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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
二つの歌姫
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大成功、にゃ!

 ここ首都ムーのメイン通りは、唐突に始まったカフテネ・ミル・フラスラのコンサート会場と化していた。広い通りの真ん中に大きく広がった円状のステージ、そのステージを取り囲むように聴衆達が大きな声を張り上げていた。


「アル~ッ!」

「シアムゥッ!!」

「ホスヰ女王様~っ!」

「いいぞ~~っ!」

「おぉ~~~っ!!」


 残念なことにツナクを通した中継は出来なくなっていたため、応援コメントの表示は無かった。ただ、そんなことはカフテネ・ミル・フラスラには関係なく、彼女達は、ステージで歌っていたと思えば、そこから飛び立って空中を回りながら歌ったり、またステージに戻って踊ったり、その衣装は歌の途中で別の鮮やかできらびやかな衣装に替わったりと、聴衆達を楽しませていた。


「みんな、ありがとうね~~っ!」

「こんなに来てくれて嬉しい、にゃっ!」


 アルとシアムは、そう言うと聴衆に大きく手を振った。


「最後のプレゼントだぞ~~っ!」

「よ~く見るの、にゃ~~っ!」


 二人はそう言うと、大きく回りながら空に飛び上がっていった。聴衆達は彼女らに目を向けて上を向いた。そして降りてくると、ステージには、イツキナを中心にしてコトダマを使える神官達が円を描くように立っていた。


「いっくぞ~っ!」


 イツキナの発声と共に神官達は、両手でコトダマを切った。


<<時を動かすコトダマ ワ・イケ・カ・ミ!>>


 彼らのコトダマが光るのを目の当たりにした聴衆達は、倒れる者も居たが次々に洗脳が解けていった。


「あ、あれ?」

「ここは何処だ?」

「確か、カフテネ・ミルの……」

「あ、アルちゃんとシアムちゃん」

「な、なんで?!」

「おかしいな……」

「ここは神殿前の道路?」


 ステージの上では、アルとシアムはもちろん、カフテネ・ミル・フラスラの面々、そして、神官達が手をたたき合って喜んでいた。聴衆達が混乱気味になっていたところ、アルとシアムは彼らを導くために再び声を上げた。


「みんな、落ち着いて~~っ!大丈夫だよ~~っ!」

「えっとね、神官さんたちが皆さんを案内するから慌てないでくださいねっ!神官さん、お願いします、にゃ~~っ!」


 彼女らの声に従って控えていた神官達が聴衆を案内した。倒れていた者達もすぐに手当が行われた。他のカフテネ・ミル・フラスラのメンバーもそれぞれ声を上げて、聴衆が混乱しないように案内していった。そして、ある程度落ち着くと、互いに頷いた。


「それじゃあ、みんな。またね~~っ!」

「気をつけて、お家に帰る、にゃ~っ!」


 アルとシアムの合図でみんなで空中を飛びながら神殿の控え室に戻った。


-----

 控え室では、カフテネ・ミル・フラスラの面々と神官達が大喜びで互いの検討を讃え合った。


「はぁ、はぁ、す、すごいじゃないっ!大成功だぜ~~っ!あっ!タオル、ありがとうございましたっ!」


 息を切らしたイツキナは、神官達に手渡されたタオルで顔の汗を拭きながら興奮気味にそう言った。


「はぁ、はぁ……。な、なあに?あの人達、無気力じゃなかったの?」


「んだよねぇ、アルちゃんとシアムちゃんが歌い出した途端、みんなが集まりだしたからわたしゃ目を疑ったわよ。君たちは何もんなんだよ」


 イツキナに褒められたような、褒められてないような事を言われたが、アルとシアムは、えへへと照れ笑いしていた。


「し、しかし、何度見ても足が出過ぎているわ……。どうにかならないのかしら……。いい歳して恥ずかしいというか……」


 アマミルが自分の足を眺めながらそう言うと、仮想的な服は消えて制服姿に戻った。


「今、消しましたよ」


「あ、消えたわっ!」


 マフメノは、仮装衣装の設定を制服に替えてあげた。


「ありがとう、マフメノ君」


「また、んなこと言ってさ~。気にしすぎだって~の。だって、その制服だって仮装でしょ。ほら、ポチンッ!」


 イツキナはそう言うと自分のツナクトノを操作して、アマミルの仮装衣装を消してしまった。


「なっ!あ、あなた何してくれるのっ!!!」


 レオタードのような姿になってしまったアマミルは顔を真っ赤にして、しゃがんで大声で怒った。彼女らを手伝っていた男性神官達は、目を逸らしていた。


「す、すぐに戻しなさいっ!!!」


「ケケケッ!!」


 イツキナはさっと元の制服姿に戻した。


「あんたねぇ……、ギリギリギリ……」


「はい、これっ!」


 イツキナはそう言いながら喉を潤すお茶をアマミルに渡した。彼女はそれを一気に飲み干すとキチンとコップを机に置いた。


「さて……」


「……ひっ!」


「こんのぉぉぉ~~~~っ!!!!」


 アマミルは遠慮無く、イツキナを殴り始めた。


「イテテ……。ほら、見てごらん。ホスヰちゃんはすごい元気だぞ」


 アマミルに殴られながら、イツキナはそう言ってホスヰを指差した。


「あうんっ!私はもっと踊りたいでっすっ!ルララ~ッ!」


「じょ、女王様……、あまり無理はなさらないでください……。はぁ~……。こんな女王様聞いたことがありません……」


 サクルは女王自らがアイドル活動をしていることに頭を抱えていた。


「大丈夫ですよ、私がそうでしたからってラ・ミクヨ(ホスヰの前世)が言ってるでっす!フフフ~ン、ルルル~」


 ホスヰは、気にするでもなく、口ずさみながらクルクルと回っていた。それをサクルは眺めているしか出来なかった。


「あ~~、でもでも、今回はツクお姉ちゃんもマフメノお兄ちゃんも頑張って踊ったでっす。二人もすごいのでっす」


 ホスヰに褒められてツクは顔を赤らめた。


「う~~、女王様に褒められました~っ!

でも、マフメノせ、せんぱ~い……。私、シイリちゃんの代わりとして上手く出来たんでしょうかぁ……」


 前回のコンサートでは裏方だったツクだったが、今回はシイリの代わりに歌に踊りと、らしくないことをしていた。


「そ、それは僕が聞きたいよ……。裏方で頑張りたかったのになあ……。し、しかし、アアカちゃんは可愛い……、グフェフェ……」


 マフメノはそう言うと太っていた頃の嫌らしい顔に戻って、自分が操作したロネントのアアカを見つめた。


「もうっ!私が不安に思っているのにぃぃっ!こんな青髪のロネントォォォッ!」


 ツクは、立ち上がるとそこらにあった椅子を使ってマフメノが操作するアーカちゃん型ロネントを破壊しようとした。


「やだやだやだっ!ま、待つのだ、ツク君っ!」


 ツクは、憧れのアルに止められると我に返って、椅子を落としてアルに抱きついた。


「アル様ぁぁぁ、うわ~んっ!」


「はぁ~、マフメノ君、君は本当に駄目人間だなぁ」


「え、えぇ~……」


「ヨシヨシ、ツクは頑張ってたぞっ!この短期間であんなに上手く踊れるようになるなんて先生は嬉しいっ!」


 アルから頭を撫でられながら褒められると、ツクはアルに抱きついたまま大泣きした。


「アルしぇんしぇぇぇっ!ありがとうごじゃいましゅうぅぅぅぅっ!」


「だけどさ、ホスヰちゃんも言ったみたいにマフメノ君もすごかったじゃないか~っ!信じられない運動神経だよ、君は。ロネントオタクは止めた方が良いゾッ!」


「は、はい、あの時の体型だったら、無理だったと思います」


 マフメノは顔を赤らめた。


「みんなガンバったよな~~っ!シアムゥッ!大成功だよ~~っ!やったね~っ!」


 アルはそう言うと、シアムにも賞賛を送った。


「……あんれ?シアムはどこじゃ?」


 シアムは窓の外を見て何か考え事をしていた。


「うぉ~い、シアムッ!またボ~っとしてぇっ!」


「あっ!アルちゃん、」


「"あ、アルちゃん"、じゃないぞ。これは君が企画したんだろぉ~」


「そ、そうだった~っ!」


「ガクッ、なんだよそれは~~。ほら、企画者としてみんなに何か言いなよ~っ!」


 シアムはアルに促されて、うんと頷くと、この場に居る人達の方を向いた。


「皆さん、ありがとうございましたっ!皆さんのおかげで大成功でしたっ!」


 シアムはそう言うと、この場に居る部員達はもちろん、神官達にも深々と頭を下げた。このコンサートは、部員達以外にも神官達のバックアップがあってことなしえたものだった。そして、皆がシアムの次の言葉を待った時だった。


「……きっと、カミにも伝わるはずっ!もっと頑張る、にゃっ!」


 シアムは別の方向を向いて、独り言を言ったつもりだったのだが、場がしんとした瞬間に聞こえたため、この場に居る者達がその言葉を聞いてしまった。


「アル君……、君の気持ちがダダ漏れだぞぉ……」


「えっ!!!」


 アルの指摘に皆がどっと笑い、シアムは顔を真っ赤にして猫耳と共に顔を下に向けた。


「にゃにゃぁ~……。

で、でも、多くの人達の洗脳が解けて良かったっ!ここに来られなかった人達の洗脳が解けるように明日からも頑張る、にゃっ!」


 彼女がそう言いながら嬉しそうに片手を大きく上げたので、みんなも手を挙げてにゃ~と叫んで互いに手を取り合って喜んだ。


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