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ハイタッチ~私とバンド活動しませんか?  作者: 一ノ瀬 和人
結成 そのバンドの名は‥‥‥‥
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あたし達のバンド名、それは‥‥‥‥

 7月に拓海が演奏したステージでは特設ステージを囲む観客はいても、人が通行できる程度に通路は開けてあった。

 だが今回はショッピングモールのスタッフらしき人達が一時的にステージ前の通路を封鎖している。

 それぐらいこの日は夏休み最終日ということもあり、お客さんであふれていた。


『皆さん、お久しぶりです。橘バンドの前座を務める高校生バンドが、このショッピングモールのステージにまたきちゃいました~~』


 このみが声をあげると周りのお客さん達も呼応するように歓声が上がる。

 中には『がんばれ』と書かれたプラカードを掲げている人もいて、自分達のことを応援してくれていると感じる拓海。

 前回のステージではそのような行いはないので、拓海はうれしくて顔をほころばせてしまう。


『ありがとうございます、ありがとうございます。皆さんがここに送ってくれたお手紙のおかげで、あたし達はまたここのステージに立てました。もう、感無量です。新メンバーにベースとドラムを加えたあたし達のバンドを、これからも宜しくお願いします』


 このみの発言をきっかけに、拓海は手に持っていたギターを構える。

 MCが終わり曲紹介に入ると思って、この後すぐ演奏ができるようにと準備をしたのだった。


『それでは、あたし達から今日ここに来てくれた皆さんに重大発表をしたいと思います』

「重大発表?」


 このみの予想外の発言に、拓海は思わずマイクも持っていないのにつぶやいてしまった。

 拓海はこのみから重大発表の話を一切聞いていない。。

 それは剛達も同じらしく、バンドのメンバー全員がこのみの事を呆然と見ていた。


『皆さんが送ってくれたあたし達のバンド名ですが、この度決定したのでご報告します』


 その言葉を言い放った瞬間、拓海はマイクを手に取りこのみのいる場所へと移動を開始する。

 他のメンバーも同様にマイクを手に持ち、このみの方へと向かおうとしていた。

 その間観客席から大きな歓声が挙がっているが、拓海自身それどころではない。

 笑顔でポケットから紙を取り出したこのみを止めなくては。その思いだけで体を動かしこのみの方へと向かう。


『では聞いてください。あたし達のバンド名、それは‥‥‥‥』

『『『『待て待て待て待て待て』』』』


 拓海達はこのみの側により、揃って同じ声をあげた。

 ただ1人このみは耳を抑え、不満そうに拓海達を見回す。

 耳を押さえたこのみは不機嫌に拓海達のことを見回すのだった。


『何ですか皆さん、そんなに大声出して。うるさいですよ』

『うるさいじゃない。お前何を言ってるんだよ?』

『バンド名の発表って、俺達一言もそんな話聞かされてないんですけど』


 剛と悠馬が驚く気持ちが拓海にはよくわかる。

 拓海もこのみからそんな重要な話を一言も聞かされていないからだ。

 やがて剛は目の前のこのみから拓海と古川の事を見て、困惑するのだった。


『えっ、拓海達はもしかして知ってた? 俺達2人だけのドッキリだったとか、そういう演出?」

『剛、違うよ。俺もその話を今この瞬間初めて聞いたんだよ」

『僕も。今その話を聞いてすごくびっくりしてる』


 4人が顔を見合わせ意見を1つにまとめると、揃ってこのみの事を見る。

 4人の気持ちは1つのようで、バンド名については全てこのみの独断で進めらてたと結論付ける。

 当のこのみ本人はというと、全く悪びれもせず拓海達のことを見ていた。


『当たり前ですよ。送られてきた手紙の中から、あたしの独断と偏見で選んだんですから』

『お前さっき控え室で言ったよな? 俺達のバンドが1人前になったら、バンド名を付けようって』

『はい、なので名前を付けさせていただきました』

『このみちゃん、どういうこと?』

『演奏前で悪いけど、簡単に理由を説明してくれ』


 このみの言っていることが、拓海にはわからない。

 それは古川達も同じらしく戸惑っている。

 先程控え室で言っていたこと全く違うことを話しているこのみに対して、拓海も戸惑いを隠せないでいた。


『もう、しょうがないですね。それなら答えますけど、以前のライブであたしがバンド名を募集したことは覚えてますよね?』

『そういえばそんなこと言ってたかな?』

『確かにこのみちゃん前回のがステージでそんなこと言ってた気がする」


 拓海もこのみがそのような適当なことを言っていたのは覚えている。

 たしかこのショッピングモールの広報宛に送ってくださいとか言っていた気がした。


『あれからすぐこの広報課にあたし達のバンドのファンレターの他に、たくさんバンド名に関するお便りが来たらしいです』

『そんなに来たの?』

『はい、それはもうたくさん来たらしくて段ボール箱1つ分ぐらいになるらしいですよ』


 そんな重大な事実を拓海は初めて知った。

 確かに拓海はこのみが月末のライブのことを話した時、何故知っていたのか疑問に思った。

 それとショッピングモールの従業員が拓海達のバンドにライブをしてほしいと要請したのもこのことが原因だとわかる。


『それってすごいことじゃん』

『あのライブってそんな好評だったんだ』

『それでこちらの広報に送られてきたバンド名の中から、あたしの独断と偏見で選ばせてもらいました』

『でも待って待って。このみちゃんさっき言ってたよね? バンド名をつけるのは「あたし達が単独でライブが出来るようになってから」って。今日の演奏って橘バンドの前座だから、俺達まだ1人前とはいえないんじゃない?』

『悠馬さんは何を言ってるんですか? 今日のライブの演奏は、あたし達のバンドがメインですよ』

『えっ? それマジ?』

『俺、初耳なんですけど』

『はい、今言いましたので』


 このみがそのように話した時、色々と今日のライブの背景が見えてくる。

 先程無理矢理バンドの名前を決めなかったのは、このためだったと拓海は悟る。

 そして小五郎が8月頭に言っていた、「最悪3人でライブをする」と言っていたのにもちゃんとした意味があったことがわかる。

 全ては自分達メインのライブをするために、そこまで無理を通したのだと思う。

 拓海を含み驚いている4人のことを見て、このみは満足そうに笑うのだった。


『これって、完全にサプライズじゃん』

『このみ、一応聞いておくけどこのことはいつから知ってたの?』

『8月の頭からです』

『最初からかよ』

『でも皆さんに驚いてもらって、あたしはうれしいです。ドッキリ大成功』

『そんなドッキリ、僕達は望んでないよ』


 古川が肩を落とすと同時に、お客さんもどっと笑う。

 以前ライブをした時もそうだったが、お客さんはこのコントのようなMCを楽しみにして見に来ているように思えた。


『じゃあ、改めて発表しましょう』

『待って、このみちゃん。何の発表?』

『バンド名の発表に決まってるじゃないですか? 古川さんは当たり前のことを聞かないでください』

『なぁ、今からでも考え直そうぜ。このライブの後で、ゆっくり決めればいいじゃん』

『ダメですよ。これは前回のライブで約束したことですから。皆さんもそう思いますよね?』


 このみがそのように言うとお客さんも肯定するようにどっと沸きあがる。

 その歓声を聞いて、拓海もこの場でバンド名を発表しなくてはならないと悟る。

 このみの思い通りに言っているのが腹立たしいが、前回観客の人達と約束したことなのでしょうがないと思った。


『大丈夫です。皆さんもきっと気に入ると思いますから』

『気に入る?』

『それってどういう意味?』

『それでは発表します。あたし達のバンド名、それは‥‥‥‥』


 このみはもったいぶるように溜めて話す。

 思わず会場中、ひいては拓海達ですら息を飲んでしまった。


『『『『それは?』』』』

『インフィニティーゲートです』

『『『インフィニティーゲート?』』』

『このみちゃん、それってどういう意味?』

『送ってきた人は無限大と扉を掛け合わせた意味の名前を考えたらしいです。無限の可能性があるグループなので、新しいステージという扉をドンドン開いていってほしいという思いを込めて名づけたみたいですよ』

『このみにしては、意外とまともなの選んだな』

『あたし的にはボーカルの女の子以外地味だから地味's(ジミーズ)っていう名前にしたかったんですけど、しょうがないですね』


 さらっとこのみは恐ろしいことをのたまう。

 拓海はその独特なネーミングセンスにぞっとしつつも、今の発言をスルーすることにした。


『インフィニティーゲートか。中々いい名前じゃん』

『俺も超気に入った。すごく格好いい』

『僕もその名前はいいと思う』

『皆さんも気に入ってくれたので、この名前に決定ですね。それじゃあ横断幕を出しちゃってください』


 このみが掛け声と共に2階にある柵から『祝発足インフィニティーゲート』と書かれた横断幕が広げられる。

 それは拓海達のいるステージからでも、はっきりと見えた。


『えっ? あんなのまであるの? 俺、全く知らなかったけど』

『俺も俺も。このみちゃん、俺達にどれだけサプライズをしてくれるの?』

『でも僕達のためにそこまでしてくれるなんてうれしいね。横断幕を作ってくれた人達、ありがとう』


 バンドメンバー全員で横断幕に向かってお礼の意味もこめて手を振った。

 拓海は横断幕の所にいる人達のことをよく見ると、そこでは高校生ぐらいの男女が手を振っている。

 その男女の姿を見て、拓海は目をこすり再度その男女に目を向ける。

 その手を振っている2人の姿は、誰がどう見ても孝明と真里菜であった。


『このみ、お前計ったな』

『はて、なんの事でしょうか? それよりももうそろそろ演奏しないと怒られちゃいますよ。はい、解散。解散です』

『何だよ、全く』

『事前に言ってくれればいいのに』


 このみが手を叩くと、それぞれが元の位置へ戻っていく。

 途中剛や悠馬がぼやいていたが、それでも元の位置へと着く。

 拓海も定位置へと戻り、横断幕の方を見ると孝明と真里菜の視線に気づく。

 2人に向かってサムズアップをすると、孝明も拓海のポーズに気づいたのか同じようなポーズをして返してくれた。


『拓海先輩、1人で何をしてるんですか? 超キモイですよ』

『超キモイ言うなよ。あっ、改めましてインフィニティーゲートです』

『それはあたしのセリフですよ。勝手にMC役を取らないで下さい』


 このみが横でぶつぶつ言っているが、舞台袖にいる従業員の人が早く演奏してくれという合図を出している。

 そのことに気づいたのは拓海だけで、このみは従業員の人に背中を向けているので気づく様子はない。

 これ以上このみに任せると余計長引いてしまうと考え、自分で進行役をすることに決めた拓海であった。


『えっと、様々なバンド名を送っていただいて、皆さんどうもありがとうございました。これからもこの名前に恥じないような演奏をしていきたいと思いますので、応援をお願いします』

『拓海先輩、固すぎます。文章がかっちこっちですよ』

『いいからこのみ、早く曲紹介しろよ。時間時間』

『そうでした。では皆さん、聞いてください。あたし達インフィニッティーゲートという名前をつけてから演奏する初めての曲です』


 このみが辺りを見回し、全員に演奏の準備が出来ているのかを見る。

 拓海もこのみの視線を受け取り、その場で頷いた。

 いよいよ、この夏努力をした成果を出す時が来たと思うのだった。


『それでは皆さん聞いてください。あたし達インフィニティーゲートで、『今日は晴天』です』


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