109.一寸の虫にも五分の魂……でしょうかね?(SIDE:メイ)※ 3度目の害虫貴族駆除回(その2)
その子供が親をどう思ってたかは……
まぁ~去り際に忠告してるから、それほど悪く思ってないんじゃないかな?
「今際の言葉が恨み辛みではなく、ご子息への懺悔……これは意外でした」
「メイ様。旦那様は確かに国へと寄生する害虫でした。ですが、害虫でも親子の情というものは存在するのです」
「一寸の虫にも五分の魂……でしょうかね?」
「多分違うと思われます」
王の勅命を無事に果たした事で緊張をほぐしながら軽口を叩き合う侍女メイと家令。
メイはアーデルの護衛を兼ねた専属侍女だが、いろいろと多芸な事もあって多種多様な任務が割り振られる。
今回の掃除と言う名前をした暗殺もアーデルから命じられた仕事の一つ。
命じられた当初はかつての王妃が行ったように、ドリコヨ伯爵家の一家郎党皆殺しを敢行しようと考えた。
だが、腐敗していたのは当主夫婦と一部の使用人のみ。
息子がクズに従っていたのも当主である父からの命令や王家への忠誠という貴族の定め故であり、本心では迷いがあったようだ。
あのパーティーの日にアーデルへ謝罪の言葉を口にし、父の説得を試みた限りではその迷いを吹っ切ったらしい。
今は幼い弟妹と良識ある使用人達と共に、アルム辺境伯領へ退避している頃合いだろう。
メイは何気なく窓から外をみる。
大掃除という名前の殺処分される貴族家は何もドリコヨ伯爵家だけでない。
今回の戦争に賛同した貴族の居残り組はもちろん、王都の闇に巣食う悪徳商人や裏組織も標的だ。
そこでもメイと同じく使者という名前の処刑執行人が仕事をしている頃合いである。
ただ、処刑執行人といってもその処刑方法は各自の裁量に任せられている。
メイに割り振られたドリコヨ伯爵家では、家令がドム爺の命令で潜り込んでいた暗部の一人だった事もあり、彼の手引きしてもらいながら真正面から堂々と潜入しての暗殺を行った。
だが、他はメイと同じ手段を使ったわけではないようだ。
ボウボウと燃え盛る炎に包まれた屋敷もあれば、地面が陥没して崩壊してる屋敷もある。
風に乗ってそこら中から悲鳴やら怒声も響いているわけだし、中には強盗殺人紛いな大掃除を行ってる所もあるのだろう。
商人としての性故に金銭感覚がシビアなクラーラにとっては現実逃避しそうな光景であるが、メイは気にしない。
今回の大掃除は見せしめによる粛清も兼ねているというか……
うっぷん晴らしでもあるわけだ。
メイはアーデルを散々コケにしてきたクズに怒りをぶつけたい想いはあるも、クズに怒りをぶつけたいのは何もメイだけでない。
アーデルを溺愛する4人の兄達を筆頭とした、アムル家の使用人や私兵といった大勢がクズに怒り狂っているわけだ。
彼等が一斉にクズへ怒りをぶつければ早々に潰れてしまう。消化不良のままで終わってしまうのは確定的に明らか。
っということで、代案として用意されたのが害虫貴族の粛清。
ドリコヨ伯爵家は所詮小者であるため、過激思考持ちであっても一応分をわきまえてるメイ達が派遣されたのである。
「メイ姉様~こちらの処理終わりましたよ~」
「ん。残ってるのは殺す程でないといっても火事場泥棒は犯罪。とっ捕まえて縛り上げといた」
「そういうこと。さーきりきり歩け歩けーげしげし」
部屋に入ってきたのはかなりマニアックな縛りが施された数人の使用人を連行するユキとマイ。彼女達は残っている使用人達全員の相手を任せており、その処置が今しがた終わったのであろう。
その後ろには縛られてなくとも不安そうな顔をした使用人達が続く。
当然の事ながら、部屋の惨劇に皆等しく青ざめた。
「あ。あの……私達はどうなるのでしょうか?や、やはり……」
使用人の中の一人、メイド長と思われる年配の者が代表として恐る恐る問いかけるもメイは優し気に笑う。
「ご安心ください。私達は王の使者で強盗ではありません。ただ貴方達はありのままの事実を……ドリコヨ伯爵家の当主夫婦は王命によって本日付で処刑された。その事実だけを理解すればよいのです」
「王はご子息様に罪はないと判断されました。今後の伯爵家がどうなるかまではわかりませんが、いずれご子息様は家を継ぐ為に戻って来られるでしょう。それまでの間家に残るか去るかはご自分でお選びください。推薦状は……どうしましょうか?」
「火事場泥棒を行わなかった者であれば構いません。そして火事場泥棒に関しては……」
「火炙りにする?それとも火責めにする?それともバーベキューにする?ぼーぼーぼー」
「氷漬けがいい。外、火事のせいで暑い。氷ほしい。ぱきぱきぱき~」
「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」」」」
両手に炎を宿らせながら意気揚々と語るユキ。
両手に氷を宿らせながら淡々と語るマイ。
二人は普段こそ侍女として弁えた振る舞いをするも、今回はアーデルから好きにしろっというお墨付きがあるのだ。
残酷な本性を丸出しな処刑宣告に泥棒達は震えあがるも、メイはわかっていた。
二人は別に殺す気がない事を。
第一、殺す気であるなら態々捕縛なんかせずその場で処置している。
あれはただの遊びなのだろうと理解していた事もあって、あえて好きにさせていた
「私は掃除完了の報告をするために戻りますので、家令の貴方には死体の後始末お願いします」
「わかりました。死体は見せしめとして腐り果てるまで外に吊るしておきましょう。それとあの二人は……」
「放っておきなさい。少なくとも、アーデル様の実兄達に比べれば所詮子供だましですから」
「そ、そうですか……」
家令もアーデルの実兄達のヤバさは知っているようだ。
なにせ兄達はアーデルやロッテン曰く、『社交界に出してはいけない人種』っとはっきりきっぱり宣言するような連中だ。
事実、兄達は貴族社会どころか世間一般の常識すらもよく理解しておらず、程よい力加減がアーデル以上に苦手。
その実兄達が襲撃を担当する貴族家は使用人すら救いようのない悪党貴族。
つまり……
今頃は最早死が慈悲とも言わんばかりの情け容赦ない地獄絵図が繰り広げられてるであろう事は確定的に明らか。
さすがのメイもターゲットにされた害虫貴族家の者達を少々哀れに思いつつも…………
すでに賽は投げられたのだ。自分達に出来る事は何もないっとばかりにすぐ頭から追い出すのであった。
……………………
その日、貴族街と貧民街では深夜にも関わらず大騒ぎとなった。
中にはゼーゼマン公爵軍が王都まで攻めてきたと騒ぎ、街から逃げ出そうという一団がでるも……
真夜中に王都の外へ出るのは危険だという事で半ば強引に街へと押しとどめられた。
そのせいで騒ぎはさらに大きくなり、夜明け頃には戦争の勝敗……
王国軍がゼーゼマン公爵軍に惨敗したと言う話は王都内に知れ渡った。
今後の王都はどうなるかっと皆が不安に思う中……
貴族当主や国の運営に携わる重役達は前日に王から下された登城命令に従って、王城へと向かった。
そして、彼等は……
謁見の間にて、王の証である王錫とマントと王冠の三点セットを身にまとって王座に座るアーデルの姿をみて驚愕した。
私は王である!




