132.私はお父さんと同じく奥さまのちゅーじつな配下として、秘密は厳守します(SIDE:メイ)
秘密とは、守るモノではない。破るモノである(マテ)
サクラ商会。
それはゴッドライフ領国を本拠地とし、その起源を遡ればストロガノフ合衆国の初代大統領の伴侶が晩年に立ち上げたと言われてる由緒正しい商会だ。
ただし、商会は由緒正しくても商会長は血筋に関係なくもっともふさわしいと太鼓判を押された者が任命される。
そのため、前商会長は血縁者となるユリネの母サクヤではなく、その商才を見込まれて入り婿となった父のコノハが務めたそうだ。
そんなユリアの母サクヤは確かに商才はなかった。
さらにいえば身体能力や魔力も平凡っと、3人の娘が受け継いだ要素を全く持ち合わせてなかった。
だが、母サクヤはたった一つだけ他者を凌駕する才覚があった。
それは非凡なんて言葉では片付かないほどの……伝説で語られる勇者が持つ『チート』と呼ばれてもおかしくない程の薬学に関する知識と技術を保有していたのだ。
そんなサクヤが残した功績の一つが過去に失われたはずの知識……
100年以上前に降臨した魔王。現在帝国で暴れてる魔王とは比べ物にならない程の強大な力を持つ、大魔王ともいうべき侵略者から国を、世界を守るために最前線で奮闘してきた勇者達を聖女と共に後方から支え続けてきた薬師が残した研究資料……
当時の知識や技術のほぼ全てが消失した中で唯一奇跡的に残された資料だが、それは『ニホンゴ』と呼ばれる暗号文で書かれてるために解読できる者はほとんどおらず、仮に解読できても内容が高度過ぎて全く理解不可能。
資料こそあっても実際に作れる者は皆無と言われてる中、サクヤは暗号文を読み解いただけに飽き足らず、記されていた製法を用いて実際に薬を生成してみせたのだ。
失われた知識と技術の復活。これだけでも歴史的偉業ともいえる功績だが、彼女は資料に記されていた薬の製法をわかりやすく書き留めて世に広く伝えた。
また、先人が残した知識だけに頼る事なく、自身も独自に研究や解析を進める事で不治の病とされていた難病の特効薬の開発や治療法の確立も行った。
サクヤは魔力を、癒しの力を持たないため聖女の資格がない。
だが、魔法という人の資質に左右される奇跡の力で癒すのではなく、知識と技術という純粋な人の力で人々を癒してきたその功績はまさに聖女ともいえよう。
教会も特例としてサクヤを聖女としての称号を与えようとしたが、彼女は聖女にふさわしくないっと辞退したため、ならばっと聖女に変わる称号……
聖女であっても救えなかった者の命をその手で救いあげてきたその実績から“神の手”の称号が与えられ、サクヤもそれならばっと承諾。
以後、ユリネの母サクヤに与えられた“神の手”の称号は、魔法に頼ることなく純粋な知識と技術で人々を癒してきた者が受け継ぐ称号となったそうだ。
ユリネはそんな母の……影響力でいえば、大国の王族に匹敵してもおかしくない程ともいえる母の娘として生まれてきたのだ。周囲からの常に偉大な“神の手”の娘として見られる事に窮屈さを感じてたらしい。
だからこそユリネは母の影響の及ばない新天地、フランクフルト王国を目指した。
そこでアムル辺境伯家への嫁入りが決まり、王国に早くなじめるよう王都の学園に編入するも、そこで王太子であるザルフリに見染められてしまい……結果として30年前のあの大事件が勃発。
ユリネは意図せず巻き込まれてしまった被害者であるも、外部からみれば当事者の一人には変わりない。下手に実家へと飛び火して騒ぎが大きくならないよう、自身の死でもって延焼を食い止めた。
ただし、見ての通り死は偽装で当人はユリネからユリアと改名。実家が抱えるサクラ商会の者達は辺境伯夫人ユリアの正体が商会長の座を継いだ三女カスミの下の姉ユリネと暗黙の了承扱いにしながら、交易や外交の傍ら互いの近況報告を行った。
その縁もあって母サクヤは姉妹でつながったコミュニティ経由で聖女である長女リリーですら癒せなかった難病に侵されていたクラーラの話を聞きつけ、秘密裡に治療を請け負ってくれた。
“神の手”の称号こそ返上しても、未だに世界最高峰の薬学や医療技術を保持しているとされているユリアの母サクヤが直々に診断してくれるのだ。
当初はこれでクラーラは助かると思われたが……
「駄目。これは私の手に負えない。延命が精一杯」
クラーラの病状は“神の手”とされるサクヤでさえも匙を投げるほどだった。
ただ、匙こそ投げられてもまだ希望は残されていた。
「私では完治無理でも、母さんならばあるいは……」
アーデルからみての祖母サクヤの母にあたる人物……
その正体は不明だった。
それは祖母サクヤの出自が孤児だからではない。
今ではDNA鑑定と呼ばれる血縁関係を調べる技術がある。
血縁を重視する貴族や王家では出自を偽ろうとする者が後を絶たず、それらの偽りを暴くために生まれたといっても過言でない技術ながらも、決して万能ではない。
DNA鑑定は偽りを暴く事こそできても、個人の特定まではできない。
つまり……サクヤの父親は名乗り出た者の中に居た事もあって判明しても、母親だけは名乗り出てきた者の中に該当者がおらず不明だった。
サクヤの母親は一体だれなのか……
父親が歴史に名を残す程の功績を持つ者であり、サクヤ自身も父に負けず劣らぬの功績を積み上げてきたので母親も非凡な者であるに違いないっと様々な噂が立つも所詮は噂。
真実は闇の中。
それが世間の常識。
……であるはずが……
「実は私、お婆さまに会ったことあるの」
ある日、ユリネはメイに向かって世間話をするかのようにあっさり秘密をもらした。
アーデルからみたお母さんのお母さんのお母さん……
曾祖母の正体に関しては世間では様々な噂が流れるも、どれも信憑性のないものばかり。
だが、それらの噂は真実を覆い隠す隠れ蓑になってくれてるらしい。
そのため、世間の噂とは裏腹に素性を知ってる者はそれなりにいるそうだ。
ただし、素性は知ってても詳細を知る者は限られている。
ユリネも祖母の顔こそ知ってても多くは知らない。
ただユリネが知ってる事は……
「お婆さまは魔女なの。しかも人を蘇らせたり、若返らせたり、勇者が持つ『チート』の力を与えたりといった皆が喉から手が出るほど欲しがる夢のような薬を難なく作れる程の腕を持つ、世界屈指の魔女。
だから表舞台に出ないようしてるそうよ。下手に知れ渡ったら欲の皮が突っ張った連中が殺到するからってね」
「それじゃぁ、そのお婆さまならクラーラお嬢さまの病気も治せるって本当なの?」
「サクヤお母さまからのまた聞きになるけど、クラーラの病は決して治せない病ではないそうよ。ただし、クラーラの負担を考えると10歳ぐらいまで成長するのを待たないといけないの。
だからね。私たちはクラーラを10歳まで生きながらえさせる。それだけを考えればいいの。それと、貴女のお父さんから散々言われてるだろうけど、この話は誰にも言わないようにね。おばさんとの約束よ」
「はい、わかりました。私はお父さんと同じく奥さまのちゅーじつな配下として、秘密は厳守します」
ユリネ改めユリアはメイに秘密を明かしたのは、メイが父ラリーと同様むやみやたらと秘密を漏らさないという信頼からだったのだろう。
メイもこれは下手に漏らしたらまずいものだっと幼いながらも理解できていた。
そのためにこの秘密は誰にも明かさないよう黙っているつもりであったが……
ある日、その約束を反故にしてしまった。
ユリ〇「あらあら、約束を破るなんて……これはお仕置き案件ね」VO:大〇日〇
メイ「こ、これは……その~あれですの~口が勝手にすべっただけですの~」VO:鈴〇愛〇
……うん、ママンはそのまんまユリ〇イメージ通りだけど侍女の方は邪神ボイスのイメージにならない。
むしろ邪神ボイスにあうのは、お義姉ちゃん?
……戦闘力は雲泥の差だけどね




