魂のロウア
翌日は、アルとシアムが朝からやってきて一緒に学校に行ってみようと提案してきた。
「がこう?」
ロウアの発音は慣れていないからか、旨く話せなかった。
それをすかさずアルが訂正してくれた。
<がこうじゃないよ。学校だよ>
<発音はこれからだから、頑張ろうね>
ロウアはシアムの優しい言葉にうなずいた。
<うんとね、学校に行けば、少しは思い出せるかな~って、昨日アルちゃんと話したの>
(学校か……。この時代にもあるんだな……。あれ、僕って何歳?)
ロウアは基本的なことに気づいた。
(何となく、この身体は、若いと分かるんだけど、何歳だろう……)
「わたしは・なん・とし?」
<なんとし?>
アルはなんと言ったのか分からなかったが、シアムは理解した。
<えっと、年齢のことかなぁ。私たちは、15歳だよっ!>
<おっ、そういう事か。てか、自分の年齢も分からなくなっ……、もう、いっか……>
ロウアは、自分の身体が15歳であることを知って、確かに身体が軽くなっていることを実感した。
ただ、少しなんとも言えない違和感も感じていた。
心と体がしっくりしていないというか、気を抜くと身体から魂が外れてしまいそうな、そんな感じだった。
<さあ、早くロウア制服に着替えてっ!>
「せいふく……」
制服の場所が分からないロウアは、少し戸惑った。
取りあえず、二階の自室に戻るが、どうしたものかと悩んでいた。
(昨日ある程度調べたけど、それらしいものは無かったんだよなぁ)
だが、キッチンで床に隠れたテーブルを思い出し、壁を見ているとそれらしい切れ目が見つかった。
(ま、まさか……)
ロウアは壁の横にある少し明るい場所にツナクトノを近づけてみた。
ウィーン……。
(おおっ!正解だったっ!)
壁が開くとタンスのようになっていて、制服が掛かっている。
(これは便利っ!)
そのタンスに入っていた制服は、アルとシアムの着ている制服と同じような柄で両肩に四角の模様がある。
袖が無いのは同じだったが、パンツは長かったので21世紀の学生服と同じだった。
ロウアが制服に着替えると、やはり自動的に体温調整されるのが分かった。
(服は体温が全部自動調整されるのかな。すごいなぁ)
そして、タンスの裏側が鏡になっていたのでちゃんと着れたか確認した。
(あっ……。えっ?)
ロウアは目の前の鏡に映っていた自分に目を疑った。
そこに映っていたのは、自分の知っている顔だったのだ。
(えっ?えっ?えっ?
まさか、この身体……、永原?!
つまり、永原の過去の姿ということか……。
うそだろ……)
永原は21世紀では、重力子を発見し、悪の道に落ちてしまった。
最後には妹の愛那の説得で理性を何とか取り戻したが、インフェルノの塔を消滅させるため、
悪魔を憑依させたまま、池上とブラックホールに落ちたのだった。
ロウアは、本当に自分かどうかを確認するため手足を動かしたが、やはり、この身体は"自分"でもあり、"永原"でもあった。
(つまり、永原は、この時代では、若くして死んでしまう運命だった。
僕は、その身体にタイミング良く、ブラックホールから抜けて乗り移ったと……)
(若くして死んだって、俺のことだよな?)
「えっ?」
ロウアは突然聞こえてきた声に驚いた。
そして鏡にはこの身体と同じ顔の魂が自分の後ろに制服姿で映っていた。
ロウアが振り返るとその魂は話を続けた。
(俺は死んでしまったから、身体から魂が抜け出したと、んでお前がやってきて身体を奪ったということか)
「き、君は、ほ、本当のロウア君……?」
(ロウア、ロウア、ロウアッ!
本当のロウアって何なんだよっ!
俺もロウアだし、お前もロウアなんじゃないか?
はぁ、全く……。
俺が死んだのも信じがたいが、身体が奪われてしまうなんてな……)
目の前の青年、魂となった"この時代のロウア"は頭を抱えていた。
「そ、それは、話が長くなる……。あれ?日本語が通じるの?」
(ニホンゴって言うのか、その言葉は。
これも不思議なんだよなぁ、他の奴らはダメみたいだがお前の話してる内容が分かるんだ。
全く何なんだよ、コレは……)
魂のロウアは話を続けた。
(続けたかった研究があったのにさぁ……。
悔しいなぁ。
俺の身体を返せよ)
「そ、それは……。返したいのはやまやまだけど……、たまたまというか……。自分でも理解できずここにいるんだ……」
(俺は身体が奪われてムカついているだぜ?
だけど、入ろうとしても入れない。
お前、抜けらんないの?)
「僕もどうして良いか、抜けろと言われても……」
(はぁ、マジかよ……。
んにしても、学校で習った魂とか天国、地獄って話がマジだったということか)
「この時代では学校で霊のことについて教えてくれる授業があるの?」
(あぁ、死んで魂となって天国に行くんだとよ。
悪い奴は地獄に落ちると。
ラ・ムーの教えだぜ。
でもさ、実感わかないからさ……、それがマジの話だったとはな。
うん?この時代?
まぁ、いっか。
それにしても笑えるぜ……)
(……)
(お前、何でその魂ってやつになった俺と話が出来るんだよ。
誰に話しかけても全然聞こえないのにさぁ)
「僕は元々、魂が見えたり話したり出来るから」
(はぁ、何だそりゃ……。変な奴……)
「ひ、否定出来ない……」
<ロウア~ッ、まだ着替えているのぉ~~っ!遅いぞぉ~~っ!>
(アルが怒っているな。面倒くさい奴だし、話は後でじっくりしようぜ)
「う、うん……」
ロウアは、急いで階段を降りて、アルとシアムのところに向かう。
<遅いぞぉ、ロウアッ!女の子を待たせるとはっ!>
<アルちゃん、お着替え大変だったんだよ。きっと>
「ご・めん・なさい」
三人と魂となったロウアは、学校に向かって歩き始める。
「き、君も来るの?」
(当たり前だろ)
思わず日本語を声に出してしまったロウアは、口を塞ぐが遅かった。
<また、ロウアが変な言葉話している……>
<だ、誰かと話しているの?>
ロウアは、アルとシアムに取り繕うことも出来ず、苦笑いをするしかなかった。
(しまった……)
(口に出さなくても良いぜ?
思うだけで分かるみたいだ)
(えっ、そうなの?)
(ああ、大丈夫だ。これも不思議なんだよなぁ。死んでみて分かった感覚だ)
<ロウア君、その言葉、学校では話さない方が良いかも>
「うん。わ・かった」
<ま、いっか、行こうっ!>
<うん、そうだね>
ということで、三人と"一人"は、学校へ向かいロウアの家を出発した。
もちろん、ロウアは学校の場所を知らない。
2022/10/08 文体の訂正




