115.殺ってよし ※ 4度目の害虫貴族駆除回(その6)
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衛兵達もいい加減我慢の限界だった。
彼等衛兵の出自は実に様々。貴族の嫡男だったが資格なしと跡取りから外された者もいれば、最初から家を継ぐような立場でない三男以下な貴族子息や庶子。さらには貴族でもない平民もいる。
平民でも貴族の使用人や裕福な資産家の子としてしっかりとした教養を持つ者もいれば、どこの馬の骨ともわからないような孤児出身すらもいる。
このような多種多様な生まれや育ちが同じ環境下で過ごすのは難しい。少なくとも自由が基本な冒険者であれば到底うまくいかない組み合わせだ。
だが、彼等は衛兵としての規律を遵守するプロ意識がある以上に……
上に立つ者の横暴な態度や命令に辟易しているという、敵の敵は味方といわんばかりな共有の想いを抱く事で一致団結していた。
だからこそ、身分を笠に着るどころか仲間を平然と見捨てて罵倒する馬鹿貴族の子息達の振る舞いは腸が煮えくり返るかのような想いを抱いていた。
アーデルもこれ以上馬鹿達に付き合う必要性なぞないと判断。衛兵達に向かって『殺ってよし』のサインを送った。
仕える主からの許可が降りた事もあって、彼等は喜び勇んで……
謁見の間というロイヤルな場の守護を任される者がヒャッハーとばかりに襲うのは体面的にまずいから表向き黙々……とはいかず、一部笑顔を漏れ出しながら武器を構え直す。
その様は殺人に快楽を見出す殺人狂であり、貴族令息達は再度悲鳴があがる。
もう全て出し切ったはずの液体がひねり出されるかのごとく、再度股間から流れ始める。
王家な威厳の象徴とされる謁見の間で一度ならず二度までも汚水で穢すなど前代未聞だ。
この短時間でどれだけ失態を行えば……
貴族の誇りを下げれば気が済むというのか……
これ以上生き恥を晒させるより、一思いに介錯してしまう方が貴族として箔が付くもの。
衛兵どころか謁見の間に居た者のほぼ全員の思想が一致。そんな彼等の後押しを受け、いざ武器を振り下ろす……その前に静止の声がかかった。
「待てぃ!!先ほども申した通り、この場での処刑は早計だと何度言ったらわかるのだ!!!」
「なんだと!!貴様、何の権限があって申してるつもりだ!!!」
「仮にもアーデル女王様の命令だぞ!!それがわかってるのか!!!」
「わかった上で止めている!!アーデル嬢も今一度冷静になれ!!ここで処刑する必要はあるか!!?」
「そ、そうね……ごめんなさい。馬鹿達があまりにもな態度でついカッとなって……だから取り消すわ」
「なっ、アーデル様はこんなどこの馬の骨ともわからないような男の進言を聞き入れるというのですか?!」
アーデルのあっさり前言撤回発言につい衛兵長が声を荒げる。
大事なことだから二回言うが、アーデルは身分を気にせず誰であろうとも気安く話す性質の持ち主であっても、公の場ではそれなりの振る舞いを求められる立場なのだ。
ましてや女王となった彼女がどこの馬の骨ともわからないような者の進言を取り入れれば歯止めが効かなくなってしまう。
だからこその衛兵長の言葉であるも、アーデルは笑う。
「うふふ。どこの馬の骨だなんて、ずいぶんな評価じゃないですか?ビィトさん……いやこの場合はトビアス陛下と言ったほうがいいかしら?」
「ア、アーデル嬢……今ここでその名は」
「いいじゃないですか。もうこの際表舞台にでちゃいましょうよ。トビアス前国王様」
……
…………
………………
「「「「はぁぁぁぁぁ!!!?」」」」
ビィトがトビアス前国王……
その事実に多くの者が驚愕した。
それもそうだろう。
ビィトは下っ端として王宮の様々な所で下働きを行って来たので多くの者に認知されている。
素性に謎が多くて怪しい所はあっても、王宮ご意見番であるドム爺が身分を保証してるのだ。
ドム爺が抱える人材は国外から連れてきた浮浪児やら奴隷といった怪しい者まで居るも、彼等は共通して勤勉で有能。だからこそビィトも表向き問題視されなかった。
あくまで表向きであり、内心ではやはり出自不明なだけあって馬の骨という評価は覆せない。
ビィトも過去の事をあまり話さないだけあって周囲から胡散臭い目で見られてしまっていた。
そんな彼の正体が、お飾りという立場すら放棄している無能な引きこもりの王となれば……
周囲の理解が追い付かず、混乱している間にもビィトはアーデルから返還されたマントを身に着け、王冠を被る。
さらに付け髭を装着して王錫を手にしたその姿は……
公の場には滅多に出ないながらも、皆の記憶にある国王トビアスの姿そのものであった。
訂正。ウホッ、いい男 ではなく、王様がログインしました




