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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
後日談
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トンデモ企画進行中

 ロウアの眠る小さな病室は、お見舞いの人達にでギュウギュウ詰め状態になっていた。その隅っこで、シアムは集まったロウアの仲間達を見つめて涙を堪えて立っていた。


"いやよ、みんな幸せになっているのにあなただけ……、あなただけが帰ってこない……。いや、いやなの……。思ってはいけないけど、どうしてって考えてしまう"


「シアムゥ……」


 そんなシアムを気遣ってアルが声をかけた。


「あ、アルちゃん……。グスッ……どうしたの?」


 シアムは鼻をすすりつつ、貯えた涙を拭いて答えたので、アルはやっぱりロウアの事を考えていたのだろうと思った。アルはシアムの手を握ってあげた。


「ありがとう、アルちゃん……」


「やだやだ……良いってことよぉ~」


 そんな二人の様子を見ていたアマミルは急に声を上げた。


「そうね、みんなの送別会を開くわっ!」


 それは、子ども達の事もそうだったが、シアムのことを思っての発言だった。


「わ~っ!アマミル隊長っ!」

「本当っ!」

「うれしいっ!」

「隊長っ!嬉しいですっ!」


 無論、子ども達は大喜びだった。


「ちょっと待ちなさい。隊長って誰が言ったの?」


 しかし、アマミルがこんな事を言うので子ども達は凍り付いてしまった。


「……良い響きだわっ!これからは私は部長ではなくて隊長と呼びなさいっ!」


 しかし、アマミルは鼻息を荒くして腕をぐっと引き寄せて嬉しそうにしたので、子ども達も隊長、隊長と呼んだ。その声にアマミルは更に有頂天になっていったが、部員達はこれからは隊長と呼ぶのかと頭を抱えた。


 それらを聞いていたホセイトスはいぶかしげな顔をした。


「お、おい、隊長さん。それはいつやるんだよ。明日出発なんだぜ?」


「今夜に決まっているわっ!」


「はぁ?!まじで……いや、まぁ、お前らしいか……」


 ホセイトスはしょうがないなと思ったが、部員達は、まあそうだろうなと思っていたので準備を始めねばと動き始めていた。


「本当かい?急だなぁ。場所はどうするんだい?」


 カウラも驚いていると、アマミルは左腕を腰に当てて右手の人差し指を天井に向けた。


「ここよっ!」


「えっ?それはどういう……」


 その姿が格好良かったのか、子ども達まで真似をしていた。


「ここの屋上よっ!」


「なっ!病院の屋上かいっ?!勝手に決めないでくれよ……」


 カウラは呆れて頭を抱えたが、シアムとアルが彼の手を握った。


「カウラお兄ちゃんなら、やってくれる、にゃっ!」

「カウラ兄ちゃん、よろしくっ!」


「しかしだなぁ、ここは病院なんだぞ……。僕は医院長としての威厳があるし……」


「私達が歌を歌います、にゃっ!」

「えっ?!う、うん、そうだ、歌いますっ!」


 シアムの唐突のは話にアルが調子を合わせた。すると部員達を含め子ども達までじっと彼を見つめたので、カウラは諦めるしかなかった。


「……はぁ~、分かった分かった……。悪い前例を作ってしまいそうだ……」


「やった~っ!」

「わ~いっ!」

「ひゃっほ~っ!」


 そうしていると、病院内に急に放送が流れた。


"ご入院の患者様、および、ご来院の患者様、突然の放送、失礼いたします。"


「はぁっ?!な、なんだ、この放送はっ?!」


 カウラは打ち合わせしていたかのように院内放送が流れたので慌てた。


"更に突然の事ながら、復興一年目の祈念として当病院にて、今夜、カフテネ・ミル・フラスラのコンサートが開催される事が決まりました。是非、皆様、お誘い合わせの上、当院の屋上にお越し下さいませ。身体が不自由な方は看護師へのご相談を承っております。"


「えっ?!なあに?カフテネ・ミル・フラスラッ?!誰よ、そんなこと言ったのっ!それはないわっ!ただの送別会よ?」


 まさか自分が歌うとは思ってなかったので、今度はアマミルが慌て始めた。


「だ、誰よ、こんな事を決めたのはっ!」


 その犯人はすぐに分かった。部屋の外でイツキナが複数の看護師と話をしていたからだった。一人はマイクらしきものを持っていたので、彼女が院内放送をしたのだと分かった。


「イ、イツキナッ!何してるのあんたっ!」


「いいじゃん、歌おうぜ~」


「勝手なことするじゃないわよっ!!」


「自分で企画しておいて何言ってるんだよ~」


「わ、私達が歌うなんて言って……」


 アマミルがイツキナにそう言って怒ったのだが、すでに後の祭りだった。他の病室から出て来た患者達が彼女達を応援し始めたからだった。


「いいぞっ!」

「楽しみにしてるぞっ!」

「孫達にも教えないとねぇ」

「何か元気出て来たぞ」


「え、えぇ、その……。た、楽しみにして下さいね、ねね……、あはは……」


 アマミルは、怒りの矛先が無くなって、言葉が詰まりながらそう答えた。


「女王様も出るのかい?」

「あぁ、死ぬまでには女王様にお会いしたいねぇ……」


 患者達がそう質問した。


「え……、あの……。ホスヰちゃ……じょ、女王様は難しいかもしれません……。きゅ、急ですし……」


 アマミルはさすがに公務を続けるホスヰは無理だと言おうとした時だった。


「もちろん、参加しま~っすっ!」


 病院の中庭を神殿の車が丁度やって来て、その天井からナーカルの征服を着たホスヰが、大声でそう叫んでいた。


「おっ!ホスヰちゃ~んっ!よく来た~っ!」


 イツキナは病室の窓を開けて大声で手を振ると、他の部員達も手を振った。


「みなさんだけでカミお兄ちゃんのお見舞いなんてずるいでっすっ!私も呼んでくださいっ!」


「そうだった、ごめん、にゃっ!」

「やだやだやだ~、ごめんね~っ!」


 シアムとアルは、手を振りながら謝って答えた。


「はぁ~……、なんで来ちゃうのよぉ……」


 しかし、アマミルは唐突な女王様の訪問にため息をもらした。するとイツキナが彼女の肩を叩いた。


「諦めろってっ!」


「あなたねぇ……、話が大きくなっていることに気づいているの?」


「ムフフ、アマミルの可愛いミニスカートが見られると思うとおじさん、よだれが垂れちゃいそうだなぁ」


 イツキナは気味の悪い顔をしながらそう言ったが、アマミルはそれを無視すると急にシャキッと立った。


「あぁっ!!もう、決めたっ!さぁ、すぐに計画を立てるわっ!みんな集まりなさいっ!!」


「そう来なくっちゃっ!」


 こうしてトンデモ企画が進行し、その夜を迎えた。


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