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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
ハーメルンの笛
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戯れ言

 エメはロウアから逃げろと言われた。しかし、エメは、ロウアの優しさに切れてしまった。

 それは、自分より他人を優先するロウアに腹を立てたのか、かつて、アトランティスの戦艦から助けられなかったからなのか分からなかった。事実、エメは怒りのままロウアを救うために彼に向かって一直線に突っ走っていた。エメは、自分がイツキナ型ロネントになっていることすら忘れていた。


 そして、案の定、その姿は警戒に当たっていた者達にすぐに見つかってしまった。


「お、おい、何か向かってくるぞ」

「歌姫様を狙う悪魔だっ!」

「おいっ!あれってイツキナって女じゃないのか?」

「あいつもカフテネ・ミルの仲間だっ!」

「殺せっ!殺せっ!」


 エメは、ロネントの跳躍力でこれらを追っ手を素早く避けた。


「あんたらに構っていられないのよっ!」」


 その騒ぎをロウアも気づいて自分に向かってくる者がイツキナだったので驚きの目で見つめた。なぜ、イツキナの姿をしているのかは理解出来なかったが、彼にはすぐにそれがエメだと分かった。


「あ、あれは?イ、イツキナ先輩?!ち、違う?……あれはキホさんなのかっ!!だ、だめだっ!」


(あと少しっ!!)


 エメはロウアと目が合った時、何故か時間がスローモーションになった事に気づいた。


(あ、あれ?なんでこんなに時間が遅いんだろう……)


 しかし、その理由を考えている暇も無く、ただただロウアに向かって進むだけだった。


(どうでも良いっ!!私はイケガミさんを助けるだけっ!)


 そのスローな時間の合間、ロウアは口だけを使ってコトダマを切っているのがエメに見えた。


<<カ>>


(イケガミさん?あの状態でコトダマは使えるの?)


<<サ>>


(な、何をっ?!)


<<ヤ!>>


 コトダマによって爆音が鳴り、それと共にロウアの手足は破壊され、彼を縛るものは無くなった。だが、エメはその行動に驚きを隠せなかった。


(じ、自分の手足を破壊するなんて……)


 自由になったロウアは自分を助けるために手足を破壊してまで自分の方に向かっていた。しかし、エメは彼が空中を飛行しながら向かっていたため、笑ってしまいそうになった。少し前の時間、ロウアは自分は空を飛べないとエメに言ったからだった。


(なんだ。やっぱり飛べるんじゃない……。嘘ばっかり言って……)


 止まりそうな時間の中で冷静な自分がいたのも不思議だった。


(イケガミさんったら泣いているの?あぁ……、手が痛そう……。またツナクトノが……なくな……ちゃう……じゃないかしら?)


 その止まりそうな時の中で、エメはロウアの周りにいた人達が一斉に自分を向くのが分かった。やがて、それらは恐ろしい形相に変わると、口から巨大な鉄の槍を自分に向けて飛ばしてきた。


(あ、あぁ、な~んだ、周りに居たのはロネントだったのね……。私ったらば~かだ……)


「キ、キホさぁぁぁぁんっ!!」


(あれ?いつからだったけ?私を下の名前で呼んでくれたのは……。ふ、ふふふ……。それ……って……あ……なたの……彼女……みたい……)


 ロネントから放たれた鉄の槍は、エメの身体を串刺しにしていた。それはエメの宿った演算装置をも貫いていて、やがてその身体は全ての動きを止めた。


 いつの間にか時の流れは元に戻り、エメの身体からロネントに流れる液体が血のように流れていた。彼の目からも流れたそれは悔し涙のようにも、うれし涙のようにも見えた。


「あぁぁぁっ!!!何てことをするんだぁぁぁっ!!!キホさぁぁぁんっ!!!」


 ロウアは、エメに近づくと破壊された演算装置を指の無くなった腕で掴んでそのまま地面に倒れた。すると、ロウアのそばに一体の家政婦型ロネントが上から不敵な笑みを浮かべ、彼を見つめていた。


「はぁぁぁっ!!!ヒャヒャ、グヘヘ、ぐげげげげげぇぇぇぇ、わ、笑うしかないっ!!!笑うしかないっ!!!お、お前達、そそそ、それが?それがぁぁぁ最後かっ!!!」


 ケセロは、遠隔操作しているロネントを使って、ロウアとエメに対して馬鹿笑いすると、彼の腹を思い切り蹴飛ばした。


「グブッ……、ゲホッ……」


 ロウアは、転げながら口から血反吐を吐いた。


「ケ、ケセロ……」


 自分達の敵とはいえ、一人の人間が今にも死にそうになって、ざまあ見ろとあざ笑う人々もいたが、ロウアの哀れな姿を見て

固唾を飲んで見つめる人々もいた。やがて、しんと静まり返った時、ロウアは顔を上げた。


 ロウアは最後の力を使って空中に飛んだ。


「ほうっ!まだ、力が残っていたかぁぁぁっ!!何をするんだぁぁ?ヒャヒャヒャッ!」


 ケセロは、死に体のロウアに何が出来るのだと高をくくっていた。


「はぁ……、はぁ……、……や、止めろぉぉっ!もう、こんな事は止めるんだっ!!!」


 彼の最後の言葉と言える叫びに聴衆は黙って聞いていた。


「た、大陸が……。このムー大陸が沈むっ!こんな闇に包まれたら大陸ごと海に沈んでしまうっ!!!止めるんだ……、ゲホッ、ゲホッ……」


 ロウアは、ムー文明の人々の最後を伝えたかった。自分の居た未来にはムー大陸は無くなっていた。その大陸が無くなる時、それが今だと分かったからだった。


「ハッ!ハハハッ!」

「こいつ何を言うかと思えばっ!」

「大陸が沈む?」

「バカじゃ無いのか?!」

「空中に飛ぶから、警戒して損したわっ!」

「そうだよなっ!びびって損したわっ!」


 しかし、そのロウアの声は、この場に居る人々の心には全く届いていなかった。都合の良い言葉に騙されている人々にはロウアの言葉は戯れ言にしか聞こえず、あたりは嘲るような笑い声や、彼に対する罵詈雑言に包まれた。


「ほ~っ!ほっほっほっ!なんと愚かなことを言うのかっ!この我々の大陸が沈むなどあり得ようかっ!」


 歌姫になったタツトヨもそれを聞いて高笑いをした。


「ど、どうして分からないんだ……。だ、駄目だ、こんな女の言うことを聞いていては駄目なんだっ!みんな騙されているんだっ!!この大陸が……」


「カカカッ!ヒャヒャヒャッ!そんなことをぉぉぉ、聞く者などいるかぁぁぁぁっ!お前には、これが相応しいぃぃぃぃっ!!」


 ケセロは、そう言うとロウアに巨大な槍を投げつけ、それは彼の身体を貫いた。


「ぐ、ぐふ……っ」


 ロウアの身体が地面に落ちると、ケセロはその頭を上から思い切り足で押さえつけた。


「最後ぉ、最後ぉぉぉ、お前は、こ・れ・でぇぇぇ、最後なんだよぉぉぉっ!!愚か、愚か、愚かぁぁぁっ!」


 ロウアは絶望のうちで意識を失いそうになっていた。


「今度こそ、死ねぇぇぇっ!ロウアァァッ!!」


 ケセロが何度も蹴りを入れている時、ロウアは命を賭してその名前を呼んだ。


「ア、アーカ……。アーカァァァァァァっ!」


 ロウアが誰かを呼んでいるが、その名前をケセロは知らなかった。


「誰だ?……そ……」


 やがて時間が止まった。


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