孤児院
翌日、來帆の病室にまた同じ女性神官達が鞄を携えてやって来た。
(あの鞄って空中に浮いてるの?それが勝手についてくるのね、すごいわ。)
猫耳の神官が鞄を開けるとニコニコして服を取り出したので、來帆は、神官の出した服と自分を順に指差した。
神官はうんうんと頷いた。
(着ろということね。だけど、これだと寒いんじゃないかなぁ…。
それにしても猫耳が気になるなぁ…。ふざけてるのかな…。)
その服は長袖だったが、生地は薄く見えた。
だが、病室にカーテンを引いて着替えてみると、暖房のように洋服が暖かくなるのが分かった。
(なっ!以外と暖かいわね…。)
そして、神官に着替え終わったことを伝えた。
神官達に連れられるまま、病院の外に出ると、車が停めてあって來帆はそれに乗せられた。
(そうか、退院なんだ。)
と気づくと、車のタイヤ辺りを再度確認した。
(…今度は確実だわ…。タイヤがない…。)
タイヤのない車は抵抗もなくすっと動き出したので、來帆はあることに気づいた。
(…分かった。タイムスリップよ、私は未来に来たのね…。やっと分かった…。)
來帆はため息を漏らした。
急激な環境に変化に慣れ過ぎていて、これぐらいのことでは驚かなくなっていた。
(それはそうと、どこに行くのかしら…。)
車から見える世界は未来世界そのものだった。
ビルはさほど高くなかったが、綺麗に輝いていた。
空中には立体映像の映像が映っていた。
それよりも空中を飛ぶ車や、電車に目がいった。
歩いてる人達は病室で見たような多様な種族の人達だったが、見たこともない洋服を着ていて、神官と同じように空中に浮いた鞄を持っていた。
來帆が窓にへばりつくように見ているので前座に座っている二人の神官はニコニコしながら見ていた。
やがて都会から離れていくと、一軒家の多い場所になっていった。
空中に浮遊する家もあって來帆は住んでいる人はどうやって下に降りるのかと思った。
やがて車が止まると、少し大きめな家のところに停まった。
家の一番上には、大きな四角が描かれていた。
(教会みたい。十字架じゃないけど。)
來帆達が降りると、小さな子どもから自分ぐらいの歳までの子ども達が來帆を物珍しそうに集まってきた。
(子ども達だらけ…。
そうか、ここは孤児院なんだ。私みたいに両親を亡くした子が…。
…私、あれだけ人を殺してしまったのに、何を今更、人並みに悲しんでいるのかしら…。)
孤児院を運営するのは、一人の女性の神官のようだった。
ここまで連れてきた神官とは違う白い服を着ていた。
「□□□□□、□□□□。□□□□□□□□□□□□、□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□。」
(初めまして、エメさん。あの災害で大変でしたけど、ここでみんなと一緒に頑張っていきましょう。)
來帆は、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
そして、集まった子ども達に何かを一通り話し終わると、來帆の背中をぽんと押し、何かを話せとメッセージを送った。
來帆は何を話せば良いのか分からず、
「エメ…」
と自分を指差してそう言って、お辞儀をした。
(あれ?未来社会でお辞儀ってするのかな…?)
ここからは、我々も來帆の事をエメと呼ぼう。
エメは、孤児院の神官に生活用の部屋を案内された。
部屋は比較的小さな部屋だったが、二人部屋のようだった。
(狭い部屋ね…。身寄りも無いから仕方が無いか…。)
そこには自分と同じ歳の少し線の細い気弱そうな、自分と同じぐらいの歳の男の子がいた。
二人はエメを見ると手を出してきたので、握手をした。
すると、來帆の身体に電撃のようなものを感じて思わず男の子の顔を見つめてしまった。
(な、なに…?)
そして顔を真っ赤にすると下を向いてしまった。
(お、おかしい…。何で顔が赤くなるのさ…。)
男の子は、自分の名前を指差して、
「オケヨト、オケヨト。」
と繰り返したので、エメは彼の名前だと理解した。
夜食は大きな部屋で皆と一緒に取った。
エメは話すことも出来ず、黙々と食べていたが、同室のオケヨトはエメの目の前に座り、何かと世話をしてくれた。
その優しさにエメは、心が温かくなるのを感じた。
その後も、エメはオケヨトから色々と教わったが、言葉が分からず半分ぐらいしか理解できなかった。
やがて夜になり、エメもベットに潜り込んだ。
(やれやれ…、死んだと思ったのに、また別の人生を歩むことになった。
しかも、多分、未来で…。しかも、しかも、今度は男として…。
元々男みたいな性格だから、この方が良いのかもしれない…。
だけど、あの子…。)
エメが同室の男の子の寝ている姿を見ると顔が赤くなるのが分かった。
(…なんだこれ…。)
エメは、感じたことのない感情に戸惑ったが、やがて疲れて眠りに落ちた。
オ 山から
ケ 流れ来る恵みを
ヨ 受け止めて
ト 何かを生み出す者




