絶対に覗かないで下さい
練習終了後、夕食を済ませた拓海達はそれぞれお風呂へと入った。
既に拓海や剛達男子4人はお風呂を済ませ、音楽スペースに布団を敷いている。
布団の奥にあるテーブルには夏休みの宿題が置かれており、全員で勉強をした後があった。
「これでよしっと。やっと寝る準備ができたよ」
「なぁ、拓海。お前風呂場に行かなくていいの?」
「何で俺が風呂場に行かないと行けないんだよ。剛じゃないんだから、俺に覗きに行けっていうのかよ」
布団に座ると、拓海は剛に向かってそのように話す。
誰が好き好んでこのみの裸をわざわざ風呂場まで見に行かなければならないのだろうか、その理由が拓海にはわからなかった。
「だってこのみのやつ、絶対にお前のこと誘ってたぞ」
「あのセリフは俺達にだろ? 悪いが覗きに行っても、俺には何のメリットもない」
「なになに、なんか面白い話してるじゃん。俺もいれてよ」
「2人共、何の話してるの?」
布団を敷き終えた悠馬と古川も拓海達の所へとやって来る。
古川は紺のパジャマを着ており、悠馬は中学時代着ていたという緑のジャージを身にまとっていた。
「聞いてくれよ、悠馬に陽一。拓海が覗きに行かないかって俺のことを誘うんだよ」
「剛、嘘を言うな。俺はそんなこと一言も言ってないからな。全部デマだよ」
「何だよ、つまんない。拓海がそう言うなら、このみちゃんの裸を見るの手伝ってやろうと思ったのに」
「僕はちょっとほっとしてるかな。そういうことはやっちゃいけないと思ってるから」
古川のほっとした顔を見て、拓海も安心した。
これで古川まで剛達の話にのって、全員で見に行くことになったらどうしようかとも思っていたからである。
そういう意味では古川が反対してくれてよかったと拓海は思った。
「陽一も悠馬もあいつが去り際に言ったセリフを思い出してみろよ。あいつ俺達になんて言ってた?」
「確かこのみちゃんが『これからあたしはお風呂に入ってきます』って言ってたように俺は聞こえたけど」
「その後、『絶対に覗かないで下さい』だよね? 特に拓海君には『いくらこのみの体が見たいからって、絶対来ないで下さいね』って言ってた気がする」
古川の言う通り、このみが何度も念押ししてそんなことを言っていたように拓海も思う。
ただ、このみの体型は出る所も出てないような幼児体型なので、拓海はその姿を見たいと思ったことがない。
「あれはどう考えたって見てくださいって言ってるようなもんだろ? 特に拓海、お前にだ」
「じゃあ剛、逆に質問する。お前はこのみの裸を見たいのか?」
「う~~~~ん、俺はパスだな。正直な話怒られるリスクを背負うなら、もっと肉付きのいい人が見たい」
「俺も俺も。このみちゃんの体型は一部のマニアには受けるけど、俺はあんまり好きじゃないな」
「2人共、そんなこと言ってるとこのみちゃんに怒られるよ」
「じゃあ陽一はどうなんだよ?」
「僕?」
「そうだよ。このみちゃんの裸を見たいか見たくないかでいえばどっち?」
このみの裸と言った瞬間、想像してしまったのか古川の顔が微妙に赤くなる。
その表情はこのみの裸を思い浮かべ、恥ずかしがっているように拓海には見えた。
「陽一、今赤くなった」
「あんまりからかわないでよ、悠馬君」
「でも正直俺達の高校で覗きをしてまで見たい可愛い子って、誰かいる?」
「剛、会話がゲスくなってるぞ」
「いいじゃん。ここにいるのは男だけなんだから。そういう会話をしてても」
その話を切り出すと途端に難しい顔をする拓海。
正直そんな事など今まで1度も考えたことがなく、誰も頭に浮かんでこない。
古川と悠馬も同じような顔をしていることから、拓海と同じ状態に陥っているように感じられた。
「ちなみに剛は誰かいるの? 可愛いって思う子?」
「俺か? 例えば同じクラスにいる本田莉緒とかいいじゃん。胸も大きくて足もスラットしてるし。あれは絶対に遊んでるぜ」
「莉‥‥‥‥緒」
その言葉をつぶやくと途端に古川の顔が真っ青になる。
拓海は慌てて剛の口を閉ざすが、抵抗にあい剛に引き離されてしまう。
「何だよ、拓海。俺、何か悪いこと言った?」
「陽一君の前で本田莉緒の話は禁句だからやめろ」
「どうして? 陽一、お前本田莉緒のこと嫌いなの?」
「僕はあんまり好きじゃないかな」
古川の笑いには力が全くない。その様子を見て、本当にまずいんじゃないかと思う拓海だった。
「もしかして陽一、本田莉緒との間に何かあったの?」
「剛、余計なこと聞きすぎ」
「いいよ拓海君。剛君と悠馬君にも聞いてもらった方がいいと思うんだ」
「陽一」
「陽一、無理しなくてもいいよ。そんなこと話さなくたって、俺はいつでもお前の味方だから」
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だから。じつは僕と莉緒は小さい時からの幼馴染で‥‥‥‥」
それから古川は以前拓海とこのみに説明したのと同じ話を剛と悠馬にもする。
最初は興味津々に聞いていた2人だったが、話の後半につれ難しい顔になる。
そして古川の話が終わると剛は古川の肩を掴む。
唐突に掴まれた肩に一瞬古川がビクッとしたのが、拓海にはわかった。
「剛君?」
「お前も辛かったんだな。わかる、超わかるその気持ち」
「わかってくれるの?」
「当たり前だよ。俺だってそういうことあったから。余計にわかる」
「剛ってそんな事あったの? 俺は初めて聞いたけど」
「俺だってあるよ。合コンの時散々いい顔しておきながら着信拒否して来た女とか、友達経由で俺の悪評流されたりとか、色々大変だったんだから」
「剛はまだいいよ。俺なんか中学時代周りとゲームの話してただけで、クラスの女子全員からからシカトされたんだぜ。酷いと思うだろ?」
「うん、確かに2人の言ってることわかるよ」
「だから大丈夫だ。お前に何があっても、俺達が絶対に側にいるから」
「そうだよ。だって俺達、友達じゃん」
「ありがとう、剛君、悠馬君」
そういうと剛達3人で抱擁を交わす
古川がその話をしたことで、3人の結束が強くなったように思えた。
自分がそこにいないことが少々残念に思うが、これはこれでいいものだと拓海は時思う。
「お風呂出ましたよ。あれ? 何で男3人で抱きしめあってるんですか? 超キモいですよ」
「うるさい、女のお前にはわからない男の友情が今芽生えたんだよ」
「そうだよ。このみちゃんにはわからない男の友情ってやつ」
「むぅ。拓海先輩、あたしなんか悔しいです。せっかくですから私達も友情を育みましょう」
「このみ、こっちに来るな。俺から離れろ」
拓海に抱きつこうとするこのみを引き離しながら、拓海はどうにか逃げようとする。
そんな拓海のことをじっと見つめる視線があった。
「剛、見てないで助けろ」
「やだ。何かお前見てると、うらやましく思えるから」
「剛君、助けてあげよう」
「何でだよ、陽一。お前はあれを見てなんとも思わないのか?」
「僕は兄妹がじゃれてるようにしか思えないけど、悠馬君は?」
「俺もそうとしか見えないんだよな。普通高校の先輩後輩同士のああいうやり取りとかって、漫画だともっとうらやましく思えるんだけど、おかしいよな」
「いいから早く助けてくれ。明日の昼ご飯担当俺だから、お前達の昼食抜きにするぞ」
「明日の昼食が人質にとられてたらしょうがないな。ほらこのみ、離れろ」
「このみちゃん、就寝前の肌ケアやるからこっちにおいで」
「ついでにアニメも持ってきたから、皆で一緒に見ようぜ」
三者三様の提案で、このみもやっと拓海から離れてくれる。
その後古川の肌ケアや小顔マッサージ等の手ほどきやアニメ鑑賞等をして、その日は寝床に着く拓海達だった。




