107.忘れよう。この仕事終わったら即刻忘れよう(SIDE:キナコ)
都合の悪いものは即刻忘れる。
それが長生きの秘訣である……なんて、これ死神に贈る言葉じゃないよねぇw
キナコは自分の置かれている状況に不安を感じていた。
最悪の場合は本当に『お前は知り過ぎた』とかで消される可能性すらあるのではっと思い始めていたところ、不意に悪魔から声をかけられた。
「ソコノオジョウサン。ズイブンフアンソウナカオヲシテマスガ、ゴアンシンクダサイ。ワタシタチハ『ボス』ノメイユウデアルアナタガタシニガミトアラソウキハマッタクゴザイマセン」
「え、えっと……それ信じていいんでしょうか?」
「信じて大丈夫っすよ。カボの旦那のボスであるレアちゃんはあっしの盟友と書いて、悪友っすからね~いや~レアちゃんはあっしら死神が直接動いたらまずい案件を引き受けてくれるから本当助かるっすよ。特に30年前の戦乱の神一派の粛清はレアちゃんの協力なしじゃ不可能っすから」
「フフフ……アレハケッサクデスヨ。マサカアレホドソウテイドオリニコトガススムトハットワレワレモベツノイミデオドロキマシタよ」
「それはあっしらもすよ。あっしら死神側がやったのはフランクフルト王国に嫁いできた王妃……当時はまだ次期王太子妃だったブリちゃんが未来から過去を遡って蘇った二周目の人間っと噂しただけっすからね」
「あの……戦乱の神様って確か冥府所属の死神が無許可で過去改竄という違法を行っていると告発するも、違法の証拠が一切出なかった事で逆に訴えられて、信頼を大きく落としたあの神様ですよね。詳しい内容は知らないのですけど、証拠もなく断罪してはいけないという戒めとして学校の教材でも載せられる……ま、まさか!?」
「くっくっく。キナちゃん。死神の世界もきれいごとだけでは済まないんすよ」
否定はしないが肯定もしない。だが、とてつもなく悪い顔をするアンコ先輩の態度からして罠にかけたのは確定だろう。
(そういえばアンコ先輩って本来ならとっくに出世してもいいはずなのに、ずっと平のまま……一応前に聞いたときは『現場主義なんで』っと言ってましたけど、もしかして裏で悪事を働いてるせいで)
「おいおい、アンコ姐さんもあんまり見習いをからかうなよ」
「そうだぞ。あれは戦乱の神が違法な手段で戦乱起こそうとしたから、俺達が自発的に阻止しただけだ」
「止める手段も魔女様のお力でまだ王太子の婚約者だった王妃様に世界崩壊するような予知夢をみせて戦乱回避へた動くように仕向けただけだからな。まぁ俺達も王妃様が二周目の人間と噂したが、あの糞神はそれを信じた上に証拠もなく過去の改竄は違法だっと騒いで、後は知っての通り」
「そ、そうだったんですか……ですが、それって冤罪」
「心配しなくてもいいさ。あいつらは前々から違法な手段で戦争を起こしてるせいで俺ら現場の死神から不評買ってたんだ。それに、俺らよりも怖い鬼神様達もあいつ調子乗ってるしそろそろ〆るかなんて検討してたぐらいだし、俺達が動かなくても遅かれ早かれ誰かしらが動いて終わってたさ」
「ちなみにあいつらは事件後に逆恨みでレアちゃんを襲撃したんすよね。あっし達死神より弱そうという理由で……」
「腐っても戦乱の神があの魔女様の強さを見誤るなんて救いようないよなぁ……」
「あの魔女様、噂だと冥府で一番強くて偉かった前地獄王様と殴り合いのタイマンを制して一時期冥府の支配者となってたとか言われてるし、少なくとも俺達より強いのは確実」
「ソノトオリ。チカラジマンノカミガナススベモナクイッポウテキニボコレルグライ、“ボス”ハツヨイノデスヨ」
「あっはっはっは。あれはミコ生放送で一部始終みてたっすけど、最初強気だったのに素手でぼっこぼこにされて、最後にはパン一で土下座させられた挙句に頭ぐりぐり踏みつけられるという、戦乱の神の矜持をこれでもかと破壊された映像だったっすからねぇ。そんな情けない姿に強さこそ全てな信者からそっぽ向かれて、今じゃ土下座の神なんて呼ばれる始末」
「俺もリアルタイムでみてたが、あれは傑作だったなぁ」
「全くだ。今でも思い出したら笑っちまうよ!!」
「「「「「俺達もだよ!!アッハッハッハッハッハ……」」」」」」
「…………わ、私は一体何を聞かされてるっていうの?」
途中から手持ち無沙汰な先輩死神達も加わり、キナコを置いてけぼりの雑談会。
傍から見れば仕事開始前の一服ともいえる和やかな雰囲気ながらも、内容は下手に外へもらしたらまずい内容ばかり。
表沙汰になったら、神々すら巻き込む大戦争の発端にもなりかねない程だ。
そうした話を聞いていく内、キナコはある仮説にたどり着いた。
「ま、まさかその魔女様って……いや、こんなの見習いの私が抱えるにはやばすぎる……忘れよう。この仕事終わったら即刻忘れよう」
下手すれば本当に知り過ぎた枠に入れられて消されかねないような状況下であっても、仕事を放棄せず逃げ出さない辺り根っからの真面目人間であた。
こうして凄惨な処刑も終了の時が……ようやく死なせてもらえた者が出てきたことで一服タイムは終了。
悪魔に無理やり死を妨げられてたせいで魂の荒れ具合が尋常ではなく、送り届けに一苦労するもアンコをはじめ、周囲の先輩達にフォローしてもらいながら最後まで仕事を終えることができた。
そして、キナコは魔女様に……
悪魔達の長であり、審判の神様の娘であり、襲ってきた戦乱の神を逆にボコって返り討ちに出来る程の強さを誇る件の魔女と対面し……
「わ~い、おちゃけおいち~~」
帰り際にアンコ先輩から誘われたとっておきの温泉に浸かりながらお酒……『鬼殺し』と銘打たれたとてつもない度数を誇る清酒を熱燗ではなくお冷やでガブガブと飲むことで、魔女様宅で見聞きした事柄を全て忘れ去ろうとした。
その甲斐あって翌日には大半の記憶を吹っ飛ばす事に成功するも、その代償として……
「あひぃぃぃ……頭が割れるようにいたひ……」
しばらく二日酔いでダウンしてしまうキナコであった。
人外サイドで不穏な動きを見せ始めた今日この頃……
果たして王国は無事に明日を迎える事が出来るのか……
とりあえずわかるのは一つ。
30年前のやらかしの黒幕とされていた戦乱の神はすでにざまぁされてたという事であろうwww




