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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
ハーメルンの笛
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今度はなんだ?

 演算装置をもらった少年、ホロは、自宅に帰るとリビングにいる母親が珍しく嬉しそうだったので何があったのだろうかと思った。


「ただいま~っ!お母さん、何かあったの?なんか嬉しそう」


「おかえり~。今日はね、洋服が売れたから少しお腹に溜まる食事ができそうなんだよっ!」


「お~、やった~っ!」


 ホロは、貧弱な食事に飽き飽きしていたのでどんな者が出てくるかとワクワクした。


「今日さ~、演算装置を見つけたんだ~っ!」


「へ~、あのロネントの中に入っているもんだろ?すごいねぇ~」


 母親はロネントの中身など、分からなかったが子供を喜ばすようにそう言った。


「ロネントは、また動くようになるのかい?うちのも止まっちゃったからねぇ」


 そう言うと、家の隅っこで動かなくなっている家政婦ロネントを見つめた。


 人は楽をすればするほど、元に戻れなくなる。ツナクとロネントが家庭にあるのが普通となった彼らにとって、それを失うことは、生活基盤を失ったようなものだった。我々からすれば、スマホと電気を同時に、それも突然、失ったと考えれば分かりやすい。


 家政婦ロネントは、家事育児を担っていた。家庭では趣味以外で家事をするものは、おらず、そのほとんどを娯楽などで過ごしていた。そのため、途方に暮れた家庭では、何も出来ず飢え死にする者も少なくなかった。


「わかんないけど、試してみるんだ~っ! 」


 子供は無邪気で考え無しで行動する。そして、意味も無く希望を抱く。ホロもその一人だった。


「そうかい、がんばりなっ!」


 親は、それを温かく見守り、支持してあげた。


 ホロは早速自室に籠もると、ロネントの教材として売られていた小型のものを部屋の奥から引っ張り出した。このロネントは、いとこのホヒから、勉強になるぞと勧められて購入したロネントだった。


「ホヒ兄ちゃん、元気になったかなぁ。お兄ちゃんに勧められたロネントだし、動くようになれば、お兄ちゃんも喜んでくれるはずっ!よ~し、付けるぞぉ~っ!」


 ロネントを動かすためのエネルギーは、家に備えついている発電機で十分まかなえていて、エネルギーを示すメーターもMAXとなっていた。だが、動かなくなってしまった理由だけは、分からず、様々な演算装置を入れ替えたり、エネルギーを一度全て抜き取ってみたりと試したが全く動かなかった。


 ホロは、ロネントの背中を開けると、拾ってきた演算装置をはめて、じっと待った。


「う~ん、だめかなぁ」


 今度もダメだと思ったときだった。


ウィ~ン!


「お、おぉ?!」


 目の前のロネントが急に動き出して、ホロは歓喜に沸いた。ロネントは、立ち上がると周りをキョロキョロを見回し始めた。


「やった~っ!動いたぞ~~っ!ヒャッハーッ!これでお兄ちゃんを喜ばすことが出来るぞっ!」


 お気づきだと思うが、この演算装置にはエメが宿っていた。身体から切り離されて身動きや視覚情報なども失った彼はどうにも出来ずもどかしく思っていた。そして、どういった偶然か、彼の宿った演算装置は、子供の持っていたロネントに取り付けられてやっとのことで動くことが出来た。


"あぁ~、勝手に演算装置を抜いてくれて、お前ねぇ……"


 エメは、自分を勝手に"抜いた"少年に愚痴をこぼすようにそう言った。


「ワ~、ワワンワワワンワンワワワワンワン、クゥ~ン」


 ……はずだったがその声は全く別の声となっていた。


「ワ、ワンダワン?!(な、何だこれっ?!)」


 視力を取り戻したエメが周りを見渡すと、目の前には子供が上から自分を目をキラキラさせて覗いていた。エメはどう見ても自分が小さくなっている様に思えた。


「おぉっ!鳴いたっ!鳴いたっ!すごいぞっ!」


(お、おい、これって……まさか……)


 そして、自分の手足の感覚、そして身体から流れてくる情報を確認して愕然とした。エメが自分がどうなったのかを認識したのと同時に、ホロがその正体を明かすように叫んだ。


「犬ロネントが動いた~~っ!」


 エメの想像は確信に変わって、力なく倒れてしまった。


「あ、あれ、倒れちゃったぞっ!……おいおいっ!!」


 エメの宿った演算装置が装着されたのは、子供の教育用教材ロネントとして売られていた小型の犬型ロネントだった。


(くっそ、今度は犬かよ……。ふざけやがって……)


 エメは自分の運命を呆れながらそう思った。


「あ、立ち上がった」


 エメは立ち上がるともう一度、子供を見つめた。


「ワン、ワワン、ワワワワワワンわ、ワワン、ワワワ~ン(おい、お前っ!おれは言葉を話したいっ!助けてくれっ!)」


 ホロは、何でこんなにも訴えるように吠えているのか分からず困ってしまった。


「え~、何でこんなに吠えているんだっ?!こんなに勝手に吠えたことないのになぁ。どうしたら良いんだろ……。ホヒ兄ちゃんに聞いてみるかっ!」


「ワン?ワワワ、ワンダワワワンワワワワ(ホヒ?まさかな、何処にでもいる名前だし)」


 ホロは時計型のツナクトノを開くとホヒに電話をかけようとした。無論、それは結局つながらなかった。当然のことながら、ツナクが停止ししているためだった。


「やっぱ、ダメダよなぁ……。う~ん、どうしよう……」


 すると、目の前の子犬は、ちょこんとお座りして静止してしまった。


「あれ、急に止まっちゃった?はぁ~、やっぱり、ダメだったのかなぁ」


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