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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
二つの歌姫
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女の策略

 目の前に映された女性は、まさにアーカと同じ青い髪をなびかせていて、白い肌がその青を際出させていた。だが、上からロウアを見つめるその目はキツネのようであり、その目で彼を見下すように見つめていた。全く姿を現さなくなったアーカの姿にロウアは喜んだ。

「ア、アーカちゃん……?アーカちゃんっ!や、やっと出て来たっ!」


 しかし、いつもなら時間が停止しているのだが、今は全く止まっていなかった。しかも、この男性達は、アーカのことを知っていて、"歌姫"と呼んだ。


「アーカ?誰のことを言っているのだっ!」

「この人こそ、我々の洗脳を解いた歌姫、タツトヨ様であらせられるぞっ!」


「タ、タツトヨだってっ?!ナーカル校の?」


 ロウアはその名前を聞いて、ナーカル校に居て、不気味な黒いマントをまとったタツトヨを思い出した。かつて、落第したクラスの担任、その不気味な姿からどうして教師になれたのか理解出来なかった。その彼女の顔はローブに隠されていて、ロウアは、まともに見たことはなかった。


「ナーカル校のタツトヨ先生ですかっ?!」


 ロウアは、再び、女に問うたが、彼女はロウアの言葉には反応せず、その立体映像は彼を見下すように見ると、わざとらしく大きく声を上げて嘆いた。


"あぁ、恐ろしいっ!この者こそ、カフテネ・ミルを支えた者の一人、ロウアという男じゃっ!"


「なっ?!」


 ロウアは名前を言い当てられて戸惑ったが、彼女がタツトヨであるからこそだと分かった。しかし、それ以前に、詰問者達は、その言葉にそれ来たことかと喜んだため、この後の展開が嫌な予感しかしなかった。


「や、やはりっ!!!」

「カフテネ・ミルの仲間でしたかっ!!」

「恐ろしいやつっ!!」


"ロウアじゃっ!ロウアじゃっ!一時は死んだと伝え聞いたが、やはり生きていたわっ!暗躍するために死んだふりをして生きていたのだっ!!!"


「ちがう、僕はロウアじゃないっ!」


"この嘘つきめっ!お前はロウアに違いないわっ!"


「こ、このっ!」

「ふざけるなよ、ロウアッ!」

「お前はロウアだっ!」


 男達もタツトヨと名乗る女の話に乗るだけだった。


「そうか……。お前は、ケセロだなっ!」


 後ろに居る暗黒の闇を感じてロウアはその名前を呼んだ。


"私はケセロという名前では無いわっ!無礼者めっ!この世界を救うために生まれた女神タツトヨじゃっ!"


「何が女神だっ!!!この街の人達を洗脳したなっ!」


"なんと恐ろしいことを言うのじゃっ!それを行ったのはお前たちだったと言うのにっ!"


 ロウアは、この立体映像が、この部屋の天井の隅に設置されたカメラから映されるのが分かった。


「女の格好して今度は何をするつもりだっ!」


"あぁ、恐ろしいっ!こやつの言葉は嘘ばかりじゃっ!皆の洗脳を解いた私を悪魔扱いなどあり得んっ!"


「こいつ、歌姫様になんてことを言うのだっ!」

「全くだっ!こいつめっ!」

「大人しくしろっ!」


 男達はそう言うとロウアを机の上に押さえつけた。


「くっ!や、止めて下さいっ!あなた達は、ケセロに洗脳されているのですっ!」


「まだ、言うかっ!こいつめっ!」


"こやつを牢屋に閉じ込めておけっ!他の者を洗脳するやもしれぬぞっ!"


 男達は、その声に従順に頭を下げると、ロウアを引き連れて部屋を出て行った。ロウアは出て行く際にタツトヨと名乗るその女性をチラリと見ると、女がほくそ笑んでいるのが分かった。しかし、そのまま引きずられて再び元の牢屋に閉じ込められた。


「そこで大人しくしているんだなっ!」

「汚らわしいやつだっ!」

「ぺっ!」


 ロウアは、吐かれた唾を袖で拭くと牢屋の奥に引っ込んだ。


「やっぱり、あいつの演算装置を盗んだ者がいたんだ……。それを盗んだのは、まさか、タツトヨ先生?だから、あんな姿でケセロに協力していた?どうして二人が……?あ、あり得ない……」


 単なる同名の女かもしれず、ロウアは"歌姫"の正体が分からず混乱した。ただ、この街の人々の洗脳を解いた者は、恐らく洗脳をかけた者しかいないと思った、それは、あのケセロに違いないと確信していた。


-----


 アマミル達がシアムを連れて聖域に到着すると、神官達がざわついていた。


「どうしたのですか?」


 アマミルが神官の一人にそう聞くと、大陸の西側と北東、そして南方向から、人々が集団となって神殿に近づいているということだった。各地にあった教会もその集団に襲われて破壊されてしまっていると聖域に報告が入っていた。

 これを聞いてアマミル達は顔が青ざめた。


「や、やべえよ。どういう事だよ、アマミルゥ……」


「……やられたわ」


 イツキナの訴えを聞いて、アマミルは苦虫を噛みつぶしたような顔になった。


「えっ?!どいうこと?」


「私達が居ない隙をつかれたわ……。シアムちゃんを誘い出したのはこれが狙いだったのよ……。」


「つ、つまり?」


「私達をナーカル校の裏庭におびき寄せて、この作戦を実行に移す……。」


「は、はぁっ?!ほ、本当?そんなのって……。つ、つまり、私達もシアムちゃんのところに行くのが分かっていたってことっ?!カフテネ・ミル・フラスラの浄化作成を止めるのが狙いぃぃ?」


「そういうことよっ!!!あいつは私達の心理を利用した……。何てこと……」


「んな、巧みなことをケセロがするんかいっ?!」


「人間的すぎる……。あぁっ!!すごくイライラするっ!!」


 アマミルは、誰かから自分達をターゲットにされた事にイラつきを覚えた。同時に、同じような事を以前もされたような気がした。人の気持ちを逆なでするようなやり方をする女は一人しか居ないと思った。そんなはずは無いと自分をいさめた。


-----


 首都ナーカルから相当離れた北東部、みすぼらしい街の一角、ロネントの廃棄工場に彼らの姿があった。


「ほら、見ただろ?ケセロ。彼奴らは、群れて動くってさ」


 タツトヨは、自分の立てた作成にまんまと乗ったアマミル達をあざ笑うようにそう言った。


「お前の分析はタダシかった」


 ケセロは、ロネント同士をつなげたメッシュ型ネットワークを使ってロネントを操っていた。彼らのネットワークを我々の時代で例えるなら、スマホ同士をつなげたネットワークと言えばいいだろう。彼らしか分からないプロトコル(通信方法)を使った会話が大陸中を行き交い、その全てがケセロとつながっていた。


「ツナクとは、良い言葉だ……。我々を繋ぐものに成り代わった……。

……そうか、この言葉が日本語の"繋ぐ"になったのか。くだらないことに気づいた」


「えぇ?どういうことだい?"にほんご"ってなんだい?」


「キニスルナ」


「ち、なんだよ……。しかし、私が何でこんな役を……」


「お前が女だからだ」


「意味が分からないよ……。歌姫とか、彼奴らといっしょじゃないかよ」


「しかし、まんざらでもなかっただろう、"歌姫"よ」


「ちっ!ムカつく奴だよ……」


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