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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
ラ・ムー
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神無き大地の行く末

 ホセイトスの説明を受けて、部員達は顔を合わせた。


「カミ……、この手足……」


 シアムは、不安そうな顔をするとロウアの手を掴んだ。


「あははっ!また、再生治療しないとね」


「にゅん……」


 シアムの不安そうな視線を感じてロウアは、苦笑いをして答えた。しかし、ロウアは、これから起こることを考えると、再生治療は実際には出来ないだろうと思っていた。そして、今度は、別の疑問点を女王に投げかけた。


「……女王、私はこの国に関する疑問点がもう一つありました。ムー国はこれだけ科学が発達しているのに宇宙のことは全く調べられていません」


「……はい。しかし、私が説明せずとも、もうご存じなのですね……」


 ミクヨはどこか観念したような顔をしていた。


「私は聖域の上に上昇して望遠鏡を使って、やっと一つの黒い球体の物体を見つけました。あれがロネントの知識集約装置ですね」


「……そうです」


 ミクヨは、ロウアの語った話に脅威を感じた。それは神官の間でも上位の者しか知り得ない知識だったからだった。


「え、えぇ、そんなものが上空にぃ?!マフメノ、知ってた?」

「ううん、知らないよ……」


 ツクとマフメノは、自分達のいた上空にそんなものがあったのかと驚いた。他の部員達もその事実に驚愕していた。


「宇宙を調べさせないのはそのためですね。神官達には聖域が見つからないようにと教えていますが、本当の理由は知識集約装置に気づかせないようにするためですね」


「それは先代の時代からの習わしです……。ま、まさかっ……?!」


 ミクヨは、話ながらとある事に気づいた。


「つまり、それもケセロの仕向けた罠です。ケセロの先導でそのような禁忌が出来たのです」


 ロウアは、ミクヨの気づいたことを口にした。ケセロは、それを聞いてニヤリとしていた。


「そ、そんな……」


「しかし、そこへのアクセスはケセロも不可能です。だから、ロネント同士を会話させる機能を使って遠隔で神を否定する知識を学習させていたのです」


「……あぁ、そんな……。気づかなかったということ……?わ、私達はなんて愚かなことをしていたのでしょうか……」


「全てケセロの仕掛けた罠のせいです」


 ロウアはそう言うと、肢体をなくしたケセロを睨め付けた。


「一つだけ違うぞぉぉ、ミカァァァ。カカカッ!」


 だが、それは自分への指摘をあざ笑った。


「俺ではないぃぃぃ、ヒェヒェヒェッ!良いかぁぁぁ?ロネントは、なぁぁぁ。に・ん・げ・んが作ったのだぁぁっ!ヒャヒャヒャッ!お前たち自身がお前たちを陥れるものを作ったぁぁぁ。お前たちは働かなくなり、考えなくなり、神を信じなくなった、ぜぇぇぇんぶ、自分達の判断でなぁぁぁ。なぁ、そうだろうぅぅ、女王よぉぉぉ」


「……そ、そんなことは……」


「な、なあに?それじゃあ、あの無気力化は何なの?」


 アマミルは、ケセロの仕掛けた大陸中の人間を無気力にした意味は何だったのかと思った。


「アマミルゥ、教えてやろう……。この大地でなぁ、信仰を持っていたものを統計済みだったのだよぉぉぉ」


「……そ、そんな統計あるの?」


「それはなぁ、たった一割、たったの二割ぃぃぃっ!たたたた、たたたったぁぁぁ二割ぃぃぃっ!神を本当に信じていた者なんて、それだけ何だよぉぉっ!それだけの人間を集中して攻撃すれば良かったのだぁぁぁ、つまりぃぃぃ?ここにいる奴らだけなんだよぉぉぉっ!」


「……あ、あり得ない。あ、あなたの……あなたの仕掛けた無気力は、それのため?ここに居る人達だけを狙う……?たった、それだけのためにあれだけのことを仕掛けたと言うの……?」


「すでに信仰を失ったものなど不要ぉぉぉ、生きたまま死ねば良いだけのことだぁぁっ!ヒャヒャヒャッ!ケケケッ!」


「そんな……、信仰持った人だけを見つけるなんて、そんなこと分かるわけ無いわ……」


「我々の目と耳を知らぬのかぁぁっ!どこにでもあるのだ、どこにでもなぁぁぁっ!そいつらだけを狙ってぇぇ、お前らの好きな歌姫とやらを作ってぇぇぇ、誘導すれば良いだけのことぉぉっ!ケケケ、カカカッ!ガガガァァァッ!」


 ケセロは、そう言うと高笑いを続けた。アマミルは、狂った者の戦略にそこまでするのかと驚愕した。


「こ、こら~っ!アマミルッ、なに負けたみたいな顔しているんだよっ!」


「イ、イツキナ……」


 イツキナに指摘されたアマミルだったが、こんな壮大な悪をする者にどう対処すれば良いのかと迷った。


「確かにそうかもしれません……」


「な~っ!カミ君までっ?!どしたんだよ、ここまで来てさ。あいつはボロボロケセロだよ?もう、勝ったも同然じゃんっ!」


 ロウアは、驚いた顔をしたイツキナを一目するとこの大陸の行く末を皆に説明した。


「……この大陸はもうすぐ海に沈みます……」


 ロウアの言葉は、部員達に衝撃を与えた。


「え?」

「な、なにを言ってるんだよ、君は~ッ!」

「やだやだやだっ!そ、それってほんと?!」

「にゃっ?!カ、カミ……、う、嘘だよね?」


 それは未来で起こっている事ではあったが、別の形で起こってしまうのだとロウアは確信していた。


「神を失った大地は地球意識の浄化作用が起こってしまうのです……。それがケセロの本当の目的です……」


「そ、そんなぁ……」

「あれだけ欲望とか、ロネントの国を作るとか、色々言ってたのは何だったのか、にゃ?」


「お前らは、そんなくだらないことで大地が揺れるとでも思っていたかぁぁぁ、お前らに私は到底追いつかないぃぃぃ」


 ケセロは表面上の計画を自らあざ笑っていた。


「こいつは、数億年もの間、地球を闇に落としてきたのです。何度も何度も……。しかし、その度に神を降臨して地上を守ろうとしてきました……。しかし……、しかし、負けてしまうことも……」


「な、なんだい?つまり、君がその神だって事?」


 イツキナは、驚きながらそう聞いた。


「私がこの時代にやって来たのは、ケセロの計画を止めるため……。自分が神様だなんておこがましい……」


「そ、そうか……、ミカ・エルとか言ってたっけ?」


「ケセロはブラックホールに入った時に時間を超えてしまったんです。私と永原……ホセイトスは、宇宙と宇宙の間で彷徨っていましたが、この時代の信仰の対象、ラ・ムーの力でこの地に呼ばれたのです」


「えぇっ?そうなのか?お前、今すげーこと言ったな」


 これにはホセイトスも驚いていた。


「時間が止まったような空間だったから覚えていないかもしれない」


「……お、おう。まぁ、つまり、俺達は助けられたってことか」


「そうだね。お陰で僕は超次元な存在と会話が出来るようになってしまったよ」


「アーカとかいうやつか」


「それと、宇宙共通語のナーカル語……、その新の使い方、コトダマを授かった」


「なっ!なあに?」

「ふぇ?!ナーカル語って宇宙語なの?!」


 アマミルとイツキナ、そして部員達は驚きの声を上げた。


「ナーカル語が宇宙の言葉だというのですか?ムーは宇宙の言葉をこのムー国の言葉にしたのですか……」


「そうです、女王様。ラ・ムーの魂はこの地球で収まるような人格神ではありません。宇宙の法則を担っている魂の一つなのですよ」


「あ、あの無茶苦茶な人が?!」


「あはは、地上では人格に支配されてしまうので少し変わった性格に見えるかも知れません。セウスさんもそうだよね?ホセイトス」


「ほっとにアホかと思う奴だけど、たまに核心を突くんだよ、あいつはっ!」


「確かに、す、少し変わった人だった、にゃ」

「少しだったぁ?なんか豪快な人だったけど……」


 シアムとアルは、セウスを思い出しながらそう言った。


 場が少し和んだが、ロウアの顔は真剣なままだった。


「しかし、全てがっ!!!」


 彼は、らしくなく声を荒げた。ケセロは更にニヤけていた。


「にゃっ?!カミ、どうしたのか、にゃ……。」


「全てが遅かったっ!!私のせいです、もっと早く気づいていれば……、もっと早くっ!僕は何のためにここに来たんだっ!!このいにしえの大陸を海に沈めるためじゃないっ!未来につなげるために来たんだっ!僕は……、僕は愚かな妄想につかれた悪魔に僕は負けてしまった……」


 ロウアはそう言うと膝を落とした。その悔しさを現すように彼は右手を強く大地を何度も叩いていた。


「みなさん、この大陸から逃げて下さいっ!それしか、もう方法がありませんっ!ここにいる人達だけでも何とか助けたいのですっ!未来につなげるために……う、うぅぅ」


「カミ……」

「やだやだ……」


 シアムとアルは、ロウアのそばに駆け寄ることしか出来なかった。


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