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ハイタッチ~私とバンド活動しませんか?  作者: 一ノ瀬 和人
結成 そのバンドの名は‥‥‥‥
58/69

合宿すればいいんじゃん

「1回休憩にしよう。昼食を食べてからずっと楽器を弾いていて疲れてるだろうから、少しここら辺でリフレッシュしようか」


 演奏が終わり、小五郎が練習をやめ休息を取るように指示をする。

 本格的に始まった全体練習で、拓海もギターを弾くのを止めその場に座る。

 眼前には険しい顔をした小五郎の他に、高林と梅田も難しい顔をして部屋を出て行ってしまう。

 拓海には3人に難しい顔をさせている原因がはっきりとわかっている。

 それは頻繁にミスを多発させる自分にある、そう思っていた。


「拓海先輩、大丈夫ですか? あっ、これお水です」

「ありがとう、このみ。大丈夫だよ、俺は。問題ない」


 このみから水をもらい、その水を拓海は一口飲むとそれを足元に置く。

 なるべく拓海はこのみに対して微笑んだが、それでもこのみは拓海を見て心配そうな表情をしていた。


「う~~ん、とても大丈夫そうには見えません」

「このみの意見に同感だな。あんなにミス連発するなんて、一体どうした?」

「剛」


 このみの後ろから顔を出すのは剛と悠馬の2人である。

 その後ろから古川も拓海の様子を気にかけており、全員が拓海のことを心配そうにしている様子。

 自分がミスばかりしていて焦る拓海だが、表情ではなるべくそれを出さないようにしていた。


「確かに剛よりミスが多いなんて、普通じゃありえないよね」

「悠馬、お前自分のミスを棚に上げるなよ」

「いいじゃん。俺こうみえても、やり始めた頃に比べたらだいぶ精度が上がってきてるからね」


 悠馬の言う通り、2人のミスは少しづづではあるが着実に減ってきている。

 逆に拓海は演奏を重ねるに連れミスが多くなっていく。

 1人でやっている時は殆どミスがないのに、全体練習になるとどうしてミスを連発してしまうのか拓海にはわからなかった。


「拓海君、大丈夫だよ。きっと本番では上手く行くって」

「でも、最近だとAメロでも間違えるし。自分でも、どうしていいかわからないんだよな」


 拓海がギターを持ち弦に指をかけて弾くと、さっき失敗したところがスムーズに弾けていた。

 これがどうして本番になると上手く弾けなくなるのかが拓海にはわからない。

 どうして弾けないのか原因が自分でもわからず、思い悩んでいた。


「これはスランプという奴ですね。昔吹奏楽部でも楽器を弾くのがすごい上手先輩がいたんですけど、急に演奏出来なくなることがありました」

「僕もある。今まで出来てたものが、急に出来なくなることって時々あるよね」

「まぁ、楽器ド素人の剛さんと悠馬さんにはわからない感覚かもしれませんが」

「何でそこで俺達の名前を上げるんだよ」

「そうだよ、このみ。お前後で覚えてろよ」


 このみは剛達のことをからかって、楽しそうに笑っている。

 それに対して深刻そうに悩む拓海は、どうすれば今の状態を脱することができるのか真剣に悩んでいた。


「参考までに聞くけど、陽一君はどうやってその問題を解消したの? 俺も楽器ド素人だから、改善方法がわからなくてさ」

「僕は1回楽器から離れたかな。ピアノを弾きたくなるまで、家で本を読んだりしてたよ」

「このみはよくわかりません。その先輩は結局思いつめたまま周りからのプレッシャーに負けて、辞めちゃいましたから」

「つまり陽一君の言葉を借りるなら、楽器から1度離れることが最善の解決策か。でもライブまでもう日にちもないからそういうこともできないし、どうしよう?」


 4人全員がどうしたらいいか必死に考える中、一言も話さずに俯く拓海。

 自分がどうしたら課題曲をミスなく弾けるのかわからず、そのことばかり考えてしまう。


「拓海先輩、拓海先輩」

「何だよ、このみ? そんなに俺の名前言わなくても、聞こえるって」

「それでこそ拓海先輩です。そんなに黙っていると気がめいっちゃいますよ。ほら、いつものツッコミ上手の拓海先輩はどこいったんですか」

「悪い悪い。気をつける」

「拓海先輩が憎まれ愚痴を叩かないなんて、これは重症ですね」


 拓海としても自分のことを考えるのに精一杯で、人の相手をする余裕はない。

 既に自分が抜けて4人でライブをしてもらった方がいいんじゃないか、そのことが拓海の脳裏をよぎっていた。


「拓海君、気分転換なら夏休みの宿題とかどうかな? 結構量もあるし、ライブのことも忘れられて気分転換になるんじゃ‥‥‥‥」

「「「宿題?」」」


 宿題という単語を聞いた瞬間、古川と拓海以外の声が重なる。

 拓海が3人の方へ顔を向けると、一様に驚いた顔をしており、夏休みの宿題を忘れているように見えた。


「えっ、陽一。お前もう宿題終わってるの?」

「うん。僕は8月の頭には全部終わってるけど」

「ちなみに拓海先輩は夏休みの宿題って終わってますか?」

「俺も終わってる。もうすぐライブなんだから、当たり前だろ?」

「なら拓海先輩、宿題を手伝ってください。あたしの一生のお願いです」


 半泣き状態のこのみが拓海の肩を掴み、前後に揺らす。

 隣にいる古川の方を拓海は見ると、同じように剛が古川の肩を掴み助けを求めていた。


「やだよ。宿題なんか自分の力でやらないと意味ないだろ?」

「でもでもあたしはおバカさんなので、問題の解き方が全然わかりません」

「だったら適当に答え書いとけばいいだろ? 先生に怒られるかも知れないけど」

「それだと周りからおバカさんだと思われます」

「自分でバカって自覚があるならそれでいいじゃん? 何がまずいんだよ?」

「ダメですよ。あたしがおバカさんだってばれたら、お父さんやお母さん達に怒られます」


 いまだに食い下がろうとするこのみに対し、拓海はどうやってこの話を断ろうか考える。

 隣の古川と目が合うが、あっちも拓海と同じような考えをしているように見えた。


「だめだよ、このみ。やっぱり宿題は自分の力でやらないと‥‥‥‥」

「そうだ。だったら皆で合宿すればいいんじゃん」

「「「「合宿?」」」」


 後ろを振り向くと悠馬が手をポンと叩き、笑顔で拓海達の方を見ていた。

 その表情は妙案が浮かんだという表情でである。その表情を見て、嫌な予感が頭をよぎる拓海だった。


「そうだよ。皆で寝食を共にすれば拓海の気分転換にもなると思うし、剛やこのみちゃんの宿題も終わるじゃん。まさに一石二鳥」

「悠馬、お前自分のことを棚に上げるなよ。お前も終わってないだろ?」

「あれ? ばれた?」

「あたしもバレバレだと思いましたけど、悠馬さんの提案はいいチョイスだと思います」

「だろだろ? もっと俺を褒めて」


 拓海が話に割り込む暇もなく、宿題をやっていない組発案である合宿の計画は順調に進んでいく。

 いまだに日時も場所も決まっていない見切り発車の計画が進んでいるのを見て、拓海は不安に思う。

 それと同時に自分と古川の2人に多大な負担がかかること危惧し、なんとかやめさせるほう方はないのかと考えるのだった。


「待った。その合宿ってどこでやるんだよ。合宿をする場所がないじゃん」

「場所っていえば、ここがあるじゃん」

「ここ?」

「この音楽スペースだよ。ここを寝床で使えばいいんじゃない?」


 予想通りの返しをする悠馬であるが、拓海はこの場所だけは絶対に使えないと思う。

 何故ならこの場所は小五郎達の家であり、家主の許可がないと使えないからだ。

 さすがの小五郎も自分の孫が男4人と1日中過ごす泊りがけの合宿を許可するとは到底思えなかった。


「でもね悠馬君、ここを使うには小五郎さんの許可が‥‥‥‥」

「悠馬さん、ナイスアイディアです。あたし、おじいちゃんと交渉してきます」

「おい、このみ。ちょっと待て」


 拓海の手を離し、このみは一目散に部屋を出てどこかへ行く。

 その姿を見て拓海はため息をついた。


「本当にげんきんなやつだよ、このみは」

「それがこのみちゃんのいい所でもあるんじゃないかな。あと剛君、そんなに強く肩を掴まれると苦しいからそろそろ手を離してくれるとうれしいんだけど」

「悪い悪い。つい熱くなっちゃって」


 剛は古川の肩から手を離すとその場で謝っている。

 拓海に突っかかってきた夏休み前に比べると、剛もだいぶ丸くなっているように拓海には見えた。


「それにしても剛も悠馬君もだけど、宿題ぐらいライブ前に終わらそうよ」

「普通こういうのは最終日にまとめてやるものだろ?」

「その最終日にはライブが入ってるってわかってたよな?」

「まぁ、いいじゃん。合宿の時に全て片付けるから」

「そんなこと言ったって、普通に考えて合宿は無理だよ」

「何で?」

「だって、小五郎さんがそんなこと許すわけが‥‥‥‥」

「皆さん、おじいちゃんから合宿の許可を取ってきました」

「えっ? 取れたの? 本当に」

「はい、あたしにかかればこんなこと朝飯前です」


 拓海達に近づきうれしそうに笑うこのみ。

 だが、小五郎からそう簡単に許可がもらえると拓海は思わない。

 どうやって許可を取ったのか、そのことが気になる拓海であった。


「すごいね、このみちゃん。どうやって取ったの?」

「おばあちゃんがすごく乗り気だったので、簡単に取れました」

「このみのおばあちゃんか」


 初めて会った時すごい明るくノリノリな人だったので、あの人に泣きついたのなら簡単に許可が出るだろうと思う拓海。

 このみが小五郎よりもたまたまその場に居合わせた優子の方に訴えかけたのだろうと拓海は予測するのだった。


「ちなみに日時なんですけど、ライブ前の3日間ならいいらしいです」

「よし、その日はみっちり宿題を‥‥‥‥じゃなくて演奏ができるな」

「剛、本音が出てるぞ。本音が」

「でも、僕もなんだかんだいって学校行事以外だとこういうの初めてだから楽しみだな」

「陽一君まで」


 古川にまでそのように言われたら、いくら拓海でも断ることが出来ない。

 大きく息を吐き、強制的に合宿に参加することを拓海は悟る。


「そこまで皆が言うなら、俺も参加するよ」

「さすが拓海先輩です。それじゃあ来週は宿題とお泊りセットを持ってここに集合しましょう」

「「「「お~~~~う」」」」


 この後拓海以外の4人がノリノリで、当日の持ち物などを話し合う。

 拓海はその様子をただじっと見つめているだけであった。


「拓海先輩も話に参加してください。そんな所でボーーっとしていないで」

「わかったよ。今行く」


 このみに呼ばれ、拓海も4人の話し合いに強制的に参加する。

 もちろんその話し合いは音楽以外の遊びの話で盛り上がり拓海はため息をつく。

 結局この後小五郎達が戻ってきて、合宿の約束事を話した後再び練習を再開し、この日は解散するのだった。


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