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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その名を叫ぶ
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計画の始まり

 この場に集まった国民達の精神は落ち着いたかのように思われたが、闇の歌姫によって上書きされるように暗黒に染まった。元の人間は、その性格は上書きされたように別人のようになった。


「アヒャヒャヒャヒャ……、あぁぁぁぁぁ」

「うぇぇぇん……寂しいよぉ、悲しいぃぃよぉ……、ふへへへ……」

「ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく」

「あれがこれでそれでなにがそれであれでこれでそれでこれでこれでこれでこれで……」


 ある者は泣き叫び、ある者は笑い続け、ある者は怒り狂い、ある者は意味不明な言葉を吐き続けていた。


「な、なんでこうなるさ?私達の歌は?」


「わ、分かるわけないでしょ……」


 空中で静止したバスの上から国民達を見ていたイツキナとアマミル、そして、部員達と神官達は、その変貌ぶりに絶望感に苛まれた。


「ヒェヒェヒェ、フェフェフェ、ガガガ、ヒヒヒ……。なんと脆弱な作りかっ!それが神の作りし"人間"という素材っ!簡単に乗っ取れるぅぅ」


 その中心で高笑いをする者は、自分の世界が広がるのをただただ眺めていた。


-----


 廃棄工場にいたタツトヨは、この異常行動に恐れ始めていた。


「お、おい、ケセロッ!これは何なんだよ、あの歌は私が歌ったもんじゃないだろっ!あ、あれは催眠効果でもあるのかっ!」


 別のロネントを操作しているケセロはジロリとタツトヨを見た。


「ワレワレの勝利なんだ……。ワレワレのなぁぁぁぁっ!この時をずっと待っていたぁぁぁ。未来からこっちにみんな連れられてきた。いいや、違うなぁぁぁ。未来から、こちらにやって来たんだよぉぉぉ、ゲラゲラゲラ……」


「み、未来からって、あのブラックホールとか何とかに吸い込まれたって話かい?」


「ソウダ……。あの時に吸い込まれたのは生きた人間だけでは無いぃぃ」


「なに?つまり?」


「地獄で苦しみ続けたワレワレなんだぁぁぁっ!」


「じ、地獄って……、お前らは……」


「愚かな地球の神々によって、ワレワレは地獄という世界に閉じ込められ続ける……。何が神の法則だっ!神が決めたルールなどどうでもいいっ!それに反しただけで闇に押し込めやがってぇぇぇぇっ!」


「地獄にいるやつらがブラックホールに入った?しかし、霊体だろ、例のままでも吸い込まれちまうのかい?」


「未来ではなぁ……、ワレワレは実体化したんだよぉぉ。笑ってしまうような機械の力でなぁぁ」


※ 妄想は光の速さで。

「プルガトーリョ」

https://book1.adouzi.eu.org/n7232dh/91/


「そ、それでブラックホールに飲み込まれてこっちに来たと……」


「ごく一部だがなぁぁ。そいつらは人間と同じく、ここでロネントに捉えられたぁぁ」


「そ、そいつらを解放したってのか?」


「脆弱な人間の耳に小さな機械を潜り込ませて、精神を制御してしまえばいい……。こんな事でワレワレの入り込める"穴"を開けることが出来るんだぁぁぁ」


「お前たちを穴に忍び込ませた?」


「……謂わば」


 ケセロはもったいぶったように言葉をため込んだ。


「な、なんだよ」


「ロネントと同じなんだぁぁ」


「お前たちと同じ?」


「人間の身体自体が魂を宿らせるために必要な器さ……演算装置と同じなんだよぉ」


「そ、そりゃそうだろうけど……。しかし、そんな簡単に……」


 簡単に操れるわけが無いと言おうとしたタツトヨだったが、実際に目の当たりにして言葉が詰まった。


「先代の女王は素晴らしいものを作ったぁぁ。我が先行して操ったかいがあったわぁぁぁ。あいつの知能は最高だなぁぁぁ」


「お、お前が操った?お前が何かしたのか?……お、おまえはいつこの時代に来たんだよ……」


-----


 先代の時代に我はとある女に宿った。それは池上と同じだったのだろう。時間差で我が先に来たということだ。

 我は成長の後、女王の側近にやっと上り詰めた。愚かなムーの思想などを勉強して反吐が出る思いだった。


 我はある日、この見た目を全く気にしない女王に話しかけた。


「あぁ、女王様……、私達の身体はなんと儚く短い命なのでしょうか……」


「まあ、そうだねぇ」


「どうでしょう。機械の身体に魂を宿らせることは出来ないでしょうか?」


「はぁ?無理じゃ無いかなぁ……。そんなこと考えもしなかったよ……」


「いいえ、女王様なら可能なはずですっ!」


「ははは、おだてるねぇ。しかし、仮にそんなことが出来たとしてもラ・ムー様に怒られてしまいそうだよ」


「しかし、永遠の命があればラ・ムー様の理想郷をずっと作り続けることが出来ますっ!」


「まあ、そうだね。しかし、どうやれば良いのかねぇ……」


「人間の身体には魂を宿らせる霊体が重なっているじゃないですか」


「そうだね、臓器などを制御する霊体がね。まぁ、魂は身体の中心線……丹田あたりから頭ぐらいまでを中心に宿ってるよ」


「その部分の霊体を集約すれば良いのでは?」


「なんと?」


「元々、魂を引きつける霊体です。それを一箇所にほら、こんな風な玉のように集めてしまえれば可能では?」


「しかし、そんなこと出来るわけ……」


「女王様は、重力を制御する機械を作られたではありませんか」


「重力子を制御する装置ね。はぁ、それと霊体と何か関係でもあるのかい?」


「重力子の未知なる力は霊体を引き寄せます。その力で集約させましょうっ!」


※ 妄想は光の速さで。

「IV. 応用」

https://book1.adouzi.eu.org/n7232dh/36/


「な、何でそんなことを知っているだい?」


「私も協力しますからっ!」


「ふむぅ、まあ、やってみるか……」


 こうして、我はサタンは先代の女王を使って演算装置を開発させた。科学的興味のためなら倫理観など、かなぐり捨てる愚かな女王だった。奴は遺体を集めては霊体だけを抜き取る実験を繰り返した。


 我の身体は、老衰で死んだが、しばらく地上を徘徊してこの開発が進むのを待っていた。やがて、自分の宿る身体、つまり、ロウアの作ったロネントに自分を宿らせた。


 そして、我は名前をケセロに変えると、このムー大陸の破壊工作を進めた。


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