モテるということ
午前中の授業も終わり、お昼休みになった。幼なじみ三人は揃って食堂に向かった。ナーカル校では、三階生になると給食はなくなり食堂で食べるようになるためだった。食堂では様々な食事がバイキング形式だったので各自取り集めながら、最後にツナクトノでタッチして精算した。
「いやぁ、それにしても同じ教室になるとはねぇ、私は笑っちまうよ」
「うん、アルちゃんっ!嬉しいねっ!……って、あれ、あんまり嬉しそうじゃない、にゃ」
「家も近いから何だかなぁと思っててねぇ。毎日顔を合わせているじゃ~ん」
アルはあんまり嬉しくないらしく、顔をしかめていた。それを隠しもせず話すのはアルらしかった。
「全く、酷いことを言うなぁ……。だけど、ほら、キルクモ先生も来たから嬉しいだろ?」
そう言うと、アルは顔を真っ赤にして周りを警戒しつつ、ふざけるなと憤慨した。
「やだやだやだ~~~っ!!!イケカミィ~~、それを話すな~~っ!!」
「あっ、そうだった」
「んが~~~っ!このぉ~っ!」
「あっ!ごめんっ!なんかメッセージが飛んできた」
ロウアのツナクトノにメッセージが送付されてきて、それが回復した右腕のツナクトノに通知表示された。アルが怒りにまかせて皿を飛ばしてきそうだったので、ロウアは食事の席から外れた。
「バカガミ~っ!逃げるな~~っ!」
ロウアは、学校でカフテネ・ミルのシアムを救ったヒーローとして有名になってしまっていたので、女生徒達からモテるようになっていた。そのため、話した事も無い女子生徒からもラブレターをもらう事も多かった。このラブレターはツナクを通して、21世紀のLINEのように送付されてきた。ロウアと友達申請をしていないにも関わらず飛んでくるので、どうやって知ったのか彼には見当も付かなかった。
[二階生 ○○○です。今度お会いしたく……]
[ロウアさんへ、ずっと憧れていました。で、できれば……]
[今日の放課後お目にかかれませんか?]
[同じ教室になれて嬉しいです!あ、あの二人でお話し……]
[好きです。会いたいです。]
アルはいつの間にかロウアの後ろに居て、それらをじっと見つめていた。
「ふ~ん、モテてイイネ~」
「にゃ~、すごいメッセージの量……、確かにモテモテ、にゃ~……」
「えぇ……。二人だってアイドルやってるから、モテるじゃないか……。というか勝手に覗くなって……」
最初の頃は、ロウアも気にしていなかったが、この二人を見つめる視線は実に多かった。この食堂はもちろん、廊下、運動場、教室、色々な男子生徒はもちろん、女生徒達も彼女たちを見つけては手を振ったり、声をかけて来たりと、二人はそれらにいちいち返答しているので、かなり忙しそうだった。
こんな事を話している時も、男子生徒が二人に声をかけてきた。
「お、アルちゃん、シアムちゃんだっ!頑張れよ~~っ!」
「今度のライブ見るよ~っ!」
「この前のライブ中継、よかったぜ~っ!」
「うん、ありがと~っ!」
「ありがとうっ!また頑張るにゃ~っ!」
ロウアは、それを見て二人に気になっていることを聞いた。
「色んなところから、色んな人が二人を見ているよ……。気にならないの?」
「う~ん、確かに目立つようになっちゃったよね~、アルちゃん……」
「そだね~、ここまでうけるとは思わなかったからなぁ~っ!たはは~っ!」
池上だった時代では孤独だった事もあり、ロウアはこの周りがざわめく状況に嫌気が指さないのか気になっていた。二人はここまで自分達が人気が出るとは思っていなかったらしく、苦笑いしていた。
「だけどさ、前からこうだったっけ?全然、気づいていなかったよ……。」
アイドル活動を知らなかった時のロウアは、この色々な視線に全く気づいていなかった。
「バカだなぁ、イケカミは。前からこうだったって~。だからバカカミなんだよ」
アルの罵詈雑言の直球がロウアに飛んだ。
「う、うるさいなぁ……」
「イケカミ兄さんは、それどころじゃ無かったんだよ、アルちゃんっ!」
シアムはすかさずフォローしてくれた。だが、そんな二人をロウアはある意味尊敬していた。
「二人は良く耐えられるね……。すごいというか何というか……。こんなに騒がしいと僕なら嫌になりそうなんだけど……」
「う~ん、慣れだよね、シアム」
「そだね~。でも、みんな応援してくれるから嬉しいかな~」
アルとシアムは顔を見合わせると、何てこと無いよって顔をしてそう言ったので、ロウアは更に感心した。
「はぁ、そう考えれば良いのかっ!」
「そうだよ、白右手の王子様っ!私達を見習いたまえ~っ!」
「アルちゃん、偉そう、にゃっ!」
アルは、ロウアを茶化すように通称で呼んだ。ロウアの右手はすっかり治ってしまったが、治ったところだけ色素がないため、真っ白になっていた。その白い手でシアム姫を救ったということで、白右手の王子なんて呼ばれていた。これがロウアのモテている原因だった。
「あの時は右手はちゃんとしていなかったんだけど……」
ロウアは頭をかきながら困った顔をしてそう言った。
「まあ、良いじゃん。あははっ!白右手のイケカミお・う・じ・さ・ま~っ!」
「白右手のイケカミお兄ちゃん、にゃっ!」
「だから、そ、その名前は不味いって言ってるのに……。」
ロウアは、周りをキョロキョロして誰かに聞かれていないか警戒した。
「あとシアム……、お兄ちゃんじゃないって……」
「きゃっ!呼び捨てなんて……。照れちゃう……にゃ……」
「い、今までも呼んでいたって……」
「い、今までも呼んでいたって……」
ロウアは、想定外のところでシアムが顔を赤らめたので困ってしまった。
「はぁ~、イケカミ-ロウア君……。君はな~んて罪深いのだっ!」
顔を赤らめて、猫耳が垂れ下がったシアムを見つめたアルがそう言った。
「ア、アル……、外人みたいな名前になってるよ……」
「なんだよ~、カイシンってっ!また、ロウア語かぁ~~」
アルはロウアが時々間違えて話す日本語をロウア語と称していた。だが、相変わらず、アル達は濁音が発音できなかった。
「あ、お昼が終わっちゃう、にゃ」
「やだやだやだ~っ!早く食べよ~」
二人はそう言いながら食事の席に戻ったので、ロウアも慌てて昼食の続きをした。
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放課後になると、アルとシアムは早々に帰り支度をしたので、ロウアが声をかけた。
「今日は急いでいるんだね」
「私たちは稽古があるのだ。ライブが近いのだよ」
「またね~、イケカミお兄ちゃんっ!」
「うん。頑張ってねっ!って、また……」
シアムの誘拐事件も落ち着いてきたので二人のカフテネ・ミルとしてのアイドル活動が活発になってきていた。アルとシアムは、ロウアに手を振ると学校を後にした。
それを遠くから見ていた女子生徒がいた。
「イケカミ……?誰だ、そいつは……」
ロウアはそんなことに気づず、彼も鞄を手に取るといつものように勉強するため図書室に向かった。
2022/10/25 文体の訂正、文章の校正




