一件落着したみたいだね
拓海と孝明は観覧車を降りてしばらく待っていると、このみと真里菜の2人が観覧車から降りてくる。
降りてすぐこのみが早足で自分達の方へと向かってくるのが拓海には見えた。
「拓海先輩、孝明先輩とちゃんと仲直りは出来ましたか?」
「仲直り?」
「そうです。せっかくあたし達がお膳立てしてあげたんですから、もちろんしてますよね?」
拓海と孝明の顔をこのみは交互に見まわす。
拓海自身このみ達に感謝はしているが、それを本人に言うのは正直癪である。
孝明と顔を見合わせ、自分の中でこのみに対してどのように話すのか1人で方針を立てる拓海だった。
「どうしたんですか? 男同士で見詰め合っちゃって? 孝明先輩がするなら様になりますけど、拓海先輩がすると超気持ち悪いです」
「うるさい。気持ち悪いとか言うなよ」
「やっと元気になりましたね。それで、どうだったんですか? 観覧車では?」
「はっきり言ってこのみがどう思ってるか知らないけど、仲直りも何も俺と孝明は喧嘩なんてしてないからな」
「そうだよ、このみ。俺達は親友なんだから、元から仲はよかったよ」
示し合わせたように孝明も話をあわせてくれる。
それを見て、自分と孝明の考えが同じだったことにほっとするのだった。
「なっ、先輩方。せっかくあたし達の好意を無碍にあつかって」
「無碍も何も、元から俺達は喧嘩してないよ。なっ、孝明」
「そうだよ。拓海の言う通り」
「どうやら一件落着したみたいだね」
「真里菜」
後ろからゆっくりと歩いてきた真里菜が拓海と孝明の前に立つ。真里菜の隣にいるこのみもその様子を見て、非常にうれしそうだった。
「拓海君、今日は私達に付き合ってくれてありがとう」
「こっちこそ、真里菜達が誘ってくれてうれしかった」
「拓海君さえよければ、またこうやって遊びに誘ってもいいかな?」
「いいよ。年中暇してるから、いつでも誘って」
「わかった。後1つ拓海君に注意したいことがあるんだけど、今度は私達には内緒でトリプルデートとかしちゃだめだよ。するなら事前に報告してね」
「トリプルデートって、そんなの俺してないから。というかそんなこと誰が言ったんだよ」
「このみちゃん。この前ショッピングモールで女の子とデートしてて、拓海君がすっごく楽しそうだったって言ってたよ」
「このみ」
このみの方を拓海は見ると、真里菜の後ろにすかさず隠れた。
そのまま顔だけ見せ、拓海の様子を伺っている。
「だって愛梨先輩言ってましたよ。あの日は拓海先輩達とトリプルデートだったって」
「あれは剛の恋愛を成就させるために渋々俺がついていったわけで、俺は彼女をつくろうとかそんなつもりは一切なかったから」
「そんなって、どんなつもりだったの? 俺もその辺りのこと、詳しく聞きたい」
「私も。拓海君とデートしていた女の子について、もっと詳しく話してほしいかな」
「孝明と真里菜まで。あんまり俺をいじめるなよ」
拓海がうなだれると孝明と真里菜もこのみにつられて笑い出す。
あの時はただ端に剛の手伝いのために拓海は同行しただけである。
決して篠塚達に何かをしようとしていたわけではない。
「でも、愛梨先輩は本当にいい人でしたよね」
「そうなんだ。このみちゃんがそんなに賞賛する人なら、私も1度会ってみたいな」
「いいですよ。それなら今度出かける時は愛梨先輩も誘いましょう」
「いいのかよ。でもそうなると、男2人に女3人になって人数が曖昧になるぞ」
「その時はそうですね‥‥‥‥消去法で古川さんでも呼べばいいんじゃないですか? あの人なら害がなさそうですし」
「消去法とか言うなよ。陽一君が悲しむぞ」
拓海的にも古川が1番適任だと思うが、選んだ理由は消去法ではない。
1番孝明と一緒にいても協調性があり仲良くなれそうなのが、古川だと思ったからである。
「ちなみに剛と悠馬君を連れて行く気はないの?」
「あの2人は論外です。剛さんはがっつきますし、悠馬さんはテンションがうざいのでやめときましょう」
「このみはあの2人に対しては辛辣だな」
拓海はもう少し他に言い方がなかったのかと思う。
ただこのみの言う通り、剛だと孝明と喧嘩になりそうでまだ誘うには怖く、悠馬に関してはもっと大人数で集まる時間を作って徐々に慣れさせた方がいいと考えていた。
お好み焼き屋で篠塚と楽しく話していたのを鑑みても、古川が1番適任だと拓海も考えていた。
「拓海、陽一って誰?」
「うちのバンドでキーボードを担当している人だよ。古川陽一っていう名前で、俺達と同じ高校で隣のクラスにいる人。確か真里菜と同じクラスだったと思うんだけど、知らない?」
「知ってるよ。いつもクラスで静かにしてる、真面目そうな人だよね?」
「クラスでの陽一君のこと知らないけど、陽一君ってクラス内だとそんな感じなんだ」
真里菜の話は拓海の知らない意外な古川の姿である。
いつも明るく笑う古川がクラスではそんな風に思われている拓海は思わなかった。
「そんな人がいるんだ。俺、知らなかった」
「うん。ピアノが上手くてすごい人なんだけど、そういえば陽一君ってクラスではどんな様子なの?」
「う~~んと、あまり印象にないからよくわからないけど。そういえば、古川君は帰るのがすごく早いよ。ホームルームが終わったら、あの人すぐに帰るから」
「そうなんだ」
「うん。いつの間にいなくなったかわからないぐらい早いの。そんなに急な用事でもあるのかな?」
「それだったら、今度音楽室に行ってみたら」
「音楽室に?」
「うん。面白いものが見れると思うよ」
真里菜は真っ直ぐ家に古川が帰ったのだと思っているのだろう。だが古川は実際音楽室でピアノをずっと弾いている。
それを見た真里菜がどんな顔をするのかいまさらながら楽しみだった。
「古川さんは小心者ですからね。どこか引きこもれる所がないとだめなんですよ」
「このみ、それは言いすぎ。でもそのうち紹介するよ。他のバンドのメンバーと一緒に」
機会があれば、孝明達に自分達と一緒に活動しているバンドのメンバー達を紹介したい。
拓海はこの時そう思った。
「そういえば言い忘れてたけど」
「真里菜、どうしたの? そんなに改まって」
「拓海君達が演奏する今度のライブ、私絶対に見に行くから」
「俺も。真里菜と一緒に行くよ」
「そんなことか」
「そんな事じゃないよ。私達、1回目のライブのこと知らなくて見にいってないんだから」
「そうだよ。水くさいぞ。連絡しないなんて」
「ごめん次は気をつけるよ」
拓海も冗談めかすように孝明達に話す。
以前は深刻に考えてしまい呼べなかったが、今なら気兼ねなく2人のことを呼べると思う。
「それより見ててくれよ。絶対に成功させて、2人をあっと驚かせるんだから」
「拓海先輩、あたしのことも忘れないで下さい。あたしの歌声も、お2人に届けますから」
「このみちゃんにも期待してるよ」
「2人のこと、応援してる」
孝明と真里菜の顔を見て、改めて月末のライブを成功させようと心に誓う拓海である。
この後4人は夕暮れを見ながら、家路へと向かう。4人の間には特に拓海と孝明の間には来た時のような不穏な雰囲気はなく、楽しそうに笑っているのだった。




