136.主のためにあえて道化を演じるのも侍女の役目(SIDE:メイ)
お前の場合は道化じゃなく、素だろw
現在爆睡中で全く無防備な姿をさらけ出してるアーデル。
暗殺者にとってはまさに殺してくださいと言わんばかりの有様だろう。
だが、その刃は届かない。
目を凝らせばわかるが、アーデルの身体は睡眠中であっても膨大な生命力を纏っているので生半可な刃は弾かれる。
ならばより強力な刃物を繰り出せば、殺気に反応して無意識化で反撃……
48の殺人技の一つ。『空中旅行』で夜空をかける一筋の流れ星だ。
アーデルは隙があるようにみえて、全く隙がないのである。
「全く……本当に守りがいのない主です。本当に……なんで混沌のオーラまで弾き返すんですか」
メイの言葉通り、アーデルから放出されている生命力ともいうべきオーラは例の一角から這いよってくる混沌のオーラを弾き返す……いや、どちらかというと逆に浸食し返して浄化してるようにみえる。
頼もしいにも程があった。
そんなアーデルが垂れ流してる生命力だが、よくみればクラーラやメイ。さらにいえば隣の部屋へ寝ているユキやマイを始めとする多方面にも注がれている。
そのおかげか、クラーラを筆頭としたアーデルに近しい者が常人を超えた身体能力が発揮できるのは、アーデルがほぼ無意識化で自身の生命力を分け与えてくれているからなのだろう。
「家族愛の強いお嬢様らしいというかなんというか……ある意味そんなお嬢様だからこそ、家族のためなら樹海のような危険な地に躊躇なく突っ込めるのでしょうけど、やはり自重を覚えてほしいものです」
一応アーデルからしてみれば、これでも自重してる方である。
過去の樹海へと突撃した件やクズ王太子をついカッとなって即座に⑨割殺しにした件等、直情的な行動が原因で様々な惨劇を生み出してきたのだ。
その度に反省し、アーデルなりに改善を試みてるのはメイも理解している。
似たような直情系であったブリギッテ王妃が直々に教育してくれたおかげで昔より我慢強くなってるのはわかるも、やはり生まれ持った性格故か暴走する時は暴走する。
そんなアーデルの暴走を止めるため、メイは過去に様々な方法を試した。
単純に立ち塞がったり、後ろから羽交い締めにしたり、力ずくでぶん殴ったりと実に様々な方法を試しては、大半が止めきれずに『竜巻攪拌器』で吹っ飛ばされたり、『スーパークロスフォール』で墓標にされたりと散々な目に合わされてきた。
ありとあらゆる手を尽くしても、一度暴走したらもう止まらない。
普通ならこの時点でアーデルの専属侍女を辞退するも、メイはめげなかった。
ここで諦めたら近い将来アーデルとその周囲の者が不幸に陥ってしまう。
さらにいえば、かつては自分の不注意でアーデルとその周囲の者を不幸にしてしまう所だったのだ。
過去の失態を償うためにも、メイは引くに引けなかったのである。
そうした中、ある書物から『押してダメなら引いてみろ』の教えがある事を知った。
通常なら全く参考にならない言葉ながらも、解釈次第ではアーデル相手ではかなり有効だったのが判明。
そう……メイは今までアーデルの暴走を止めようとしたから失敗したのだ。
だからこそ、メイは発想を変えた。
押してだめなら引いてみろ
改め……
否定してだめなら……全力で肯定してしまえ
アーデルは直情的な気質こそあっても、決して馬鹿ではない。
冷静な時であれば自分が暴走したらどんな事態を生むかをしっかり理解しているし、非常識な者……その筆頭であるクズを諫めるだけの常識もある。
つまり、メイが一足先に暴走すれば、その行き着く先のやばさを予測できてしまったアーデルがすかさず止めに入る。
メイを止めに入れば暴走のキッカケも失われるので、結果として暴走阻止に繋がるというわけだ。
欠点があるとすれば、メイ自身がアーデル以上に暴走しやすい危険人物とみられてしまうのだが……
「主のためにあえて道化を演じるのも侍女の役目。ユキとマイはそれがわからないから半人前なのよね」
二人からすれば『その暴走、お姉ちゃんの素でしょ』『ん。それ絶対素』なんて反論されるし、メイ自身も時々演技ではなく素で暴走に至る事もあるにはあるが、何事も建前は必要なのだ。
よって、二人の言い分は基本却下としている。
例え妹達から理不尽と言われようとも、メイは意見を変える気はさらさらなかった。
「それより、幽霊退治が済んだので撤退しましょうか。明日……いえ、時間帯を考えると今日の事を考えると睡眠は取れる時にとっておくべきですから。えぇ……お嬢様とクラーラ様を守るためにも」
常識で考えればもうクズに打つ手はない。
明日に予定調和な引導を渡して終了。
それで全てが終わる。
何事もなければ全てが終わる。
そんなある種のフラグを立てた調停式にて、メイが見たのは……
「アーデル!!貴様何のつもりだこれは!!!」
調停式の開催直前に大声をあげて進行を妨げるという、メイだけでなくアーデルに近しい者……
さらにいえば大半の読者が予想したであろうクズの姿であった。
お待たせしました!!
次回からはクズのざまぁ劇最終幕が開幕です。
果たして、クズの運命は……!?




