このバンドのジンクスなの?
拓海達がリハーサルを終えた後、小五郎が控え室へと戻って来る。
後ろには高林と梅田も一緒におり、それぞれが控え室へと入って来た。
「自分達でリハーサルをしているとは、関心関心」
「小五郎さん達は打ち合わせ終わったんですか?」
「あぁ、君達は予定通り11時50分からステージに出ることになった」
小五郎の言葉を聞いて、拓海はいつも以上に気合が入る。
それと同時に緊張で体が硬直し、体が堅くこわばるのもわかった。
「11時50分ってことはあと1時間50分ぐらい?」
「悠馬君、正確には1時間46分だよ」
「陽一は細かいんだよ。でも、そういう所も陽一のいい所なんだけどな」
「悠馬さん、あまり気持ち悪いことを言わないで下さい。もう1度リハーサルをしますよ」
「このみの口からリハーサルって言葉が出たよ」
「何かの天変地異の前触れか?」
「何か言いましたか、拓海先輩に剛さん?」
「なんでもないなんでもない」
「ただの与太話だから、気にしないで」
まさかこのみの口からリハーサルという言葉が出てくると拓海は思わなかった。
大の練習嫌いで、暇があればスマホのゲームかもって来た漫画を読み漁っているこのみ。
そのこのみが必死に練習しようとしている姿が意外だった。
「じゃあもう1度わしらの前で、演奏する曲を弾いてくれないかい?」
「それは妙案だな。僕達も君達の曲を是非聞きたい」
「わかりました。じゃあみんな、準備してもう1度演奏しよう」
「はい」
それぞれが返事をして所定の位置についた所で、このみが周りの準備が出来ていることを確認し本番と同じように曲紹介を行う。
曲紹介を行ったのと同時に拓海はギターを弾き始め演奏が始まる。
そして演奏を小五郎達は耳を閉じて聞いている。弾き終えた後このみが「ありがとうございました」といい演奏が終わった。
終わった際拓海は小五郎達の方を見ると、彼らは拍手で拓海達をねぎらってくれた。
「君達は本当にすごいな。この短期間でよくこのクオリティーまで持ってきた」
「剛君のベースもよかったよ」
「悠馬君のドラムも完璧。これなら本番も安心して見てられるな」
小五郎だけでなく高林や梅田も拓海達のことを賞賛してくれる。
拓海も小五郎に何度も賞賛されているが、何度同じ事をされてもやっぱりうれしかった。
「剛、やったな」
「ここまで頑張ってきたかいがあるな」
特にこの日まで必死に練習してきた剛や悠馬はうれしかったようで、2人でグータッチをしている。
これまで拓海達以上に努力をしていた剛達だからこそ、そのような行動をしてるのだと拓海は思う。
「後は本番の雰囲気にのまれなければ完璧だな」
「本番か。俺、大丈夫かな?」
「なんで1回やったはずのお前がそんな雰囲気なんだよ。ここは俺達が緊張する場面じゃないの?」
「前回は何かハチャメチャなまま本番に入ったから、緊張することを忘れてたんだよ」
拓海は今でもその時のことを思い出すが、本当にめちゃくちゃな段取りであった。
このみが適当なことを言い出すので、必死に拓海が話のオチを付けるのに必死だった。
その時はバンドの名前すら言わなかったので慌てた覚えがあった。
「そうだ。バンド名。俺達のバンド名を決めないと」
「バンド名?」
「俺達バンド名決めてないじゃん。何か名前決めないと、さすがにまずくない?」
前回はバンド名が決まっておらず、このみが惚けてしまいそのせいであたふたした覚えが拓海にはあった。
そのためバンド名は決めておいた方がいいとこの時思い直す。
「確かに。言われて見ればそうだな」
「せっかくだから格好いい名前がいいね。白百合姫って書いてホワイトフラワープリンセスってのはどう?」
「意味がわからない上に読み方も格好悪い」
「名前か‥‥‥‥考え始めると意外と難しいね」
全員が必死に悩んでいる中、このみだけがやけにそわそわしているように見えた拓海。
それは他の人はわからないぐらいの些細なことだったので、このみのことをよく見てきた拓海にしかわからないしぐさだった。
「このみ、どうしたんだよ? バンド名を思い浮かんだなら、言ってもいいんだぞ」
「じゃあ言わせてもらいますと、あたしはバンド名をつけるのはまだ先でもいいと思うんです」
「それはどうして?」
「だって私達は橘バンドの前座で出てるんですよ。名前をつけるのはあたし達が単独でライブが出来るようになってからでも遅くはないと思います」
「確かに。それは一理あるかも」
「このみちゃんの話を聞いて僕もそう思う。今は無理に考えなくてもいいんじゃないかな?」
「陽一達がそう言うなら、俺達もそうした方がいいな」
「だね。やっぱり全員が納得する名前をつけたほうが絶対いいし、今回は保留にしよう」
「じゃあこの話は一旦中断で。今はライブに集中しよう」
「そうだな。この後はどうする?」
「とりあえず各自リハーサルは終わりにして、各自集中している時間でもいいんじゃない?」
「それなら、まだやってない事があります」
「やってない事?」
「そうですよ。皆さん両手を上に上げて下さい」
「上って、こうか?」
剛と悠馬も両手を上にあげ、拓海と古川も手を上げる。
このみがやりたいことをわかっている拓海は、なるべくこのみの手が届く位置に自分の両手を持っていく。
その挙げた手をこのみも両手を上げ、1人づつ叩いていく。
「バンドメンバー全員に、ハイタッチです」
「ハイタッチって、普通上手くいった時にやるんじゃないの?」
「違うんだよ、剛。このみのハイタッチはライブ成功の前祝いらしいんだ」
「前祝いとか。そんなお気楽なこと言ってていいのかよ?」
「それはこのみちゃんだからしょうがないとしか、僕には言えないかな」
いつもの事ながら、このみの突拍子のない行動に拓海はあきれてしまう。
前回の演奏でも古川と3人でハイタッチをした覚えがある。
それもこのみの提案で、自分は成功すらしてないのに何をしてるんだと思った覚えがある。
「拓海、これってこのバンドのジンクスなの?」
「そう言ってもいいと思う」
「それじゃあ、俺達もしようぜ。こういうのは全員でしないと意味ないだろ?」
そういうと剛は拓海と手を合わせる。
片手を挙げてパンと叩くタッチをされ、拓海はバスケ部時代を思い出すのだった。
「拓海、俺もいい?」
「僕も僕も」
そういった古川と悠馬にも同じくタッチをする。
タッチをした2人はうれしそうに笑い、今度は古川と悠馬の2人で同じことをしていた。
「何ですか、その格好いいハイタッチは? あたしもやりたいです」
「このみ、駄々をこねるなよ。さっきやったからいいだろ?」
「こういうのは何度やってもいいんですよ。だから拓海先輩、あたしとやりましょう」
「わかった。お前とやるから、そんなにくっつくなよ」
「騒がしくなってきたな、梅ちゃん」
「でもこれぐらいの方が元気があっていいじゃないか、小五郎ちゃん」
「青春だね」
こうしてリハーサルが終わり、控え室で騒がしい時間が過ぎていく。
その後拓海はこのみとハイタッチをして、各々それぞれの準備を行いライブの開始時間を待つのだった。




