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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
黒ローブの教師 タツトヨ
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見つからないモノ、欲しかったモノ

一方、村の人々の洗脳を解いたロウアを含む男性陣は、妻達の待つ宿に戻った。


「いやあ、我が息子はすごいじゃないかっ!村人をあんなに集めてっ!ねぇ、そうですよねっ?」


「そ、そうですね。えぇ、えぇ、全くですよっ!」


シアムの父親は、すやすやと眠る自分の息子を満面の笑みで見つめながら賞賛したため、アルの父親は早くも親馬鹿になっているなと思い苦笑いした。


「しかし、最後のコトダマだっけか?あれが止めなんじゃないのかぁっ!ワシも目覚めさせたしなぁっ!」


アマミルの父親は、そう言いながらロウアの背中をごつい手で叩いたため、彼は咳き込んだ 。


「そうそう、イケガミさんの力がすごいんですからっ!」


エメもそれに釣られてキホの意識で、ロウアを賞賛した。


「わははっ!そうだよなっ!うんむっ!私の見立ては間違っていなかったっ!是非、ワシの…」


「は、早く宿に戻りましょうっ!シイリも体力が無いのでしょうからっ!」


アマミルの父親が自分の娘を嫁に、と言いそうだったので、ロウアは慌ててこう言った。。


彼らの後ろを歩く、キルクモはロウアの実態を知って、安心したような顔をしていた。


(やっぱり、彼の力はすごい…。女王の救出に幼馴染みの救出、もしかしたら、イツキナ君の身体も?はぁ~、いやはやっ!)


キルクモは、目の前の少年の偉大さが分かったような気がした。


「君はやっぱりすごいっ!僕の思っていたとおりだったっ!」


同時にロウアが退学になるのを身を挺して止めた事を誇りに思うのだった。


「あ、ありがとうございますっ!」


「そうじゃ、そうじゃ、わははっ!だから、ワシの娘を…」


「あ~~っ!宿が見えてきました~~っ!」


アマミルの父親を制して、ロウアは宿に走って行った。


-----


ロウアの後に続いて全員が宿に到着し、シイリを無事、母親の元に戻した。

母親達は、村中の人々が中心地に向かって行進していったのを目撃し、何事かと思っていたら、皆が自分の家にイキイキとした顔で戻ってくるのも見ていた。


この宿の主人もその一人で知らぬ間に自分の宿に人が泊まっているから驚いていたと言っていたらしかった。無論、事情は話したが洗脳されているときは記憶を失っているから、さっぱり理解出来ないといった顔だったらしかった。しかし、自分達の夫は神官だと説明して、この場に居ることを許されたとのことだった。


こんな調子だったため、男性陣は一体何があったのかと質問攻めにあった。


「そうなんだよ、お前っ!シイリがすごい仕事をしたんだっ!」


「あ、あぁ、え~っと、すいません…。そ、その前に…」


シアムの父親の息子自慢が始まる前にロウアは、自分の決意を話さなければならないと思った。


「どうした、我が息子っ!」


「む、息子っ?!ち、違いますから…。」


「そうかあ?わははっ!」


アマミルの父親は、自分の妻から止めなさいと静止されていた。


「皆さん、申し訳ございません。私は先に首都を目指したいと思います。」


「おっ?!おぉ、そうか、うちの娘に会うためだなっ!」

「あなたっ!何を言っているのですかっ!」


「あはは…、ま、まあ、それもありますが、ホスヰ…じゃない、女王と一緒に国を守りたいと思って…」


ロウアは、一人で先にムーの首都を目指して、女王に目覚めたホスヰに合わねばならないと考えた。自分のコトダマをムーのために使わなければならないと思った。そして、何よりもアマミル達、部員達の力も必要だと感じた。部員達が一丸となれば、ムーの危機を救えるはずだと確信さえあった。


「か~っ!やるわいっ!やるわいっ!さすが、この国を救った英雄だっ!男らしいぞ、我が息子よっ!!」


「え、えぇ、いや、そこまでじゃないのですが…。

てか、息子じゃありません…」


「やだなぁ~、それなら私も一緒に行きますよ。えぇ、こんな姿で良いならですがっ!」


ロウアの決意を聞いていたエメは窓の外からそう言った。


「キホさん、ありがとうっ!それじゃぁ、ケセロの演算装置を持って移動しよう」


礼を言ったロウアは、ケセロが封じ込まれた演算装置を取ってこようとアマミル家の部屋に移動しようとしたのだが、エメがそれを止めた。


「待って下さいっ!あれは持たない方が良いのでしょ?」


「そうだけど、ここに置いておけないよ…」


演算装置をロウアのそばに置くと彼の力が無くなり、コトダマなどが使えなくなるのをエメは心配した。だが、自分が持っていなければならないとロウアは考えていた。あの演算装置にケセロが縛られているからだった。


しかし、ロウアがアマミル家の部屋に入り、ケセロの演算装置を探したのだが見つからなかった。


「あ、あれ?何処でしたっけ?確か、ここにしまいましたよね?」


「うんむ、その引き出しの中だが?

…ん、確かに無いな…、おい、お前…」


アマミルの父親は、自分の妻を呼んで確認したのだが、彼女も首をかしげた。


「私は確かに置きましたけど…?変ですね…」


「えぇ…、それは不味い…。何処かに落としたのかな…」


だが、全員で回りを探したが、一向に見つからなかった。


「ごめんなさいね…。大事な者を預かっていたのに…」


アマミルの母親は恐縮してしまっていた。


「あぁ、いいえ…。私も気にしていなかったのが悪かったです…」


重苦しい空気が漂い、ロウアは内心不味いことになったと思っていたが、唐突にアルの事を思い出した。


(あの子ならこう言うか…)


「ま、何とかなるでしょうっ!」


「えぇ、イケガミさん、良いのですか?かなりヤバいのでは…」


「大丈夫だよ、何とかなるっ!あはは~っ!」


ロウアがあっけらかんと明るい顔で言ったので場は和んできた。


「そ、そう…。ごめんなさいね…」


「いえいえ、あんなモノを持ってても気分が悪くなるだけですし、ただのゴミですっ!」


アマミルの母親は更に恐縮していたが、ロウアは笑顔で問題ないと答えた。


「わははっ!なかなかの大面のっぷりだっ!

私達が探しておくから気にせず進むのだ、我が息子よっ!」


「は、はい、ではお願いしますっ!私達は出発します…と言いますか、息子じゃ…」


ロウアはやれやれと思いつつ、エメと旅立つことにした。


-----


宿を出発して、しばらくしてエメはとある事をロウアに聞いた。


「…イケガミさん?」


「うん?」


「本当はシアムちゃんに会えるから嬉しいんでしょ?」


「そそそ、そ、それは、そう…かも…しれない。だ、だけど、それだけじゃなくて…で…ですね」


「ふふふっ!分かっていますよっ!」


エメ、いや、この場合はキホの魂は別の答えを期待していたのかも知れなかった。だが、期待は裏切られ、想像したとおりの答えが返って来たため、彼女は寂しさを感じた。だが、それを悟られまいと彼女は話を続けた。


「はぁ~、私もこの身体じゃ動きづらいですよ~…」


「そうだよね…」


何回変化へんげしたか覚えていませんけど、この身体だけは勘弁して欲しいです…」


「ま、まぁ、そうだよね…」


ロウアはエメの身体を改めてマジマジと見つめた。その身体は三メートルぐらいはあり、そして、手と足は四本もあるが顔が無く、声だけが何処からか発せられていた。いずれにしても、このまま歩き続けるのは目立ってしまうだろうと思われた。


「う~ん、イツキナの身体が転がっていませんかね?あれって超高性能なんですよ」


「そ、それは落ちていないだろうね…。もし落ちていたら、死体みたいで事件だよ…」


ロウアの放ったさりげない一言で、キホは気持ちが吹き飛んだような気がした。


「ぷっ!あははっ!そうですねっ!死体ですねっ!!あはははっ!」


エメからすれば、こんなどうでも良い会話が嬉しく、しばらくは"イケガミ"と一緒に居られるからいいやと思うのだった。


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