会でアーデルの断罪劇からの婚約破棄を行う腹積もりだそうよ」
そう言いながらロッテンはマイヤーが残した申請書とその裏に隠されていたメモをアーデルに渡す。
申請書に書かれてる懇親会は名目上『王国の未来を担う若者達と交流を深めるため』となってるのだが、メモには裏の目的。クズがアーデルにある事ない事でっち上げる断罪劇の計画内容がみっちりと網羅されていた。
「あーなるほど、断罪劇からの婚約破棄なんて確かに面倒事だわ」
「なら先手打って殺害してきましょうか?」
物騒な発言をしたのは幼少期の頃からアーデルの専属として仕えてきた侍女のメイである。
その手には太もものホルダーに収納していたナイフが握られており、アーデルの返答次第では即刻首を刈り取りにかかりかねないほどの殺気を放っていた。
というか、ナイフは先ほどクズが乱入した時点ですでに握られていたのだ。
影でアーデルが制してなかったら、今頃は会議室に赤い雨が降っていたであろう。
アーデルへの忠誠心が高すぎるせいで敵対する者には一切容赦しない、猛犬のような侍女メイにアーデルは改めてステイの命令を出す。
「とにかく、まずはあのクズの動向を探るためにあえてクズの取り巻きとなっているマイヤーが掴んでくれた情報を共有させておくわ。
クズの企み、断罪からの婚約破棄ってのは最近巷で流行ってる寸劇のあれの事。嫉妬深くて醜悪な義姉から虐げられてる元平民の義妹を救うために王子様が学園の卒業式や夜会等での大勢の前で婚約者を糾弾するあの寸劇。あのクズはその寸劇みたく私を糾弾する腹積もりなのよ。なにせあのクズは私の可愛い義妹のクラーラに求婚しては素気無く断られてるのを私の責にしてるから……
……あの子はすでに将来を誓った婚約者がいるわけだし、クズの接し方もあくまで未来の国王であり、将来の義理の兄としての対応なのに、どこをどうしたらあんな勘違いできるのやら」
「クズ本来の性格ってのはあるけど、クラーラにも原因あるんじゃないの?
言っては悪いけど、あの子は寸劇でおなじみのヒロインみたいな誰からも好かれる天然たらしだもの。あれじゃぁ男達は好意を持たれてるなんて勘違いされても当然。
実際、この中にも居るでしょう。脈ありだと思い込んで求婚申し込んだ人」
ロッテンの言葉に数人は心当たりあるのか、気まずそうに顔をそらす。
その反応にアーデルはこめかみをぴくりっと動かす。
「ほぉほぉ……もし居るなら今すぐ正直に名乗り出なさい。あー別に私怒ったりしてないわよ。ばきぼきばきぼきばきぃ~」
「こらこら、怒ってないと言いながらも威圧しない。立ち上がって手をバキボキ鳴らさない」
「大丈夫よ。ちゃんっと骨5~6本ぐらいで手加減してあ・げ・r」
「骨5~6本は手加減って言わんわ!!この手加減知らずのドシスコンがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
めきめきめきめきめきぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
ロッテンに背後からコブラツイストを極められたアーデルは絶叫と共に、全身から人体が出してはならないやばい音を鳴り響かせる。
ついでにロッテンもドレス姿でコブラツイストを極めてるせいで、普段ならまず拝めない貴族令嬢の太ももがあらわになったから男達もつい『おぉぉぉーーー!!!』っと無遠慮な歓声があがる。
「「な、何事ですか!!!?」」
この騒ぎには溜まらず扉前で待機していた守兵二人も扉を開いて中の様子を伺うも、メイはしれっとした調子で返す。
「ご心配なく。お二人にとってはあれが通常運転です。
かける技もタ〇ーブリッジやパ□スペシャルと実に様々なバリエーションありますが、双方共に手加減や受け身の心得をしっかり習熟しております。怪我の心配はまずないでしょう」
「「そ、そうですか……」」
守兵としては納得できかねぬも、メイは主であるアーデルのピンチに眉一つ動かしてないのだ。
さらにいえば、他の面々も煽ったり呆れたりと反応は様々ながらも誰一人動揺していない。
本当に通常運転だったのだ。
よって、守兵達は再度何も言うことなく引き下がるも……
「なぁエッジ。あのクズ王太子は論外として次期王妃と次期宰相となるアーデル様とロッテン様まであんな調子でこの国大丈夫だと思うか?」
「ヴィクス。多少心配はするが、よく考えるとお二人はまだ18歳と若いんだ。中に居る側近の方々も半数が帝国への留学について行くような気心知れた同年代だし、何よりお目付け役のドム爺様がのほほんっとお茶を飲みながら見守ってるんだ。だったら俺たちも爺様を見習ってお二人の羽目を外す姿を微笑ましく見守ってやろうじゃないか……まぁ、アーデル様に限っては羽目ではなく関節外れそうなのだが」
「誰がうまいこと言えと!!」
そう気軽に話しながら、今なお部屋から響くアーデルの悲鳴を受け聞き流しながら職務に戻る守兵の二人であった。
こんな王国で大丈夫か?
1.大丈夫だ、問題ない
2.一番いい王国で頼む




