127.明日の調停式ではほぼ確実に一騒動起こしてくれるでしょう
起こさぬならば、起こしてしまえ、クズ王太子
「改めて聞くけど戦争中のクズの様子は?報告見た感じでは警戒する必要性なさそうだけど」
「なんともいえませんね。事前に知らせた通り、あのクズは教会所属の回復薬研究チームが臨床実験と称して怪しげな薬を投与したら、拘束を引きちぎってしまう程の強化回復というまさかのイレギュラーな事態が起きてしまったそうです。
これはさすがにと思って私直々に監視してたのですが、強化されたのは一時的。その後は通常の力に戻ったばかりか、薬の副作用かなにかで一部の記憶やら知性が消失して馬鹿さ加減が余計進行した印象受けました。
戦争でもあれだけ大敗したのに、あのクズは王軍が戦争に勝ったなんて思い込んでるという辺りもう愚かなんて一言ですみません。ただまぁ……それはそれで面白そうなので、勘違いが継続できるよう仕込みました。なので、明日の調停式ではほぼ確実に一騒動起こしてくれるでしょう」
「教会主導で行われる調停式で騒動だなんて、普通の神経ならまずやらない愚行だけどあのクズならやりかねないところがねぇ」
「あのクズの事です。調停式を中途半端な形で中断してしまった懇親会での断罪劇の続きと思い込むでしょう。教会が取り仕切る厳正で神聖な儀式を王家主体のパーティーか何かと勘違いして……」
「通常なら頭痛い問題ではあるけど、結果としてはより悲惨な末路を迎えるなら万々歳ってボシティブに考えましょうか。
私も前回と違って今回は仲間外れにされる事なく全て把握済み。メイやクラーラも最初から参加できるし、予想外前提の即興茶番ライブとして楽しむスタンスで問題ないわよね?っというか、そう思わないとやってられない心境だし」
「全く問題ありません。前回の場はクズの取り巻きが多数いたそうですが。今回はその取り巻きの大半を排除してます。
王都民もクズのやらかしを知らされた事でクズに対するヘイトが最大限まで高まったところで、クズが反省の態度がないとなれば……」
「それはいいんだけど……無能の極みとされるあの王様を信用していいの?最後の最後でクズを溺愛するあまりに裏切るとかやらかさない?」
「クラーラ嬢。それは大丈夫っと私が保障します。その根拠に関しては……」
クラーラからの質問に答えるマイヤー。その際にちらりとアーデルをみれば首を振った事で最後まで言い切る事なく話を終えた。
その態度にクラーラはジト目でアーデルを睨む。
「お義姉ちゃん。何か隠してない?」
「ごめんね。隠してるのは事実だけど、それはトビアス様から口止めされてるの。そうしたいくつかの取り決めと引き換えに今回の件で全面協力受けてるわけ。でも……これだけは言えるわ。
トビアス様は私たちの約束を違える事なく、明日に全てを終わらせるそうよ」
「ふ~ん……ならそれでいいかな。でも式典の流れ次第によっては私自身の手で二人まとめてでもいいよね?いいよね?ばきぼきばきぼきばきぼきぃ」
返事を待つことなく、にこやかに両手をばきぼき鳴らし始めるクラーラ。
その姿は誰の影響を受けてるか丸わかりであろう。
普段なら止めるとこであるも、クラーラはアーデル同様クズ達の行いにずっと我慢を強いられてきたわけだ。
『決して殺してはいけない』等の条件を守るのであればっと、当日はクラーラ判断で好きに動いていいという許可が与えられるのであった。
そうした細々とした当日の計画や動きを確認し終えた事で密会はお開きの時間を迎えた。
「私はこれから馬鹿達の襲撃結果の報告を聞くために暗部の待機室へと向かいます。野暮用も済んだ以上、夜更けに長々とレディーの寝室に居座るなど紳士として失格。後はごゆっくりお楽しみください」
何をゆっくり楽しめというのか……
そんな突っ込みどころがある言葉を残し、隠し扉を使って秘密の回廊へと入るマイヤー。
最終的に300kgの重量という常人なら完全に潰れてるであろう石抱き刑を与えられようとも、彼の足取りは平時と全く変わりなし。
日常的にロッテンから拷問されてる彼の耐久は常人どころか超人のアーデルすら超える域に達している可能性があるだろう。
そんな訓練された変態紳士を見送った後、不意に眠気が襲って来たのかアーデルは大きなあくびをする。
「ふぁぁ……王都に戻ってから今までゆっくり寝てなかったし、明日の本番に備えて今日は大人しくベットで寝ようかしら」
「だったら今日は一緒に寝る?」
「あーそう、たまにはそれも……!?」
クラーラとしては何気ない言葉だったのだろうが、アーデルにとっては頭が処理落ちしかねない程の情報量を含む言葉だったのだ。
アーデルは一時思考停止に陥るも、再起動すると同時に頭をフル回転させて必死にクラーラの発言を解析した。だが、元々脳筋に偏った頭では解析不能だと悟り……素直に最終手段を取る事とした。
その最終手段とは……
「ク、クラーラ……な、何を……言ったの?お義姉ちゃん聞き間違いじゃなければいいのだけど」
聞き返す事だった。
一回で……それも単純な一文なのに理解できなかった義姉の姿にクラーラはあきれ顔するも、まぁ義姉は少々おつむが残念だから仕方ないっとばかりに答える。
「言った通りの意味だけど?最近そうした機会なかったし、お義姉ちゃんもたまには抱き枕という偽物じゃなく本物で寝たくない?」
ここまで言われたら、さすがのアーデルも理解できる。
これは挑発だと理解できる。
ならば当然、答えは一つ……
がっしぃぃぃぃぃいぃぃい!!!!
「大歓迎に決まってるじゃない!!クラーラと一緒だなんてお義姉ちゃん興奮して逆に寝れなさそうじゃないぃぃぃぃぃい!!!」
クラーラの挑発に、全力全壊のだいしゅきホールドでもって応えるアーデルであった。
お義姉ちゃんの理性は粉々にくだけちった……




