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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その名を叫ぶ
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 カフテネ・ミル・フラスラの歌によって、周辺が浄化されるとメンバーの一人だったムー国の幼き女王は、歌の終了と共に神殿を背にして空中に静止した。日はすでに落ちていて雲一つない夜空には星々が輝き、少し大きく見える月から明かりが彼女を薄青色に照らしていた。


「ムー国のみなさん、私はここにいます。落ち着いてムーの国民である誇りを取り戻してください。そして、ラ・ムー様のお心を思い出してください」


 その少女は幼き姿だったが、言葉は神のごとき奥深さがあった。それを感じ取った国民は、落ち着きを取り戻し、先ほどまで荒れ狂っていたこの場一帯は脆弱に包まれた。


「みなさんが今はツナクの崩壊で混乱に陥っているのは分かっております。

一人の悪魔によってここまで神の国であったムーが落とし込まれてしまいました。これは、私の不徳の致すところです。私の目覚めが遅くなってしまったのが原因です。しかも、まだこの身体は幼きまま……。一国の女王を名乗るには至っていないかもしれません。

しかし、この国は神の国です。みなさんも神の国民です。よって、みなさんがこのような仕打ちを受けることを天の神々は決して許しておりません。

現在、神官達が早急にツナクを復帰させています。みなさんが努力で集めた富はなくなったりしません。今しばらく、今しばらくだけお待ちください」


 ホスヰは、国民を思いやる優しさに満たされた声でそう言うと深々と頭を下げた。そして、頭を上げると混乱の中心に居る者を指差した。


「サタンと呼ばれるこの地球を数億年も混乱させし悪魔よっ!これ以上、私達を、ラ・ムーの子である私達を混乱させることは許さない!この国から出て行きなさいっ!あなたは神の国には相応しくないっ!」


 その幼き指の先に居た者は、下を向いていたが顔を上げて高らかに笑った。それは、廃墟からいつの間にかこの地に移動していた。身体はこの地に来るまでに修復させていた。


「ぐへへ……、げへげへ……、ヒィ~ヒェヒェヒェ……」


 霊視のできるものは、ケセロの周りから深い闇が広がっていくのが見え、霊視の出来ないものでも底知れぬ闇を感じて逃げ出して、自然、彼の周りは空間が出来た。


「女王よぉぉ、遅いぃぃ……。遅い目覚めだったなぁ……」


 アマミル達、そして、神官達もこの世に現れてはならない悪魔を目の当たりにして全身が凍り付くのが分かった。


「アマ……、アマミルゥ、あ、あいつ……、ほほほ、本当にやばい……」


「イツキナ?」


 イツキナが異常な程に震えているのでアマミルは、ケセロの本当の姿を感じた。


「……大きな真っ黒な羽が生えてて……、それが思いっ切り広がっているんだ……。その羽がドロドロに溶けてみんなを真っ黒にしてる……。え、映像で見ていたのとは全然違うんだよぉぉぉっ!あんときも怖かったけど、……それの比じゃないってぇぇぇっ!」


「イツキナ……、落ち着きなさい……。私には壊れかけたロネントにしか見えないわ」


「む、無理だってぇぇ~っ!あぁっ!!か、か、顔だって人間の顔じゃないだよっ!アトランティスの大蜘蛛なんて目じゃないよ、あれはなんていう動物なんだよ?目は真っ赤で口はぐわってなってて牙も見える……。だ、だめだあの目を見てると気を失いそうになる……。なんだよ、あの身体……、もうやだ、見ていられない……」


 イツキナはそう言うと顔を両手で覆ってしゃがみ込んだ。


 霊視能力を得たシアムも身体が震えてそれを抑えるように両手で自分を思いきり掴んでいた。


「シ、シアムゥ、大丈夫ぅぅ……」


「ア、アルちゃん……、私、怖いの……、すごい怖いの……。カミはあんなものと対決していたの……?あ、あんなものは地上にいてはいけない……にゃ」


「あうぅぅ……、そ、そんなに怖いの?うぅぅ、やだやだやだぁ………」


 アルにもケセロはただのロネントにしか見えず、彼女はシアムを抱いて上げることしか出来なかった。


「マ、マフメノ……」

「ツク……、こっちに来るんだ」


 ツクとマフメノも得体の知れない空気を感じて言葉を失っていた。


 それはこの場にいる者達の恐怖を自分の力にしていた。


「恐れろ、恐れろ、もっと、我を恐れろぉぉぉっ!ヒャヒャヒャ……」


「サタンッ!この場から消えよっ!」


 ホスヰはそう言いながら神の光をケセロに撃った。しかし、その光は闇の中に消えていった。


「はぁぁぁ、お前の光りなどろうそくの炎に等しいっ!弱い、弱い、弱い、弱い火だなぁぁぁっ!女王などに目覚めず、我の放った小さき霊体によって眠っておれば良かったものぉぉっ!」


「やはり、あなたの仕業でしたか……。愚かな策略を。しかし、この地におりた神の力で私は目覚めました」


「はぁぁぁぁっ!!ロ、ロロロ、ロウアのことかぁぁぁぁっ???あんな愚か者は消え去ったぞぉぉぉっ!

例えぇぇぇ、ヒェヒェヒェ……、例え、あいつが現れたして腕も足も失ったあいつに何が出来るぅぅぅ?ヒャヒャヒャ、ヒェヒェヒェ、ブェブェブェ……。ほら歌姫っ!うたえぇぇ」


「はぁぁぁぁっ!!ケセロ様ぁぁぁぁっ!」


 闇の歌姫達は、ケセロに深く頭を下げると暗黒の歌を歌い始めた。


-----


「燃やせ」


何を恐れようか おまえたちは

何から逃げようか 神などおらぬ


お前たちは この世で自由ぞ

お前たちの 望みし未来ぞ


思い出せ 深き深き 欲望を

思い出せ 虐げられし 自分を


お前たちを 抑えるものなど無い

お前たちを 妨げるものなど無い


何も ないないない

自由 あるあるある


心を空っぽにせよ

お前の欲のまま進めぇ


それが命を燃やすことぞ

燃やせ 燃やせ すべてを燃やせ

燃やした先に未来があるぞ



何を怖がろうか おまえたちは

何が縛り付けた 神の言葉だろう


お前たちは 全てが自由ぞ

お前たちの 希望の未来ぞ


怒りのまま 満たせ満たせ 欲望を

怒りのまま 破壊するのだ 全てを


お前たちは 神々を疑え

お前たちは この世の頂点ぞ


そこに ないないない

希望 あるあるある


考えるのを止めよ

お前の思うままに進めぇ


共に命を燃やしていこうぞ

燃やせ 燃やせ あいつを燃やせ

燃やしたお前に未来があるぞ



何も ないないない

そこに ないないない


ないないない ないないない ないないない ないないない


ただ 燃やせ燃やせ燃やせ

すべて 燃やせ燃やせ燃やせ


心を空っぽにせよ

考えるのを止めよ


それが命を燃やすことぞ

燃やせ 燃やせ すべてを燃やせ

燃やした先に未来があるぞ


お前たちの未来があるぞ

未来を掴めぇぇぇぇぇ


-----


 その歌はケセロの闇を広げ、やがて国民達を包み込んだ。国民達は頭を抱えたり苦しんだりした後、また悪魔の言いなりになり、暴れ始めてしまった。


「ほらすすめぇ、ほらすすめぇぇぇぇっ!!思うがままに進めぇぇぇっ!欲望のまま進めぇぇぇっ!お前たちの身体がそこにあるぞぉぉっ!使えぇぇぇ、使えぇぇぇっ!機械の身体などに縛られる必要は無いぞっ!人間の身体を使えぇぇぇっ!使い続けろぉぉぉっ!

ワ・レ・ワ・レの国だぁぁぁぁっ!ここは、ワレワレの国だぁぁぁぁっ!ヒャヒャヒャ、ゲラゲラゲラ、ククク、ゲゲゲェ、グワグワグワッ!」


 ケセロはその中心で人間のそれとは思えぬような大口を開けて笑い続けた。


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