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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
カフテネ・ミル
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幼馴染み

 ロウア達の退院後、しばらくするとアルがシアムと一緒にロウアの部屋に押しかけて来た。二人は、ロウアの部屋に入ると早々にアルが彼に問い詰めてきた。


「ちょっとっ!ロウアッ!説明してよっ!」


「な、何を……?というか、君たちって遠慮無しで入ってくるね……」


 ロウアは、二人がノック無しでドカンと扉を開けてロウアの部屋に入ってくるのでそっちの方に呆れていた。


「私に嘘をついたでしょっ!」


 アルは憤慨してロウアに迫ってきたので彼は後ずさりした。無論、ロウアは何を言ってるか理解出来なかった。後ろに居るシアムは、嘘はついちゃダメでしょと、こちらも怒っているように見えた。


「ど、どんな?」


「未来から来たって、は・な・しっ!」


「えぇ、ほ、本当だよ……。あ、あの時は信じていたじゃない……」


 すると今度はシアムも会話に加わってきた。


「ロウア君?嘘はダメだよ……。ラ・ムー様に怒られちゃうんだから……。

でもね、分かってるよ。私を助けてくれるために嘘をついたんだよね?」


「う~ん、信じてもらえないよね……。そうだよね……」


 幼馴染みが急に自分は未来から来た人間だと話したら普通は信じられないだろうとロウアは思った。どうやら二人は、シアムを助けるための方便として、ロウアが未来から来たと嘘をついたのだと思っているようだった。


「嘘をついた理由を教えてほしいの……」

「そうだ、そうだ~っ!嘘つきロウアめっ!」


 シアムとアルはその理由をロウアに求めたが、答えようも無く、頭を抱えた。


「……う、う~ん……。も、もう一度だけ説明させて欲しい……」


「お、おう」

「うん、分かった」


 仕方なくロウアは、この時代に魂だけがタイムスリップしてきたことをもう一度説明した。


「僕は、このロウア君が海で溺れた時に魂となってこの時代に来たんだ。そう……、このロウア君が亡くなってしまったその時に……」

 自分の胸に手を置いたロウアは真剣に、そして、誠実に今まで起きたことを二人に話した。


「……え?え?あの時、ロウア君……死んじゃった……?」


 すると、今まで疑っていたシアムが急に真剣な顔つきになった。


「ちょ、ちょっと~、話が違うぞぉ~、シアム君……。にょっ?!シ、シアム……?」


 アルは、シアムの心変わりを責めようとしたが、彼女が泣きそうになっているのを見て何も話せなくなった。ロウアは話を続けた。


「そしてこの身体を奪ってしまうことになった。この時代の言葉とか、記憶を無くしてしまった理由は僕が未来から来たから……。記憶を失ったというより、記憶が無かったというのが正解。

僕の本当の名前は、池上良信。今から1万2千年の日本という国から来た人間なんだ……」


「イケカミ……?ニッポン……?」


 ナーカル語は濁音を持たないため、彼女らは「ガ」という発音が出せなかった。


「ごめんね……、今まで嘘をついてしまったようで……。だけど、二人のお陰でここまで話せるようになったんだ……。とても感謝しているよ」


「ロウア君、ちょっと待って……。私、混乱してきた……」


 シアムは、猫耳と一緒に下を向いていた。


「そうだよね……」


「ロウア君は死んでしまって、イケカミさんが身体を奪った……?そんなことあるの?本当なの?」


「信じられないかもしれないけど本当のことだよ……」


「でもでも……」


 シアムは初めロウアが未来から来た人間と話した事は嘘だと思っていたが、ロウアがあまりにも真剣に話すので素直に聞き始めていた。だが、その話はあまりにも突拍子も無いため、にわかには信じられなかった。


 幼馴染みの死……。

 未来人……。


 どれも普通なら理解できない内容だった。


「ロウア君は死んでしまった……」

「それって、もう二度と会えないという事だよね……」


「アル、シアム……」


「……?」

「……うん?」


 ロウアは更に続けた。


「"でも、俺は存在しているぜ"って、ロウア君が言ってる……」


 ロウアは魂のロウアの言葉を伝えた。


「えっ?ロウアが……」

「ロウア君……」


 二人は二度と会えないと思われた幼馴染みの言葉を聞いて、動揺せざるを得なかった。


「"大丈夫、不安になるなって!俺は死んだけどここにいる。" だって」


「ロウアらしい……」

「うん……」


 ロウアは二人を見ていたたまれなくなった。


「二人ともこっちを向いて……」


 だから二人のために小さくナーカルの文字を指で切った。その瞬間、ロウアの身体がほんのりと光った。


<<つながりを強くするコトダマ ワ・キ・ヘ・キ・ミル>>


「へ?」

「ロウア君、何をした……の……」


<……んだよ。また変な魔法かよ>


 死んで魂となったロウアは呆れた顔でロウアを見ていたが、その顔をアルとシアムは驚いた顔で見つめた。


「ロウアッ!」

「ロ、ロウア君……なの?」


<あれ?見えるようなったのか?はぁ~、不思議魔法のせいか……。>


 魂のロウアは呆れたが、幼馴染みを見つめるとニコリとした。


<よっ!アルッ!シアムッ!>


 魂のロウアは二人の悲愴な面持ちとは裏腹に呑気に手を振った。


「あ、あぁ……、やだやだ……やだ……」

「うそ、うそ……。ロウア君、死んじゃった……、うそよ……」


 ロウアは悲しみのあまり泣き始めたアルとシアムをまともに見ることが出来なくなっていた。幼馴染みを失った悲しみはいかほどかと思った。そして自分は、もしかして二入にとても酷いことをしたのでは無いかと後悔し始めていた。


「うぅぅ……。うゎ~~ん……」

「グスッ、グスッ……」


 だが、しばらくするとアルがつぶやくように話し始めた。


「うぅぅ……。学校で教わった通り、死んでも魂は存在しているのね……。ロウアがまさかこうなっちゃうなんて……」


 シアムも続いて話した。


「ロウア君……、私、あの時、助けることが出来なかったのね……。ごめんなさい……」


<んだよ、二人とも泣くなってっ!俺はこうして"いる"んだぜ?>


 幼馴染みは、うまく話すことが出来ず、こんな事しか言えなかった。


「……もうっ!」


 アルはこれに少し腹を立て、顔を上げると幼馴染みに向かって指を指すと、いつもの強気口調で話し始めた。


「ロウアッ!簡単に死んじゃって~~っ!

もう……、私たちのこと……、忘れちゃ駄目……なん……だから……。やだやだやだっ……。うゎ~~ん……」


<お前らのことを忘れるわけないだろ……>


 シアムも続いた。


「三人で色々遊んだよね……。とっても楽しかった。

私たちがアイドルをやろうかどうか迷っているときに、ロウア君の一押しがあったのを覚えている?

あれ、とても嬉しかったんだよ……。うぅぅ……。グスッ……」


 二人は思いを伝えると互いを抱きしめ合って、心の苦しみを分け合おうとした。


<覚えているぜ。若いんだし、やってみればって感じだったけどなっ!>


「……ふふふ、ロウア君だって同じ歳なのに……君らしかったね……」


<二人ともそんなにしんみりとするな。俺はイケカミのそばにいるから、お前らのそばにいるようなもんだって……>


 魂のロウアがそう言うと、アルとシアムは耐えきれず大泣きしてしまった。


「やだやだやだ……。ロウア~~~ッ!うわ~~~んっ!!!」

「ロウア君~~っ!!!うぇ~~ん……」


 すると幼馴染みは元の身体に重なりながら、二人の頭ををやさしく撫でてあげた。


「やだ……やだやだ……、頭を撫でないでよ……。当たってないじょぉぉ~~~、バカロウアァァァァ~~~ッ!」

「ううぅ……、ロウア君……、今までありがとう……ありがとうね……」


 アルとシアムは幼馴染みと色々な思い出が浮かんでは消えていった。やがて二人は魂となった幼馴染みが重なったロウアを抱きしめた。三人は尽きる事の無い別れの涙と共にいつまでもそのままでいるのだった。


-----


 アルとシアムが帰った後だった。魂のロウアは、恥ずかしそうに元の身体に話しかけてきた。


「ナーカルの神官様、ありがとよ。お前の魔法も役に立つんだな」


「素直じゃ無いなぁ……」


「ちっ……。

やつらと最後の挨拶が出来るとはな……。くそっ……、鼻水が出そうになるぜ……。なんだよ、これ……。身体は無いのに……」


 そう言いながら魂のロウアは涙ぐんでいた。


「全く……。素直じゃ無い……」


 ロウアもその涙をもらってしまいそうになって、互いに目を逸らし合った。


 何万年も過去だろうと、何万年も未来だろうと夜はやってくる。ムー大陸の夜のカーテンは様々な思いを包み込んで静かに閉じていくのだった。


2022/10/18 文体の訂正、文章の校正


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