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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
ラ・ムー
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勇気を持つ者達

 その時だった、大地が大きく揺れた。その揺れは、震度にしては5だったが、この場に居る人々を恐怖させるのに十分だった。多くの人々がパニック状態に陥った。


「キャーッ!」

「に、逃げろっ!!」

「は、早くここから離れないと」

「ど、どっちに逃げれば良いんだ?!」


「や、やばいよ……、カミ君の言ったとおりかも……」


 イツキナ達もこの揺れで何かが起こる前兆なのだと恐怖した。しかし、この揺れでも動揺せず、泣き崩れたロウアを見つめていたアマミルは、何かに怒っているかのように腕を組んでいた。


「ア、アマミル……?どした?逃げないと……」


 イツキナは、何も言わないアマミルを不審に思ってそう聞いた。すると、アマミルはイツキナではなく、ロウアに向かって声を荒げた。


「カミッ!」


 ロウアは、顔だけをアマミルに向けた。すると、アマミルはツカツカとロウアに向かって歩くとその頬に向けて思いっ切りビンタした。


 ビシッ!!!


 そのビンタの音はこの地に響き渡って、あまりに強烈だったため、ロウアは勢いで一回転した。さすがに部員達はアマミルの行動に動揺した。


「ぬぉっ?!また、あんたは……」

「やだやだやだっ!」

「にゃっ?!」


 仁王達のアマミルは、倒れ込んだロウアを更に睨んだ。


「カミ、それで良いの?」


「良い分けがないっ!良いわけがないでしょう……うぅぅ」


 ロウアは、悔しさも相まって声を荒げ、男泣きしていた。


「なあに?それで?それでもあなたは逃げるというの?」


「に、逃げる?逃げるわけではありませんっ!次の文明のために皆さんの魂を救いたいのですっ!ムーの文明が次につながるようにっ!」


 なおも、下を向くロウアに向かって、鬼気迫るようにアマミルはロウアに近づくと彼の胸ぐらを掴んで更に声を荒げた。


「私はこの大地を捨てるのかって聞いているのっ!!!」


「そ、そうです……そうだって言ってるじゃないですかっ!」


 涙目だったロウアは、アマミルの目を見ることが出来ず、目を逸らした。


「こっちを見なさいっ!!!」


 ロウアは、キッとアマミルの目を見つめ返した。その目の奥にあるのは、自分を責める目だけではなかった。あなたはそれ良いのかと、ここで止まるような人間だったのかと、失望する目でもあった。


「ロネントに宿っている未来の人達、ここにいる生きている人達、全員を犠牲にするのかって聞いているのっ!!!」


「ぼ、僕だって犠牲にしたくないっ!しかし、どうしたら……」


「バカねっ!!!あなたは部活を舐めているわっ!!!」


 アマミルはそう言うと、ロウアを離して腕を組んだ。


「ぶ、部活……?こんな時に何を言って……」


 ロウアはアマミルの言っている意味が分からなかった。ムーという文明を消滅しないように自分が出来ることを考えているだけだった。


 そして、アマミルはロウアに指を指した。


「よく聞きなさいっ!!部員は絶対に逃げないわっ!!」


「な……何を……」


「思い出しなさいっ!私達が逃げたことがあったのっ?」


「……み、みんなが、逃げた……」


 ロウアは過去に怒ったことを思い出していた。


 ホスヰは病気がちだったが、落第したロウアを馬鹿にする元同級生から彼をかばおうとした。病気が回復したら、クラスメイトとも仲良くなって、部活にも顔を出すようになった。そして、本来の目的だったムー国の女王になった。


 ツクは、ロウアに嫉妬していたが、アルに認められると部活に入り、ロネントで部員達サポートしてくれた。そして、マフメノという彼氏まで作った。


 そのマフメノは、ロネントオタクだったけど武官に鍛え上げられて、逃げること無くたくましい肉体を手に入れた。


 イツキナは、不自由だった身体を回復させる手術を決意し、身体が回復させて皆と一緒に歩けるようになった。そして、コトダマまで使えるようになって国民を救うヒーローになった。


 シアムは、ナーカル語を理解出来ないロウアのためにアルと一緒に手作りのノートを作ってくれた。ロネントに誘拐されても負けずに誰かが助けに来るのを待っていた。妹のシイリに恨まれても憎むことなく、彼女が仮の肉体を持った時は、彼女を精一杯助けた。


 アルは、ケセロに洗脳されても負けずに自分を取り戻した。シアムと一緒に歌った歌は、大陸中に響くようになった。


 更にシアムとアルの二人は、アトランティス国に捕らわれていたロウアをアイドル活動をしながら救いに来てくれた。


「見なさいっ!みんながあなたを見つめているわよっ!」


 ロウアには、霊体となったメメルトもイツキナとメメルトの魂の師匠も赤ん坊のシイリも、他にも死してしまった神官達も、天界からこの状況を助けようとしている天使達も、その全ての魂達が自分を見つめているのが分かった。


「ここで止まって良いわけがないっ!部員だったら立ち上がりなさいっ!!!」


 それが分かると自然と足が動いた、ロネントの足だったがその足は、しっかりと大地を踏みしめていた。


「そうだ……。ぼ、僕は……負けてはいけない……、逃げてはいけないっ!!」


「そうよ、それでこそ、霊界お助けロネント部の部員だわっ!」


「な~んだ、覚えてるじゃん」


 イツキナは、ちゃんと部活の名前を言ったアマミルに呆れた。


「バカねっ!当たり前じゃないっ!格好いいところだから突っ込まないでよっ!」


「ちぇっ!なんだかなぁ~。ほら、でもさ、カミ君っ!!」


 イツキナに呼応するように部員達はロウアの名を呼んだ。


「カミィ、私達が居る、にゃっ!」

「カミィッ!やだやだっ!私もいるぞぉ~っ!」


 シアムとアルはそう言うと、ロウアに抱きついた。


「イ、イケカミせんぴゃいぃぃっ!ぶぇぇぇん、ツクもいるですぅぅぅっ!」

「ロウアァァ、僕だってやれるよ?」


 ツクとマフメノもロウアを呼んだ。


「あうんっ!……ミカ・エル、私も国中の神官達もあなたの味方ですよ」


 ホスヰもミクヨの魂と一体になってロウアを呼んだ。


 部員達の言葉は、次々のロウアの心に突き刺さっていった。それは負けてはならないという願いでもあった。


「あぁ……、あぁ……。みんな……、ご、ごめんよ……」


 ロウアの目には涙が溢れ、魂を揺さぶるほどの熱いエネルギーが身体中に駆け巡った。それは勇気を持って立ち上がった者に降り注ぐ天上界からの光りだった。


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