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ハイタッチ~私とバンド活動しませんか?  作者: 一ノ瀬 和人
結成 そのバンドの名は‥‥‥‥
69/69

ありがとう

 小五郎達橘バンドの演奏が終わった後、拓海達はいつものお好み焼き屋に移動し食事を取っていた。

 この日は珍しく拓海がへらを持たずこのみが持ち、拓海の隣で懇切丁寧に焼いてくれている。

 どういう風の吹き回しかわからないが、このみの提案にのり楽をさせてもらう拓海だった。


「拓海先輩、できましたよ。せっかくですから、あたしが食べさせてあげましょうか?」

「別にそんな事しなくていいよ。というかどういう風の吹き回し? このみがそんなことするなんて」

「もちろんそれはお礼といいますか、あたしの気持ちです」


 このみのお礼という言葉が指し示していることは、アンコールで歌ったチェリッシュのことである。

 その時に無理矢理拓海のことを引っ張り出したことを柄にもなくこのみは気にしているようだった。


「そういえばお前、あの時無理矢理拓海のこと引っ張り出したよな」

「俺達心配したんだぞ。2人に何かあった時俺達もフォローしないといけないと思って、いつでも出れる準備をしてたんだからな」

「僕も悠馬君と同じ意見でちょっと心配してたけど、拓海君のギターすごくよかったよ。もちろん、このみちゃんの歌も」

「ありがとう。陽一君がそう言ってくれるだけで、俺の頑張りは報われるよ」

「ありがとうございます、古川さん」


 拓海の目の前に座る陽一はこのみがしたことをフォローしているように見える。

 ただこのみのことをフォローしつつも、少しだけ後悔しているように拓海は思えた。


「しいていえば、僕もこのみちゃん達とアンコールの演奏出たかったな」

「でもでも、3人で合わせる練習はしてないじゃないですか。だからあたしと拓海先輩だけの方が、都合がよかったんです」


 このみがそのように話す理由も拓海にはわかる。古川を入れての演奏は全力少女以外はしたことがないので、チェリッシュの演奏をするのならこのみの選択であっていたように拓海は思った。


「確かにお前達の言うことはあってる。だけど気に食わないこともあるんだよ」

「気に食わないことって何だよ。古川君はまだしも、剛達はしょうがないだろ? まだ楽器を始めて1ヶ月なんだから」

「違う。俺が気に食わないって言ってるのは、アンコールのことじゃない」

「じゃあ何なんだよ? その気に食わないことって」


 拓海が難しい顔をしてそう言うと、剛が指を指したのは拓海の後方にいる人物。

 その指がこのみの方を指しているように拓海には見えた。


「あたしですか?」

「違う。その後ろだ。篠塚さんはいいとしても、何で神楽達までここにいるんだよ」


 拓海は後ろを振り向くと孝明と真里菜が対面に座り、2人で仲良くお好み焼きを焼いている。

 真里菜の隣には愛梨が座り、その対面にこのみが座り拓海の隣でかいがいしくお好み焼きを焼いていた。

 愛梨はといえば孝明が焼くお好み焼きの隣でもんじゃ焼きを作っては、古川や剛達に渡している。

 孝明達がいることに全く違和感がなくこの場所に溶け込んでおり、拓海もバンドのメンバーと同じように接していた。


「失礼ですね。孝明先輩達は横断幕を作ってくれたんですよ。あれ作るの大変だったらしいんですから、ここにくる資格はあります」

「それでも関係者とは言えないだろ? 拓海達はそれでいいのかよ」

「俺は別にいいと思うけど。応援してくれる人は1人でも多い方がいいだろ?」

「僕も拓海君の意見に賛成かな。神楽君と神宮寺さんは僕達のために横断幕まで作ってくれたんだから、感謝しないと」

「あまり細かいことを気にするなよ。そんなこと考えてるとはげるぞ、剛」

「悠馬、お前は黙っとけ」


 1人で勝手に怒っている剛に対して、孝明は困ったような表情をしていた。

 人1倍空気を読む孝明だからこそ、そのような態度を取る。今までバスケ部で一緒にやってきた拓海にはそれがわかった。


「やっぱり俺、邪魔だったな。今からでも帰るよ」

「そんなことないですよ。孝明先輩は拓海先輩達のために横断幕とか作ってくれたじゃないですか。このバンドの功労者です」

「僕は神楽君と1回話してみたかったから、もう少しここにいてくれるとうれしいけどな」

「孝明、陽一君がそこまで言ってるんだから気にしなくていいよ」

「そう? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。剛のことなんて放っておいていいって。一緒にお好み焼きを食べようぜ」


 悠馬がそのように言うと、立ち上がろうとした孝明がその場に座る。

 そうなると場の視線が自然と剛の方へと行く。特にこのみの痛烈な視線を受け、剛は縮こまってしまう。


「わかったよ。俺が悪かった。すいませんでした」

「お前素直に謝るようになったんだな。感心したよ、剛」

「7月の時と同じようなことになるのは、もうこりごりだからな」


 剛がうんざりしたように話す。7月の件で、よっぽどこのみに虐げられたのが効いているように拓海は思った。


「でも、拓海達の演奏本当によかったよ。俺ライブに初めて行ったけど、すごい興奮した」

「孝明にそういってもらえると、俺もうれしいかな」


 孝明にそう言われると素直に照れてしまう拓海。

 今まで身近な友人に演奏を聞かせたことがなかったので、拓海としてもすごい勇気をもらえた。


「私も横断幕作りに参加したかったです」

「ごめんね。私、愛梨ちゃんのこと全然知らなかったから誘えなくて」

「いえ、いいんですよ。私も真里菜さん達のことを全然知らなかったので」

「じゃあさ、次のライブは一緒に横断幕作ろうよ」

「はい、その時は誘ってください」


 篠塚と真里菜の仲が深まっているように拓海には感じられた。

 拓海が見ない間に2人は名前で呼び合っているのが、その証拠だと思う。

 最初に人見知りの篠塚に対して、真里菜や孝明達を呼んでも大丈夫かと悩んでいたがその心配は杞憂であった。

 今ではこの3人を連れてきてよかったと拓海は思っている。


「じゃあ今度3人でどこかに行きませんか? 女性同士の親睦会ということで」

「いいと思います。私も真里菜さんやこのみちゃんと遊びに行きたいです」

「私も愛梨ちゃんともっとお話できたらいいなって思ってたから、こちらこそ宜しくね」

「はい。私の方こそ、よろしくお願いします」

「いい友情ですね」


 女性3人の間で話が盛り上がっているように拓海は思う。

 その間、拓海はこのみが置きっぱなしにしていたへらを取り、自分でお好み焼きを焼き始めた。


「拓海君」

「どうしたの? 陽一君」

「僕、本当にこのバンドにいてよかった。ありがとう」

「陽一君? どうしたの? 急にお礼なんていって」

「だってもし拓海君が誘ってくれなかったら、こういう所で友達とご飯を食べることもなかったし、絶対友達とかできなかった。このバンドに誘ってくれた拓海君には感謝しかないよ」

「俺は何もしてないよ。陽一君が自分で決めたことじゃん」

「それでもお礼を言わせて。ありがとう、拓海君」


 拓海は面と向かって古川に感謝をされると、妙に照れくさくなる。

 古川にそんなことを言われると思わなかった


「そうだ。僕達男子も親睦深めるために出かけない? もちろん、孝明君も含めて」

「俺も参加していいの?」

「もちろんだよ。僕も孝明君ともっと話したいし。剛君もいいよね?」

「陽一が言うなら、俺は別にいいけど」

「陽一、それって俺も含まれてるよな?」

「もちろんだよ。皆で行こう」


 古川の一言で拓海達も一緒に出かける約束を取り付けた。

 この面子で行くのに少々の不安を抱えるが、なんとなるだろうと拓海は思う。

 いざとなれば自分が仲裁に入ればいい、そう考えた。


「拓海先輩達も仲がいいですね」

「このみ達ほどじゃないよ」

「あたしは友達いっぱいですから。目指せ友達100人です」

「小学生かよ」


 胸を張るこのみを見ながら、思わず拓海の口から笑いが漏れる。

 つくづく拓海は因果なものだなと思う。

 拓海が作ったバンドにこのみが入り、その後に音楽室でピアノを弾いていた古川が加わり、剛や悠馬までバンドに加入することになった。

 今では愛梨や真里菜や孝明共交わるようになり、交友の輪がどんどん広がっていく。

 バンドを始めた当初、予想していなかった出会いに拓海は思わず笑ってしまう。


「拓海先輩、何が面白いんですか?」

「いや、なんでもない。こっちの話」

「変な拓海先輩です」

「それよりこのみ、お前確かお好み焼き焼いてくれるって言ってなかったっけ?」

「後は拓海先輩にお任せします」

「結局俺任せかよ」

「だって拓海先輩のお好み焼きの方がおいしいじゃないですか」

「お前も少しは手伝え」


 拓海はしかめっ面をしながら、お好み焼きを焼くことに専念する。

 そして焼いている間、今日のコンサートが無事終わり内心ほっとする拓海。

 こうして拓海達の長い夏休みは終わりを迎えるのだった。


ここまでご覧いただきありがとうございます。これで3章は終了となります。

途中連続更新が途切れてしまい申し訳ありません。話のストックが切れてしまい、間が空いてしまいました。

4章についてはまだ本文全てが書き終わっていないため、なんともいえない状態です。

出来れば書き上げて推敲が完了したものから、順次投稿を行おうと考えています。

少し時間を頂くと思いますが、できるだけ早く投稿を始めようと思いますので、これからもよろしくお願いします。

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