108.これで王都まで進軍してきた賊軍を打ち倒せば我がリドコヨ伯爵家の株は大上がりだ!!(SIDE:モブ害虫貴族) ※ 3度目の害虫貴族駆除回(その1)
とても分かりやすい死亡フラグが立ちましたw
王太子は捕縛され、王国軍壊滅……
従軍していた貴族や将校はほぼ全員が討ち死に……
そんな報告を聞いた彼、リドコヨ伯爵はほくそ笑んでた。
「ふはははは!!バカ息子が臆したせいで参戦できなかった時は大損と思っていたが、結果としては参戦せずに正解ではないか!!
これで王都まで進軍してきた賊軍を打ち倒せば我がリドコヨ伯爵家の株は大上がり間違いなし!!」
もちろん、これはただの妄想である。
ゼーゼマン領軍を倒すにしても、具体的な策などない。
ただ王都民をぶつければいい……
その程度しか考えてなかった。
だが、愚かな事に伯爵の中ではそれで大勝利できると信じていた。
しかも、それを信じるのは何も彼だけではない。
「ふふふ。これで上手くいけば侯爵……いや、公爵すら夢ではないのですね」
伴侶である伯爵夫人までも信じ切っていたのだ。
「リドコヨ伯爵家の繁栄に乾杯!!」
二人は前祝いっとばかりに高級ワインで祝杯をあげる。
そんな折り、家令から客人の来訪が告げられる。
「旦那様、奥様。王宮からの使者が来ております」
「こんな夜分に何の要件だ?」
「なんでも至急伝えなければならない要件があるそうです。どうしましょう?」
「それは戦争に関してか?」
「使者自らが直接伝えるとおっしゃってますので、私ではわかりかねません」
「よかろう。通すがよい」
「そうおっしゃられると思ってましたので、すでに連れてきております」
家令が一歩下がると同時に、後ろで控えていたであろう若い侍女が前に出る。
王宮の使者として侍女が使われる事はあんまりない。
特にこんな夜分にうら若い女性を一人で寄越すのは、普通に考えればおかしな話だ。
だが、愚かな夢を信じるようなこの夫妻はおかしさに全く気付かない。
それどころか、王直々の勅命……討伐軍の大将に任命されると思っていた。
「では、要件を聞こう。何の用だ?」
「はい。僭越ながら……王からの勅命をお伝えします……」
使者の侍女はここで一旦会話を止め、おもむろにスカートをたくし上げる。
その際にランプの光で照らされた、うら若い乙女のまぶしいばかりな絶対領域があらわとなって伯爵はつい『おおっ!!』っと目尻を下げてしまう。
そんな伯爵に夫人はむっとしたのか、肘で小突いてきたので『すまぬ』と謝る。
それはある種のお約束とも言うべきやり取りであるも、その間に侍女は準備を済ませたらしい。
侍女の口から王の勅命である言葉が発せられた。
「死ね!!!」
……
…………
………………
一体何を言われたのか、わからなかった。
別に難しい言葉ではない。
たったの二文字、聞き逃すような事はまずない。
それでも、やはり意味はわからない……が、それ以上にわからないのは、自分がなぜ床に這いつくばっているのかだ。
「な、何を……した……?」
顔をあげれば、そこにはぞっとするような冷たい視線で見下ろす使者の姿がみえる。
その手には鮮血にまみれたナイフも握られており、刃先からぽたぽたっと血が滴っている。
伯爵は裂けた首筋の出血を右手で必死に抑えていた。
何をされたかぐらいはわかる。わかるが、斬られる瞬間を視認できなかったので頭の理解が全く追い付かなかったのだ。
「何をした……ですか?見ての通り、お二人は今ここで死んでもらいます」
「な、なぜ……だ?」
「勅命です。王は王国に害悪をもたらす害虫を今夜殺処分すると決められました」
「が、害虫……ですって……私達ほど王国に尽くした貴族は……」
グサッー!!
同じく首筋の頸動脈を切り裂かれて床に這いつくばっていた夫人の言葉を最後まで聞くことなく、トドメを刺した使者。
その横顔は無表情だった。
人を殺す事に何の躊躇もなく、ただ家畜を屠畜するかのような有様に伯爵は恐怖する。
「ま、まて……金ならやる……いくらでもやるから命ばかりは……」
「金なら死神に渡すのがいいでしょう。確か遥か東方の島国を治める倭国では死神に金を払えば払うほど死後の待遇をよくしてもらえるっというお話です。……もっとも、この国の死神は倭国の死神みたくお金で待遇よくしてもらえるとは限りませんけどね」
無表情で淡々とした口調で応える使者に命乞いは通用しなかった。
ならばと伯爵は先ほどから一歩も動かずに待機している家令に命令する。
「な、何をしている……か、家令よ……こ、こやつを捕らえろ……私を……た、助け……ろ」
「残念ですが、私には王の勅命を携えた使者を止める権限がありません」
「き、貴様……裏切る……気……か!?」
「聞いてなかったのですか?これは王の勅命ですよ。この場合勅命に従わない旦那様こそが裏切り者となります」
家令も私情をはさまない淡々とした口調……ある意味いつも通りといえばいつも通りだが、状況が状況なだけに家令からも見捨てられたと思ってしまったようだ。
「貴様……誰のおかげで贅沢ができる……と」
「優秀なご子息様でしょう。少なくとも旦那様のおかげだなんて微塵も思ってません」
「な、なんだ……と……ガフッ!!ゲフゲフッ」
言葉途中で喉が詰まり、せき込めば血の塊が吐き出される。
頸動脈から今なお流れ出る出血にまみれている右手は生暖かいが、対照的に全身がどんどん冷たくなってくる。
ここまで来れば、自分がもう助からないと嫌でもわかってしまう。
「な、なぜだ……なぜこうなった……どうしてこうなった」
意識ももうろうとしはじめ、身体がガクガクと振るえる。
それは寒さによるものか……
これから死ぬ運命におびえているのか……
あるいは両方か……
伯爵はわからなかった。
自分がなぜこうなったのか……
そんな伯爵が脳裏に映った光景。
それは……
戦争を勝利に導いた英雄としての自分ではなく……
“父上!!この戦争に参戦してはいけません!!!参戦すれば我がドリコヨ伯爵家は終わりを迎えてしまいます!!!”
必死になって戦争の参戦を止めようとする、息子の姿であった。
(そうか……息子はこうなる運命がみえていたのか…………すまぬ……)
「すまぬ………愚かだった……父を……ゆるして……く……」
んんんんー、許るさーん!!




