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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
追っかけ少女 ツク
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アルの許し

 自宅でまたしても首を痛めたロウアは、アルのピンチに慌てた。


「イテテ……、く、首がまたおかしくなった……。そ、そんなことより、急いで行かないと不味いぞ……、痛い……」


 ロウアは急いで外に出るとアルの家にそのまま向かった。彼らは、ご近所付き合いもあってか、昔から遠慮無くそれぞれに家に上がっていた。しかし、未来からやって来たロウアは、そんなことは未経験だったため、遠慮がちに玄関を開けるとそっと中に入った。


「……え、え~っと。お、おばさん、すみません。お、お邪魔します……」


「ううん?ロウア君?そうか、君もアルと同じ部活だったわね、だけど、こんな遅い時間に集合?」


「ちょ、ちょっとアルに会いたいなというか……。あぁ、そうじゃなくて、えぇっと、そういった意味じゃなくてですね……」


「……変なこと言うのね、いつも通り上がって良いのよ。今日はアルも大はしゃぎねっ!」


 アルの母親は特に気にせず、そのまま通してくれた。


「い、急ぎますっ!」


「はぁ~、若いって良いわねぇ……」


 アルの部屋には縛ったとはいえ、なにをするか分からない四足歩行ロネントがいた。小さいとはいえ、銃などの武器を持っていればアルが殺されてもおかしくなかった。


 ロウアは、そのまま二階に駆け上ってアルの部屋の自動扉を無理矢理開いて中に入った。


「アルッ!!大丈夫かっ!!」


「あっ!イケカミ……、ご、ごめんね……」


 しかし、アルはしおらしく座っていて、急に謝りだしたのでロウアは拍子抜けしてしまった。よく見ると四足歩行ロネントは彼女の前で犬のように座っていた。


「ど、どうしたの?」


「このちっさいロネントを問い詰めたら、正直に教えてくれたの……」


「う、うん……、そうなの……?はぁ~、それなら良かったぁ……」


 すでに他の部員達も寝間着姿でアルの部屋に集まっていて、慌ててやって来たロウアの姿を見て皆が顔を赤らめた。


「な、なあに?慌てすぎじゃない?」


「アマミル先輩……?何がですか?」


「にゃっにゃ……。イケカミ兄さん……、その服……というか……し、下着……」


「あっ!」


 ロウアは慌てすぎて、上はシャツ一枚の下はトランクスのままでやって来ていた。


「ちょ、ちょっと、戻るから……ま、待ってて……く、くださいっ!!ちゃ、ちゃんと、そのロネントを、お、押さえておくんだよっ!いいねっ!」


 女子達の苦笑を後ろに聞きながらロウアは慌てて家に戻って、制服の下だけを急いで履くと再びアルの部屋にやって来た。


「……そ、そ、それでどうしたんですか?大丈夫だった?問題無し?」


「ぷっ!やだやだやだっ!君は一体何をしているのだ~っ!今日一番の面白さだよ、君はっ!」


 アルの一言で場が一斉に爆笑の渦に巻き込まれた。


「だ、だって……、アルが襲われたらと……」


「このロネントちゃんが説明してくれたんだよ」


 アルは、ロウアがこちらに向かう前に、下着でこんがらがって動けなくなった四足歩行ロネントに問い詰めたようだった。意外にも四足歩行ロネントは、正直に全てを話したようだった。


-----


「ねぇ、君が私の部屋を覗いていたの?」


"は、はい……。アル様……"


「ア、アル様?!私に様を付けるなんてっ!あははっ!何でそんなことしたのぉ?私のファンかな?」


"そ、その……、アル様を尊敬していまして、その……あの……、し、私生活を見ていれば何か参考になるかと思い……"


「えっ?尊敬?私を?う~ん、私って、誰かに尊敬されるような人間じゃ無いよぉ~」


"い、いえ、そんなことはありませんっ!あ、あなたは、その……、いつもとても輝いていますっ!この前のライブも、い、衣装が色々代わって……その……あの……、あなたはとても輝いていましたっ!その輝きがとても眩しくて眩しくて……"


「わぁ、ありがと~っ!」


"アル様はいつも……、いつもそうなんですっ!学校でもあなたの周りに人が集まって来ますし……、アル様は……、アル様は、みんなの中心におられるのですっ!だ、だから、その……きっとアル様は、人間性も素晴らしいと思ったのです。そ、その秘密を知りたくて……、うっ、うぅぅ……。私はとても地味な人間で……、とてもとてもうらやましいというか、すごい人だと思って……"


「やだやだやだ~~~っ!そ、そんなに褒められると照れちゃうなぁ。というか学校ってことは、もしかして君もナーカル校の生徒なの?」


"……はい"


「その声って人工の声じゃ無くて、生の声だよね。とすると私と同じぐらいの女の子?」


"……は、はい。お、女です……"


「おぉ~っ!あんまり女の子のファンっていないし、嬉しいなぁっ!」


"!!!"


「だけど、こんなことしたらダメだよぉ~~。私の汚い部屋なんて見てもつまらないでしょっ?」


 ロウア達は、アルの話を聞いていたが突っ込みどころはそこじゃ無い気がした。


"い、いえ、その、す、すいませんでした。もう二度と近づきません……。明日警察に自首します……"


「やだやだやだ~~~っ、そうじゃなくってさっ!」


"は、はい?"


「学校で会おうよ。こんなまどろっこしいことやらないで良いってっ!」


"そ、そんなっ!わ、私は警察に捕まってもおかしくないです……"


「男だったら許さなかったけど、女の子ならお友達になれるじゃんっ!」


"お、お、お、お、お友達……?!"


「そうだよぅ~。明日学校に来るよね?」


"は、はい……"


「それじゃ、放課後になったら私らの部室に来てよっ!え~っと、部活は……何だったっけ?」


 ロウア達はずっこけてしまった。アルは部活の名前も知らずに来ていたらしい。


"霊界お助けロネント部……です"


「そうそうっ!あははっ!明日、絶対に来てねっ!!」


"そ、そんな……。恐れ多い……"


「やだやだやだ~~~っ!私はそんなに怖くないぞっ!あっ、そうだ。来なかったらこのことをツナクに拡散しちゃうぞっ!」


 それって脅しなのでは……、とロウア達は思った。


"は、はい……。是非、お、お伺いさせて……頂きます……"


「うんうんっ!それじゃあ、このロネントは、それまで預かっておくぞぉっ!」


"はい、かしこまり……まります……ました"


-----


 ということで、アルの天真爛漫さでストーカーロネントは許されてしまったのだった。


 話が終わった頃、二階から戻ってこないアルを心配してアマミル達が上がってきたのだった。


「だけど、アルちゃん、本当にそれで良いの……?」


 アマミルが心配そうにアルに問いかけた。


「はいっ?何がですかぁ?」


「そうだよ。この子はアルちゃんの部屋を盗撮していたのよね……?」


 イツキナが付け加えるように話した。


「……そうですけど、女生徒だから大丈夫かなと。なんか良い子っぽいですし」


「良い子って……う、う~ん……、本当に女性なのか、本当にナーカル校の生徒なのか分からないでしょ……?」


 アマミルは、このロネントの言っていることを信じて良いのか決めかねていた。すると、黙っていたロネントが声を発した。


"わ、わたしは、ツクと言います。ナ、ナーカル校の二階生……です……"


「なあに?ツクさん、そのお名前は本当なのかしら……?何か証明できるものでもある?」


"こ、これをご覧下さい……ませ"


 すると、四足歩行ロネントは、小さな立体映像として電子的なナーカル校の生徒手帳を表示した。このデータは学生なら持っているツナクトノに保存されている生徒手帳だった。


「確かにナーカル校の生徒手帳ね」


「アマミル、これって偽物ってこともあるよね」


「う~ん、そうよね……」


 イツキナは、このカードも本物かどうか疑いをかけた。アマミルも未だ信じ切ってはいなかった。しかし、アルは、完全に信じ切っていて脳天気に彼女を庇護した。


「アマミル先輩、イツキナ先輩、きっと大丈夫ですよっ!明日部室に来てくれるんだよねっ?」


"は、はいっ!も、もちろんですっ!!"


「学生証も見ましたし、信用できますよっ!」


「えぇ……」

「う~ん……」


「いざとなったら、このロネントの通信元を調べれば証拠は押さえられます」


 ロウアは補足するように説明した。


「おぉ、イケカミのくせにいいことを言ったっ!」


「くせにって……一言多いよ……」


 アルの一言にロウアは腹を立てたが、アマミルはため息をつくと条件付きで話を受け入れることにした。


「分かったわ。ツクさん、このロネントは預かっておくわ。明日来なかったらロウア君が言ったように調べるからね」


"は、はい、ご、ご迷惑をおかけしますです……"


「その後どうするかは、アルちゃん次第よ」


「は~いっ!アマミル先輩」


 ホスヰは、怖くてさっきからシアムにくっついたままだった。


「あうん……」


 シアムはやれやれといった顔をしていた。


「アルちゃんは呑気だなぁ……らしいけど」


-----


 こうして盗撮ロネントの裁きが終わり、一同は一階に戻っていった。すると、アルがロウアに意味不明な突っ込みを入れてきた。


「ちょ、ちょっと、ロウアは何でこっちに来るのよっ!」


「いや、一階に降りないと出られないじゃないか……」


「それと下着は返してよっ!!」


「このロネントが逃げてしまうだろ……」


 ロウアが、ロネントを預かることになったのだが、アルの下着が巻き付いたままだった。


「む~~~っ!!」


「わ、分かったって……」


 ロウアはロネントに巻き付いた下着を外そうとした。


「やだやだやだ~~~っ!触らないでっ!!」


「もう、どうしろと……」


 アルは憤慨して下着を外すと、四足歩行ロネントをロウアに渡した。


「あ、マフメノ君のロネントも忘れずに持っていくようにっ!」


「なにっ!?二台も無理だよっ!」


「む~~~~~~~っ!!」


「な、何だよ……、全く……」


 ロウアは渋々二階に戻るとマフメノのロネントも合わせて持ってきた。


「お、重い……」


 ロウアが二体のロネントを二階から持って降りくると、ホスヰがアルに訪ねた。


「ねぇ、アルお姉ちゃんのお部屋はどうして汚くなっちゃったの?」


「え、えっと、あれは、え~えっと、う、ううん、どう説明すれば良いかなぁ……」


「あうん?」


 アルはしどろもどろとなり、部員達の緊張の糸は切れて大笑いになった。


「今日一番の面白さだねっ!」


「ムカッ!早く帰れっ!ヘンタイ下着男ぉ~っ!」


 アルはロウアの一言に腹を立てて、彼のお尻に蹴りを入れた。その勢いでロウアは2台のロネント共にすっころんでしまった。


「いてて……、ひどすぎる……」


2023/08/31 文体の訂正、文章の校正


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