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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
二つの歌姫
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やっと会えるっ!

 シアムは、ロウアとの約束の場所に向かっていた。聖域からマフメノの運転する空中を移動する車に乗って、ナーカル校にシアムは到着した。


「ありがとうっ!マフメノ君」


「はい、お気を付けて」


 シアムは、ロウアと会わなくなって久しく、彼女の気持ちは自然と高ぶっていた。


(やっと会えるっ!!カミにやっと会えるっ!!!)


 シアムがロウアに最後に会ったのは、アトランティスの軍艦に捉えられていた時だった。

 その時は会話も出来ず、アトランティス国の反政府組織リーダーのセウスに抱えられてあっという間に外に連れ出されてしまった。その後、シアムは落ちていく戦艦を心が締め付けられる思いで見ていることしか出来なかった。


 だが、ロウアは巨人族の島で生き残っていて、ムー国のピンチに助けにやって来た。シアムは、ロウアとケセロの対決を映像で見て、愛しの彼が生きていることに涙した。だが、ケセロの策略でツナクと呼ばれるネットワークが遮断されて、それ以来連絡も取れずにいたのだったが、神官達のツナク修復によって彼と連絡が取れ、やっと出会えるところまでたどり着いたのだった。


 約束の時間には、30分ほど早かったが、はやる気持ちは彼女の足を軽くし、足早で目的地のナーカル校裏庭にやって来た。


 ナーカル校の裏側は、生徒達の育成にも使われる広大な森林があった。その入口はベンチもある公園のような場所になっていて、生徒達の憩いの場所になっていた。


(誰もいないから寂しいなぁ……)


 シアムはベンチに座ると、生徒の居ない学校に寂しさを感じた。


 ケセロの陰謀で人々は無気力にさせられたが、シアム達の力でここナーカル校の生徒達も洗脳は解かれていた。だが、しばらくは休校となっていたのだった。


「シアムッ!」


「にゃっ!」


 シアムは驚いて振り向くと、ベンチの後ろ側、森の中にロウアは立ってこちらに手を振っていた。シアムは立ち上がると、ロウアを見つめる間もなく走って彼に近づき、そのまま抱きついた。


「会いたかったよ……」


「私も……」


 そう言いながらシアムが顔を上げると自分を見つめるロウアの死んだ目に気づき、彼女の浮かれた気持ちはすぐに落胆に変わった。


「シアム?どうしたんだい?」


「……そうね、私も狙われてしまったのね。

何処かで気づいていた……。でも、騙されて良いかなって思った……」


 シアムは、自分の立場に改めて気づかされた。自分達が中心になって国民達の洗脳を解いていることを。それを快く思わない者も居るということを。


「何を言っているんだい?」


「あなた誰なの……」


「イケガミだよ?決まっているじゃないか」


 シアムは首を大きく横に振った。


「カミの目はもっともっと光っているの……。輝いているの……、グスッ……、グスッ……」


「目か、ナルホド。理解した。やはり。安物ではダメだな」


「あなた、ロネント?ケセロというロネントは壊されてしまったけど……」


「知る必要はナイ」


 偽ロウアは、そう言うと右手が外れて、そのまま下に落ちた。シアムはそれを見て恐れおののいたが、彼の右手がナイフになっていたため、すぐに逃げなければならないと思った。偽ロウアは、シアムにナイフで斬りかかって来た。


「ジャマモノの電源を切る」


「あぁ……っ!」


 その瞬間、空気を切り裂くレーザー音が鳴って、その音と共に彼のナイフが腕毎飛んだ。


「グゥッ!」


「大丈夫ですか?アルちゃんっ!」

「シアムちゃん、大丈夫っ?!」

「あ、あぶな~っ!」

「マフメノ君、よくヤッタぞっ!」

「上手いぞ、マフメノ君っ!」


 シアムは、突然出て来た部員達に驚いた。


「え?マフメノ君?せ、先輩達もっ?!


-----


 ちょっと前、シアムの座っているベンチから少し離れた場所に、アマミル、イツキナ、アル、マフメノ、そして、ツクまでがコソコソと隠れて、ロウアが出てくるのを見守っていた。


「ねぇ、アマミル。本当に良いわけ?」


 イツキナは、シアムに申し訳なさそうに小声でアマミルに聞いた。


「なあに?良いって?」


「あなたねぇ……。二人っきりにさせなさいって意味に決まっているでしょ……」


「だって、心配でしょ?」


「な~にが心配だよ……。ホントは嫉妬してるだけなんじゃないのぉ?」


 アマミルは、相変わらず辛辣な親友の言葉にイラッとして、彼女を睨んだ。


「今なんかプチって聞こえた気がした……。まあ、良いけどさぁ~。もう、ラブラブな二人の邪魔するのはなんだかな~」


「しっ!」


-----


「カメラの無い場所では監視できないか」


 偽ロウアはやって来た者達を見つめると、そう言った。


「しかし、私だけだと何故思うのか」


 彼がそう言うと、木の上から次々とロネント達が現れた。それは、ナーカル校の用務員ロネントであったり、給食を作るロネントであったりと、何処かで見たことの会ったロネント達だった。そいつらは一斉にシアムめがけて襲いかかった。


「やだやだやだ~っ!数が多すぎるぅぅ、シアムゥ、にげろぉぉ~~っ!」

「イツキナ、何とかしなさいよっ!」

「えぇ、あぁっ?!コ、コトダマ?こんな時に使うコトダマって何だっけぇ?」

「ま、間に合わないっ!」


 マフメノの銃もロネント達を狙っていたが倒しきれなかった。その残りがシアムに襲いかかったのだが、シアムは意外にも冷静だった。


「君だけ?そんなこと思ってないよ……。だって、自分のこといつもを"我々"って言う、にゃ……」


 シアムはそう言うと、制服のポケットに隠していたレーザー銃を二丁拳銃のように取りだして、次々とロネント達を葬り去っていった。その照準は正確にロネント達の頭を狙って破壊したため、襲いかかった者達は為す術も無く倒れた。


 それを見て驚いたのは、アマミル達の方だった。


「えぇ、シアム、すごいじゃない……。やだやだやだ……」

「なあに……」

「ちょっ!コトダマ要らなかったじゃん……」

「アルちゃん、いつ練習していたのさ……」


 部員達の驚きぶりを見てニコリとすると、主犯の偽ロウアに銃口を向けてシアムは問いかけた。彼女の目からは可愛らしさは消え去って、その鋭い目は獣を狙う獣のようだった。


「どうして私を?」


「ワレワレの邪魔をするからだ」


「やっぱり、ワレワレなのね……」


 シアムは、やはりそうかと分かるとそのまま銃でその頭を貫いた。倒れたロネントにアマミル達が近寄った。


「マフメノ君、これロネントだよね……。誰が操作していたんだろう……」


「わ、分かりません……」


 無論、アマミルの問いにマフメノは答えることは出来なかった。


「ケセロ、にゃ……」


「シアムゥ、なんで分かるの……ですか?」


 アルは、別人のように思えたシアムに恐る恐る聞いたので、敬語になってしまっていた。


「こんな事をするのはケセロしかいないもの……。理由は分からないけど生きていたんだと思います……」


 シアムはそう言うと、そのまま気を失って倒れてしまった。


「やだやだやだ~っ!シアムゥッ!なんだよぉ~っ!すげ~強くなったと思ったら倒れちゃうとか、強いの?弱いの?どっちじゃ~~っ!」


 アルはシアムを抱きながらわけも分からずそう叫んだ。

 その後、部員達は、急いでシアムを車に収容して聖域に戻ることにした。


「ケセロ?本当にあいつなのかなぁ……」


 道中の車でイツキナは不安になっていた。


「分からないわ……。だけど、それもあり得るわね……」


 ロウアが倒したケセロがどうして復活したのか理解出来ず、アマミルも他の者も不安になっていた。


2023/01/18

ちょっと直しました。

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