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11.クズはまるで成長しなかった(SIDE:アーデル)

大事なことなので二回言いました。

 クズはまるで成長しなかった。


 それもそのはずだ。


 第二の実子であるクラーラが存命だということを知らない王にとって、デルフリは唯一の子。


 側妃ハイジがクラーラの出産時に儚く散り、生まれた赤子は死神と称して即座に処分を命令。

 王妃や新たな側妃とは交わろうとせず、唯一の子と思い込んでいるデルフリを徹底的に甘やかして育てた。


 貴族達もデルフリを王家の血を引く唯一の子として、自分達の都合のよい傀儡になるようにデルフリをちやほやして煽てた。

 溺愛されながら育ったのはアーデルと同じであっても、アーデルの場合は特殊だ。

 なにせアムル家の教訓は『可愛い子には千尋の谷に突き落とせ』であり、アーデルへ向けられた愛情の大半は他家からみれば児童虐待そのもの。


 アーデルは何度死にかけたかわからないほどのシゴキを受けつつも、それを愛情と信じて疑わなかったのでまっすぐ育ってくれただけでなく強さ……

 クズ王太子と対面時にあれだけの惨劇を繰り出せるほどの強さを会得していたのだ。


 そして、アムル家の領土は世界最強クラスの魔物や魔獣の生息地とほど近い魔境と隣接してるだけあって悲劇もそれなりの頻度で訪れる。

 力及ばず儚く散って行く命を前にして、命の大切さや上に立つ者の覚悟を学んだアーデルは知らずしてノブレス・オブリージュの精神も養われていたのだ。





 逆にデルフリは命どころか怪我の心配すらない、箱庭の温室育ち。


 15歳の時に通ったのも、アーデルが通った帝国の学園。生まれも身分も関係なく世界各国から集った優秀な若者が真の実力主義の元で切磋琢磨する修羅のような学園ではない、自国の学園。

 平等と言いつつも身分が重視され、王家の威光で様々な便宜という名前の不正が行われてしまう王都の学園にて小山の大将気分で日々遊んで暮らしていたそうだ。


 そうした経緯によって爆誕したのが、書類上では歴代屈指の優秀な王太子ながらも、その実態はただの張りぼて。頭がいまだにお子様な我儘クズ王太子だ。


 そう、いまだに成長していないということは、アーデルの事を8年経った今でもがさつな田舎娘として馬鹿にしていた。




 ちなみにアーデルの容姿は10歳時点だとわんぱく少年と言ってもいいほどであった。

 部屋で大人しくするのではなく、野原を駆け回って時には魔物と死闘まで繰り広げたのだ。

 いくらドレスで着飾って化粧を施そうとも、全身からにじみ出るガキ大将オーラは全く消えない。加えて黒髪は不吉の象徴とされるほどに忌み嫌われているのだ。


 当時王太子が下した『ド田舎ながさつで冴えない不気味な女』の評価は実に的を射たモノだったのである。


 そんなアーデルも8年の歳月とその間に受けた淑女教育の甲斐あって、及第点の淑女にはなっている。


 生まれや育ちがアレなので完璧ではなくとも、昔のような即座の鉄拳制裁は行わない。

 行うにしてもまずは忠告(片手で林檎グシャー)。無礼されてもギリギリまで優しくOHANASHIで論するように務めるなど、気の短さはかなり改善された。


 過去の自分を恥じ、改善すべく務めたアーデルは王太子とその取り巻き貴族達が認めずとも他は認めた。帝国の皇帝すらもアーデルを為政者として認めたのだ。


 王太子達がどれだけ喚こうとも、帝国の皇帝という現状最強ともいえる後ろ盾を持つアーデルには適わない。

 王妃が王令を出してまで、怒りを買ったアムル家から滅ぼされる危険を侵してまでアーデルを王家に迎え入れようとした判断は正しかったと言えるだろう。


 それに、王妃とその側近である重鎮達はこの30年間、あちこちガタガタな王国を支えるため尽力し続けている苦労人だ。

 帝国の卒業式で3年ぶりに見た王妃達は頬がげっそりとやせ細った青白い顔をしており、実年齢よりも10歳以上老け込んで見えたほどだ。


 もう王妃達は十分過ぎるほど王国に尽くしてくれた。

 ここらでしばし王国の政治から離れて休息しても罰は当たらないはず。


 そう判断したアーデルと側近候補達は王妃達に幾ばくかの休息を与えるため……


 帝国の学園での卒業式……義理の息子をほったらかしにしてわざわざ参列してくれた王妃達を保有地に強制連行して監禁する計画を急遽立てた。


 その計画には他の参列者の方々も賛同。他国の重鎮を強制連行して監禁に協力なぞ国際的にみて問題ある行為なのだが、王妃達の健康状態がそれ以上に大問題だった事もあって全く問題視されなかった。


 さらに言えば、他の参列者から同情されて善意による見舞金まで集まったおかげで滞在費の心配も消失。あらゆるストレスから解放された王妃達はまったりと療養に専念でき、後日王妃達が王国に戻ってきた時には皆ツヤツヤとなってたのは言うまでもない。






 そうした経緯によって王妃や宰相といった重鎮と入れ替わるようにして帰国したアーデル達は、すぐに王妃達の代理として王国の政務を取り仕切った。


 見え方次第では完全な簒奪であるも、王国内に残っていた心ある者達は王妃達重鎮の心労を心配して半ば無理やり帝国へ送り出した経緯があるぐらいだ。療養に専念させてくれたのは彼等にとって万々歳。むしろ、よくやったとばかりに褒めたたえられた。

 合わせて帝国の皇帝含む他国の王族や重鎮が連名でサインしてくれた任命書の存在もあって、表向き反対意見もでず……


 王妃達が不在中でもアーデルと若手の側近達は残されていた者達と協力して政務に励んでいた。



 そんなある日の会議室で事件が起きた。














「アーデル!懇親会を開くぞ!!!準備しとけ!!」


「「「「「「…………はぁ?」」」」」」

一話冒頭の台詞にもどる

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