愛しの彼
誰もがその命令を理解出来なかった。だが、タツトヨだけはその命令を聞いて歓喜した。
(や、やりやがったっ!!あいつ、遂にやりやがったっ!)
しばらくすると、廊下を走ってくる者達が居るのが分かり、教師らは騒然とした。
「…な、何ですか?一体」
「今日は誰もいないはずでは…?」
一人の体育教師が女王の挨拶を無視して部活動をしている輩(生徒)が廊下を走ってるのだろうと思い、叱ろうと職員室の外に出た。
「コラッ!お前らっ!なに…を…」
だが、その教師は青ざめてすぐに戻って来たため、何か異常なことが起こっている事が他の教師達にも分かった。
「ど、どうされたのですか?」
「ロ、ロネントが…、す、すごい数の…すごい数のロネントが…こっちに向かって来てるっ!」
しどろもどろの体育教師の言葉を聞いても他の教師らは理解が追いつかなかった。
「えっ?!」
「ロネントが?」
「本当ですか?」
「本当だっ!急いで鍵を閉めるんだっ!」
体育教師の命令を聞いて半信半疑だった教師達だったが、急いで職員室の前後に位置する扉に鍵がかけた。すると、誰かが入ってこようと扉を叩きはじめたため、一人の教師が、壁のうわ窓から外を覗いてみると、それらは学校中に居る清掃用、用務員用、教師用、運動指導用のロネントであることが分かった。
「た、確かにロネントです…」
それらは狂ったかのように我先にと職員室に入って来ようとしていた。
「そんなバカな…」
「なんですか?これは?」
「入らないように机を並べましょう…」
教師らは、急いで机を並べて入口を塞いだのだが、慌てふためく教師らをよそにタツトヨだけはニヤけていた。
(あははっ!あははっ!やりやがったっ!やりやがったっ!)
すると今度は職員室に居る主任ロネントが暴れ始め、近くに居る教師の首を絞め始めた。
「な、何を…、ぐ、ぐがぁぁぁ」
あまりの怪力にその教師は顔を赤くして苦しんだのだが、体育教師の一発を食らうと主任ロネントは破壊されて、一命を取り留めることが出来た。
「ゴ、ゴホッ!ゴホッ!」
「だ、大丈夫ですか?先生?」
「は、はい…」
「主任ロネントまで狂い出すとは…」
職員室の外に居るロネント達は、窓ガラスすらも割って入ってこようとしていて、教師達は急いで机の籠城を強化した。
「…お、おい、これってあの少年のせいか?」
「た、多分…」
「どう見ても人間の子供なんだが…」
「…いや、左手がロネントらしく機械でした…」
「そうでしたか…」
そうこうしていると、また別の少年が映像に現れ、その瞬間に金髪の少年の右手が吹き飛ばされた。
「…ま、また別の少年だ…」
「だ、誰ですか、今度は…」
「あ、あれ、この少年をどこかで…、イ、イタタ…」
「痛い…、頭が…、何でだ?」
教師達は、確かに見たことがあるとは思ったのだが、その少年のことを思い出そうとすると何故か酷い頭痛がした。
「し、しかし、外のロネント達が落ち着いたみたいですよ…、イタッ…」
「そ、そのようですね…」
「この少年の…、お陰ですね…」
「はい、そうですね。この学校の生徒…?イテテ、何なんだ全く…」
理解出来ない頭痛に苦しむ教師達だったが、一人だけ例外がいた。ロネント達から特別扱いされたタツトヨだった。
(はぁっ?!な、何だ?みんなロウアの事を忘れているのか?訳が分からない…)
タツトヨはそう思った瞬間に、一つの言葉を思い出した。
<…お前は仲間だ…、安心シロ…>
(そうか、私以外は何かされたってのか?)
そのうち、ロウアと四本腕の巨人族狩りゲームのキャラクターらしきものが金髪の少年と戦い始め、少年が半壊したのが映し出された。
(あぁ、あぁ…、ケセロがぁぁぁ…、ケセロがやられてしまった…)
タツトヨは、呆然と立ち尽くしたが、他の教師らはロウアの勝利に歓喜した。
「おぉっ!あの少年がやったぞっ!イタタ…」
「ははっ!すごいすごい、英雄だっ!」
「イテテ、何なんでしょうか、この頭痛は…」
そして、ケセロの最後の言葉が放たれた。
<ルシフ・エル!!!>
(えっ?何だって?お前は何て言った?)
タツトヨはケセロの言葉を理解出来ずにいたが、それを聞いた教師らは急に無気力になってだらけ始めた。
「……」
「…帰りましょうか」
「あぁ、でも、これ(机)、片付けるの面倒だなあ」
「…ですね」
「巨人族狩りゲームをやろうかな」
「そうですね、ここでやりましょう…」
「…NULL…NULL…NULL…」
教師らは自席でゲームを始めたり、座り込んだり、何もせず寝転んだり、ボーッとしたりし始めた。
「えっ!な、なんだ…、ど、どうした…、ど、どうされた?みなさん、どうされたんですか?
…あぁ、そうか…、これもあいつがやったのか…、へ、へへへ…、あはははっ!やるじゃないかっ!あははっ!あははっ!」
タツトヨは教師達の行動を理解出来ず、あっけにとられたが、やがて、職員室は大笑いをする女の声だけが響き渡った。
「はっ!しまった…、笑っている場合じゃ無いっ!」
彼女はハッとすると、ケセロのところに行かねばならないと思った。
「すぐに行くからなぁぁぁっ!」
タツトヨは机をどけて急いで職員室を抜けると、そのまま校門まで来たのだが、あそこは一体何処なのだろうかと思い始めた。
(し、しかし、あそこは何処だっていうんだ…。真っ暗だったじゃ無いか…)
彼女が足踏み状態でいると、一台の車が急に目の前まで来て扉を開けた。
「は、はぁ?
…の、乗れということか…?」
タツトヨは半信半疑ながらその車に乗るとそれは自動的に動き出し、やがて、ケセロの居た地下の入口に到着した。彼女は急いで中に入って、無残な姿になっているケセロを見つけると抱きしめると泣き叫んだ。
「あぁぁぁ、ケセロォォォ…、ケセロォォォ、何て姿にぃぃ…。うぅぅ…、あぁぁぁぁっ!」
彼女は自分が力になってやり、ケセロをこの姿にしたのを思い出した。しかし、それをロウアは破壊した。
「ロ、ロウアぁぁぁ、あいつぅぅぅ、ケセロをこんな姿にぃぃぃっ!!!許せないっ!ギギギッ!」
彼女は激しく歯ぎしりすると、すぐにケセロの演算装置を探した。
「あいつは心はここ(演算装置)にあるって言ってた…、そいつさえ手に入れればっ!」
ところが、いくら探しても演算装置が見つからなかった。
「…あぁ、無い無い無い…、どうして…?
そうかぁぁぁ、彼奴らが取り外したんだなぁぁっ!
…私が…私が取り戻す…、ぜぇぇぇったいに取り戻してやるぅぅぅ…」
そして、近くの村でロウア達を見つけて、やっとケセロの演算装置を見つけることに成功した。
「み、見つけたぁぁっ!私はついてる、着いてるぞぉぉっ!ケセロ、もうすぐ会えるからなぁぁっ!」
タツトヨは、猫背のまま宿を出て何処かに消えていった。




