133.はっ?!私は……なんてことを……(SIDE:メイ)
ついカッとなってやってしまった。
今では反省している?
「お母さん!!クラーラは……クラーラは死んじゃうの!?」
「アーデル、大丈夫よ。あれはいつもの発作だから薬飲んで少し眠ればまた元気になれるわ」
「本当?!本当に……大丈夫なんだよね?いっぱい血を吐いてたけど、大丈夫なんだよね」
「大丈夫よ。だから、アーデルはいつも通りクラーラが落ち着いたらまた添い寝してあげてね」
「うん、わかった。いつも通り、デールと一緒に待ってるから」
アーデルは7歳の誕生日にクラーラからもらった手作りの人形。アーデルをモデルにしたという事でデールと名付けた手作り人形を握り締めながら気丈に振舞うも、メイからみたら無理してるのがわかった。
いつも通り外へと散歩してる最中の吐血。
クラーラは色とりどりの花畑の一角が一瞬で赤く染まってしまう程の血を吐いたのだ。
嫌でも理解できてしまう……
クラーラはもう助からないのだと……
「お嬢様……気持ちはわかりますが、まず身体を洗いましょう」
メイはクラーラの部屋前で佇むアーデルに声をかける。
メイもクラーラを心配するが、それよりも心配なのはアーデルだった。
今のアーデルはクラーラの吐いた血を大量に被ったため、凄惨な見た目となっている。
臭いもそれ相応にある上、クラーラは病人だ。
その吐しゃ物に何が含まれてるかわかったものじゃない。
早々に洗い流さなければ、アーデルが病気になってしまう可能性がある。
メイは一向に動かないアーデルを力づくで浴場まで連れていく事にした。
ずるずるっと引っ張られる中、アーデルが唐突に口を開く。
「ねぇ、メイ……クラーラはやっぱり……もうだめなの?」
その声はアーデルらしくない……
普段から他者をうんざりさせる程の明るさを持つアーデルから発したとは思えない程の弱々しい声だった。
だからこそ元気付けるために『そんなことありません』と返答するも……
「嘘言わないで!!」
怒鳴られた。
どうやら上辺だけの言葉は望んでなかったらしい。
アーデルが今聞きたいのは慰めではなく真実。
例え残酷な真実であろうとも、アーデルはその残酷な真実を知りたかったようだ。
クラーラの死を乗り越えるため……
自身を納得させるため……
「お嬢様……」
メイは葛藤した。
メイはアーデルが知らない真実を知っていた。
クラーラが助かる手段がまだ残されている事を知っていた。
だが、それは明かせない。
決して明かしてはならないっと言われてきた。
それでも……
「お嬢様……まだ……クラーラ様が助かる手段はあります。クラーラ様の病を癒す手段が残ってます」
「メイ……それ本当なの?本当に治せる手段あるの……?」
「えぇ……父さまからこっそり教えてもらいましたが、お嬢様のお母さまのお母さまのさらにお母さまならクラーラ様を助ける事が可能だそうです」
メイは話してしまった。
アーデルの痛々しい姿につい、秘密にすべき事を話してしまった。
「だから、安心してください。きっとユリアお母さまがその曾祖母さまを呼んでくれるはずですから」
「だったら、早く身体洗わないと失礼だよね」
「えぇ、もちろんです」
アーデルもクラーラが助かる可能性が生まれた事で元気を取り戻したようだ。
自分の足で浴場まで向かう姿にほっとするも、直後に後悔が襲った。
「はっ?!私は……なんてことを……」
その後悔は秘密を明かした事ではなく、要らぬ希望を持たしてしまった事だ。
なにせメイはアーデルの曽祖母がどこに居るかなんて知らない。仮に知ってても連絡を入れて呼ぶのにそれなりの時間をロスしてしまう。
一刻を争うような有様からして、到着後には全て終わってしまう事なんて簡単に予測が付く。
だが……今更真実を言えなかった。
アーデルを再度地獄へと突き落とすような言葉を言えるはずがなかった。
そんなメイは気付かなかった。
アーデルは脳筋であるも、そこまでの馬鹿ではない。
クラーラはもう手遅れだという事実を察していたのが、その証拠。
それでもアーデルは脳筋であり、半端ない行動力の持ち主。
その行動力はメイ自身散々振り回され続けてきたので理解はしてたはずなのに……
メイはこの時すっかり失念していた。
だから……
「お母さんのお母さんのお母さんならクラーラの病気治してもらえるんだよね!!だったら今すぐ連れてくる!!」
「へっ?」
浴場で身体を清め、自室へと戻った瞬間の発言にメイは固まった。
一体その発言にどんな意味があるのか……頭をめぐらせてるうちにアーデルは常備させているピクニックセットをひっつかむやいなや窓から飛び降りていた。
ちなみにアーデルの部屋は3階だが、その程度の高さはなんてことない。
なんなく着地したと思えば、そのまま庭を突っ切って塀を飛び越えた。
その様を呆然と窓から眺めていたメイは正気へと戻る。
「お嬢様!!お待ちください!!!」
あまりの素早さにメイも急ぎ身支度……
同じようにピクニックセットをひっつかんで追いかける。
大人にアーデルが外に飛び出したという事を……曾祖母へと会いに行ったという旨を大人達へ知らせる事を失念したまま、同じように窓から飛び降りて庭を突っ切って塀を飛び越えて追いかけた。
……………………
大人達がアーデルとメイが居なくなった事に気づいたのは、家を飛び出してから数時間後。
クラーラが一大事なら例え面会謝絶であろうともクラーラの元へ駆けつけるアーデルがいつまで経っても姿を現わさない事を不審に思ったユリアが気分転換になればっと思ってユキとマイに命じて様子見に行かせた事で……
カーテンが風でなびく、開け放たれた窓をみて家を飛び出した事が判明。
それでも当初はそこまで深刻に考えなかった。
唐突猛進なアーデル単体では心配でも、同年代ながらアーデルの抑え役として機能するメイが付いてるのだ。無茶な事はしないっとメイを信用していたが故に心配はしていなかった。
そんな大人達の予測は……見事に外れるのであった。
これが後に悲劇へとつながるのであった?




