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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
引きこもり少女 メメルト
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ルームメイトの涙

 メメルトは、ナーカル校の女子寮に入ることになっていた。


 貧しい村から来たメメルトは、仕送りだけで生活できるか不安だったが、寮費は無料だったのと、学園都市周辺の物価は比較的低かったので何とか生活は出来た。メメルトは、他の貧しかった村の住人達とは違う生活が出来ることを誇らしくもあり、自慢でもあった。だから自分の未来は幸せしかないのだと信じていた。


 だが、メメルトは、ナーカル校に入学するとすぐに自分の学力が大したことがないと分かってしまった。小さな村の成績など大陸全土から比べたら大した成績ではなかった事に彼女は驚愕し、劣等感を抱くようになり、恐れを感じるようになった。それでも、彼女は一年目は何とか頑張ることも出来たのだが、それ以降は、いくら頑張っても成績が同年代の生徒達に追いつかず、遂に落第して下の年齢クラスになってしまった。


 村の期待を集めて首都にやって来たのに、都会では全く歯が立たない状況は、彼女の心を破壊するのに十分だった。彼女は、徐々に勉強に身が入らなくなり、学校に行かなくなってしまった。更に、その劣等感から逃げるように、流行っていたツナクのオンラインゲームに身を寄せ始めるようになってしまった。


 メメルトはルームメイトを部屋から追い出すと今日もオンラインゲームにログインした。

 この文明でもオンラインのゲームは盛んであったが、21世紀のそれとは比べものにならないぐらい自由であり、頭にかぶったVR装置のようなもので意識をバーチャル空間に移動することが出来た。無論、現在のオンラインゲームと同じように、様々な地域から様々な人達がログインしていた。


「こんにちはっ!」


 メメルトはログインして集会所に移動すると自分のよく知るギルドメンバーに挨拶をした。


「あぁ、来た来た。遅いよ~」


「遅れてごめんね~っ!」


 このオンラインゲームはムー文明の初期に起こった大陸の統一戦争をテーマにしていた。当時は大陸が四分割されていて群雄割拠の時代だった。


 各プレイヤーはどこかの国に所属して、他の国を攻撃し、その領地を奪っていく、最終的に大陸全体を自分の国の支配とする事が目的だった。敵領地攻略中は、剣のような武器や、弓のような飛び道具を持って殺し合う。殺されたプレイヤーはすぐに復活するので、どれだけ相手国のプレイヤーを殺せたかによって、その日の戦果が決まる。その戦果で自分の国の支配地域が広がったり狭くなったりもするルールだった。一旦どこかの国が大陸を侵略し終わると、もう一度最初の四地域支配に戻り、戦いを繰り返すといったゲームだった。


 このゲームには、純粋にゲームとして遊ぶ者もいたが、ロネント達に仕事を奪われて時間を持て余す者などの集まる場所になっていた。つまり、メメルトもこのようなゲームの中に身を置くことで現実から逃げる日々を送っていた。


「またね~」


 メメルトは今日も仲間と協力して数時間このゲームで遊ぶと、ログオフした。VR装置を外すが、ゲーム内での興奮が収まらなかった。


「あぁ~、楽しかった。今日はかなり領地を広げられたわっ!」


 外は夕方になっていて、部屋は暗くなり始めている。部屋のセンサーは暗さを感知して、自動的に部屋の明かりを付けた。メメルトはその明るさ照らし出された机の上に貼られた自分の両親の写真を見て急に現実に引き戻された。


「……」


 楽しいゲーム内での生活と現実とのギャップは彼女を狂わせ始めていた。


「……私……」


 自分を応援してくれた両親……、友達……、何も無い田舎町では村全体が家族のようだった。


「私は……、私は……、何しているの……」


 少女は自分の髪を強く掴み、自らの手でくしゃくしゃにしてしまった。その顔が鏡に映ると父親がそうしてくれたような髪になっていた。だが、そうなったのは父親のせいではなく、自分のせいでだった。少女の脳裏には父親が笑顔で自分の頭をなでている姿が浮かんでいた。


「あぁ……、あぁ……。お父さん……、お父さん……、お父さんっ!!!駄目な私……、駄目な私なの……。ごめんなさい……、お父さん……、お母さん……」


 メメルトはベッドに潜り込むと布団をかぶり、情けない自分に涙した。その辛そうな彼女をルームメイトは学校から帰る際に何度も見ていて、何とか彼女を助けたいと願っていた。


「メ、メメルト……、どうしたの?」


「う、うるさいっ!!!ほっといてよっ!!」


「ご、ごめんなさい……」


 だが、今日も悲しみの理由を説明してくれないメメルトをルームメイトは見つめる事しか出来なかった。こんな日々が数ヶ月も続いた。


-----


 ある日、ルームメイトが学校から自分の部屋に戻ると、すぐに自室の異常を感じた。


「……な、何か変……。なんだろう……。えっ?!まさかっ?!……メ、メメルト……?」


 メメルトはベッドの上にいつものように寝ていたが、VR装置が外れて白目を向いて、半口を開けて息をしていなかった。


「あ、あ、あぁ……、メ、メメルト~~ッ!!あぁ、あぁ、あぁ……いや~~~~~っ!!!!!」


 その叫び声を聞いて女子寮の他の生徒達が集まって来た。


「ど、どうしたの?!」

「キャ~~~~ッ!」

「りょ、寮長を呼んでっ!!!」


 生徒達はその異常な光景を見て、寮長を呼んだ。


「何ですか?ま、まぁっ!!!た、大変っ!!!」


 部屋に入ってメメルトの変わり果てた姿を見た寮長は急いで救急車を呼び、彼女を急いで病院に運んだ。だが、彼女はすでに手遅れだった。


-----


 後日、ショックが消えないままルームメイトは警察に呼ばれ、事情聴取を受けた。


「はぁ、なるほど、メメルトさんはツナクのオンラインゲームをやっていたと」


「……はい、そう聞いています」


「私たちも、同じ事を他の生徒さんから聞いていますが、奇妙なことに……」


「はい?」


「……そのゲームはすでに数ヶ月前に運用を停止しているのですよ……」


「えっ……!そんな……」


 ルームメイトは、メメルトがやっていたと思われるツナクのオンラインゲームは数ヶ月前にサービスを停止していたことを聞いて、衝撃を受けた。


「つ、つまり……?」


「つまり、彼女はVR装置を頭に装着していただけなのですよ……」


「か、彼女はいつも……、一体何を……、何をしていたというのでしょうか……?」


「分かりません……。実際にゲームをしていたのかどうか……。あなたは同室だったから、何かご存じではありませんか?」


 だが、ルームメイトは学校に行っている間のことで何も答えることが出来なかった。警察も事情が分からず、この事件は被害者の心臓発作による死亡事故と片付けられた。


 その後、そのルームメイトは、寮長の計らいで別の部屋に移ったが、何も出来なかった自分に後ろめたさを感じて何も手がつかなくなってしまうのだった。


「メメルト……、私あなたを助けてあげられなかった……。ごめんね……」


2022/10/22 文体の訂正、文章の校正


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