134.私は……アーデルお嬢様を……(SIDE:メイ)
M「お嬢様を……愛しる事に気付いたのです!!」
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?
「はぁ……はぁ……」
アムル家を飛び出してから、3日ほど経過しただろうか……
メイは荒い息を整えながら、上を見上げる。
鬱蒼と茂る木々の隙間から辛うじて届く日の光がある事から、今は日中だとわかる。
わかるのはそれだけ。
木々が生い茂り過ぎて昼と夜ぐらいの区別しか付かないのだ。
起伏の激しい地面に代り映えのない景色。
湿気と高温で汗が止まらず、時折獣の咆哮や断末魔が響き渡る。
殺気があちらこちらから飛んでくるので全く気が休まらない。
それだけ、この樹海の環境は厄介だった。
「アルプスの樹海……話に聞いてましたけど、ここまで厄介とは」
アルプスの樹海はアムル辺境領の国境を隔てるアルプス山脈を超えた先に広がる樹海であり、一度踏み込めば二度と出る事が出来ない魔境と言われていた。
だが、そんな魔境でもここにしか生息しない動植物が存在する。
それらの中には値千金ともいうべき価値があるならば、それだけで冒険者は樹海に挑む理由となる。
そして、樹海に飲まれて屍をさらす。
メイは道中に元冒険者らしき屍を何人も見てきた。
それだけ危険な樹海にメイが踏み込んだ理由。それはアーデルを追いかけての事だった。
アーデルは自身の母の母の母、曾祖母の住処なんて知らない。
だが、母であるユリアが東の隣国出身なのは知っていた。
だったら曾祖母も東の方へ行けば会える。
そんな単純な理由で東へと向かったのだろう。
実にアーデルらしい発想であるも……アムル辺境領の東方面はこの樹海が示す通り、魔王城跡地という冒険者の中でも最高峰とされるSランクでさえも単独での探索を躊躇するほどの危険地帯が連なる地だ。
まかり間違えても子供が踏み込んでいい場所でない。
っというか、子供だったら樹海の前に聳え立つアルプス山脈を超える事すらできない。
だが、アーデルは軽々山脈を超えてしまった。
元々アルプス山脈は怪我や病気に良く効く清水が湧き出る泉が点在してる事で有名だ。
アーデルはその清水を汲みにしょっちゅう訪れてるので山をよく熟知している。
アーデルが山……しいて言うなら、山の中腹にある牧場で休憩でもしてくれたらその間に追い付けるも……
アーデルは止まらなかった。
休憩する事なく、樹海まで突入したのだ。
ちなみに目視できないほどに放されていたメイがなぜアーデルを追跡できたかについてだが、単純にメイが見えないなにかを読む力に長けていたからだ。
この力はメイの母ルプリスの祖先に知覚できない存在を認知できる精霊術師が存在していた故とされていた。
近年はその力が廃れ、母も精霊の力ではなく魔法の力を操る魔術師として現役時代はブイブイ言わせてたそうだ。
まぁそのせいで男から避けられてしまい、気が付けば完全な売れ残り。どうしようっと焦った母は見習い時代にお世話となっていたアーデルの母ユリネに『男を紹介して!!』っと泣きつき、ならばと同年代で未婚だったメイの父ラリーを紹介したのが馴れ初め……っという話はさておき、メイはその母の家系の素質、精霊術師の才覚を強く受け継いでたらしい。
ただし、強く受け継いでても精霊の力を借りる事はできない。
出来るのは精霊のような知覚できない存在を感じ取る程度。
そして……アーデルはその知覚できない何か。
生命力っとでも言うべき力を溢れさせているため、遠くからでも存在を感知できた。
だからこそメイは姿のみえないアーデルを追跡出来たのだが……
少し前に、そのアーデルの生命力が消えてしまったのだ
生命力は読んで字のごとく、命そのもの。
それが消えたということは……
「まさか……そんなわけが……そんなわけが」
消える直前に感じたのは、アーデルを示していた生命力がそこらの魔物とは一線を画すような強大な生命力を持つ何かと鉢合わせし……ほどなくして、どちらも消失したという事実。
道中に何度も遭遇した冒険者の末路もあって最悪を想像してしまうも、メイは焦る気持ちを落ち着かせながら先を進む。
迫りくる血に飢えた猛獣も先ほど述べた不可視の何かを察する力……
殺気という生命力に似た生物の本能を感じ取る事で数々の危険を切り抜けながら、アーデルの生命力が消えたポイントへとたどり着く。
そこに居たのは……
「そ、そんな……」
ボスと思わしき魔物の屍と……
魔物から少し離れた先。
血の跡をたどった先に現れた……
力尽きたかのように倒れ伏すアーデルであった。
「う、嘘……ですよね?」
メイは道中何度も想像してしまった最悪の結末を振り払うかのうようにアーデルへと駆けつけて抱き上げる。
全く反応を示さないアーデルは……
心臓も……
息も……
生命活動に必要な全てが停止していた。
「そ、そんな……私は……私は……」
どれだけ否定しようとも……
どれだけ後悔しようとも……
現実は……
“私は……アーデルお嬢様を……”
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
樹海に響き渡る絶叫。
こんなところで大声をあげれば何が寄ってくるかわかったものじゃない。
それでも叫ばずにはいられなかった。
それだけ冷静で居られなかった。
絶叫を聞きつけた事で四方八方から殺気が飛んで来ようとも……
そこらの魔物とは比較にならない程の生命力の持ち主が一直線に向かってこようとも……
殺気ではなく、爪と牙が飛んで来ようとも……
そして……
……
…………
………………
「はっ?!」
メイは反射的に飛び起きた。
アーデルお嬢様の霊圧が消えた……
ネタとして組み込もうとしたけど、どうもしっくりくる形で挿入できなかったので、仕方なく断念したのは余談であるw




