106.私、もしかしてとんでもない人からの依頼を請け負ったっていうの?!(SIDE:キナコ)
頭がおかしくなって死ぬ案件ですね、わか……ってたまるかって心境かなw
トスッ!!
「はっ!?私は一体なにを……」
「むぐむぐ。キナちゃんも頭おかしくなる気持ちわかるっすけど、まずはこれでも食べて落ち着くっす。おいしいっすよ」
思わず発狂してしまったキナコだったが、そこは腐っても死神達の現場長であるアンコ先輩が伝統と信頼の斜め45度チョップで正気へと戻してくれたようだ。
ただし、現世に戻っても目の前の現実を受け入れられるかはまた別。
その唖然としたキナコを見兼ねたのか、アンコ先輩はお茶菓子を手渡す際に一言添えてきた。
「開始前に伝えたはずっすよ。レアちゃんは今の惨劇を行ってる悪魔を配下として使役出来る程度に倫理観や人格がぶっとんでるっと」
「だ、だからって魂まで傷つけるのは明らかに……ま、まさかこれって許可もらってやってるんですか?!」
「モチロンデス。ワレワレノオコナイハアンコサマカラノキョカノモトデオコナッテマス。モットモ、コレモ“ボス”ガジゼンニネマワシシテクレタオカゲデスガ」
「お上や他の神々もレアちゃんみたいな危険思想の持ち主を下手に締め付けて恨み買うぐらいなら、ある程度譲歩する方がまだ被害軽微に済むと思ってるっぽいすからね~それにレアちゃんも道理をわきまえてるだけあって各所に事前申請や事後報告、さらにアフターケアもきっちり行ってくれるので最悪な事にはならないはずっすよ。
ただまぁ~今回の件は許可もらうのにかなり苦労したっとも言ってたっすな。特に審判の神様なんて、申請書をみた瞬間『あの馬鹿娘を呼べ!!』とかで強制召喚させた挙句に開口一番で『なんだこの申請書は!!』っと物理的に雷落としながら大目玉食らわされたとか」
「“ボス”ニトッテハシンパンノカミカラノカミナリナンテイツモノコトデスヨ。ソレニ、コウシテキョカモラエタノナラナニモモンダイアリマセン」
「神様も建前的に説教をしたというポーズぐらいしか思ってなさそうっすし、結局はあれすかね?天下の審判の神様といえども、可愛い娘のONEGAIを無碍にはできないっと」
「“ボス”モムスメニハカナリアマイタイオウシテマスシ、マサニ『シンリ』ッテヤツデショウナ」
「家族愛って奴だね~。あっしも兄妹とは仲よくしてるんで、やっぱり家族っていいもんっすよ」
「ソノカンジョウ、ムカシハイマイチヨクワカリマセンデシタガ、“ボス”ノモトニクダッタイマデハナントナクワカリマス。……ククク、アクマノワタシガ『アイ』ヲリカイスルトハワライバナシモイイトコデスヨ」
また悪魔と仲良く談話するアンコ先輩であるも、キナコは冷や汗が止まらない。
それもそのはず。
今の冥府は魂の取り扱いに厳しいのだ。
そうなった経緯は昔……100年以上前は一部の者達がずさんな管理をしたせいでこの大陸にイレギュラーとも言えるような者を不本意な形で転生させてしまった上、そのイレギュラーの転生者がぶち切れ。
転生に携わった関係者を世界や冥府、さらに神もろともぶっ潰しにかかったそうだ。
ちなみに、そのイレギュラーな転生者の詳細は不明。唯一知っている事といえば、人間なのに生身で冥界や神界に踏み込めるどころか神すらも殺せる程のチートってレベルでは済まない馬鹿げた力の持ち主という……
本来であれば、力を封印するか神の配下である英霊として迎え入れるか等なんらかの処置を施さないといけなかった魂ということだ。
そんな死神視点からみても化け物と称さざるを得ない転生者は今どこで何をしているか一切不明。
一応スペックとしては人間だから寿命で死んでると思われるも、神を殺せるような奴に人間の常識が当てはまるとは思えず……
かといって、下手に調べたら『お前は知り過ぎた』で消されかねないからっと半ばトップシークレット扱いにされている。
っとまぁ、そんなわけで冥府は二度とあんなイレギュラーともいえる転生者が現れないよう、魂の管理をより厳格にしたそうだ。
ちょっとした例外も認めないよう、徹底的な管理下に置かれてるのにその例外が認められるなんて……
いや、そもそもこの大陸の最高神で実質の支配者ともされてる審判の神に娘が居るなんて知らなかったというか……
「私、もしかしてとんでもない人からの依頼を請け負ったっていうの?!」
キナコは自分のうかつさを少々呪いたくなる気分に陥りはじめるのであった。
A「何度も言うっすけど、事前に忠告はしたっすよ」
K「いや、その前になにかいろいろおかしくない?!」




