栄養が偏っちゃいますよ
「いたいた。お前達は今までどこにいってたんだよ」
「それはこっちのセリフです。剛さん達こそ、今まで何をしていたんですか?」
「それは秘密だよな。悠馬?」
「そうだよ。男同士の堅い友情ってことで、このみちゃんには悪いけど今は話せないな」
「言っている意味はわからないですが、そこはかとなく気持ち悪いです」
剛と悠馬のことを見て、うんざりしている様子のこのみであった。
拓海は剛と悠馬の持っている荷物を見る。
剛はまだしも悠馬の持っている荷物があまりにも大きいため、かなり高額な買い物をしたことがうかがい知れた。
「それよりも昼飯はどうする? 俺達今めちゃめちゃ腹減ってるんだけど」
「いつものお好み焼き屋さんでいいんじゃないですか? どうせ他のお店は混んでいますし」
「待て、このみ。もしかしてまた俺1人に全てを任せるんじゃないだろうな?」
以前ショッピングモールでお好み焼きを食べた際、注文から料理まで全ての作業を拓海が担った。
1番最初の注文だけは各自でしたが、それ以降は拓海が注文から料理まで全てをすることとなった忌まわしき出来事。
結局料理を作るのに時間を取られっため殆どがこのみ達に食べられてしまい、ろくに食事にありつけなかった拓海である。
あの出来事が再び起こるのではないかと拓海は考えていた。
「大丈夫ですよ。今度はちゃんと分担しますから」
「その言葉、信じていいんだな?」
「はい、あたしに任せてください」
「そういうことなら、あのお好み焼き屋に行こうぜ。悠馬は行ったことないから、俺達についてこいよ」
「わかった」
悠馬が頷くと、剛を先頭に拓海達はいつものお好み焼き屋を目指す。
他のお店には行列が並んでいるが、相変わらずこのお店だけは行列もできずガラガラである。
店内を見回しても人が全くいないため、この店の経営状態が心配になる拓海だった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「6人です」
「そちらのお座敷が空いていますので、ご自由にお座り下さい」
お好み焼き屋につき、暖簾をくぐるといつもの伯母さんが席へと案内してくれる。
6人が席に座り荷物を置くと、注文表を片手にこのみが悩みだす。
今日のこのみは拓海の右側に陣取り、正面には古川、このみの対面に篠塚がいる。
拓海の隣には剛がいて、その前に悠馬がいるという席順になっていた。
「剛も悠馬君と一緒にメニュー表を見て頼むものを選んで」
「サンキュー、拓海」
「拓海、ありがとう」
拓海が剛と悠馬にメニュー表を渡すと、2人は渡されたメニュー表を見て真剣に何を食べるか考えているように見えた。
古川はいつの間にかこのみと篠塚の2人とメニュー表を見ており、選んでないのは拓海だけとなった。
「このみ、選び終わったら俺にもそれ見せてくれない?」
「いいですよ。愛梨先輩達も決まりましたよね?」
「私は大丈夫です」
「僕も」
「皆さん大丈夫なようなので。はい、どうぞ」
「じゃあ、ちょっと借りるよ」
拓海がお好み焼きのメニュー表を受け取り選んでいると、隣にいるこのみがメニュー表を覗き込む。
瞬間、このみの体が拓海と密着する形となった。
「拓海先輩、このチーズとおもちのお好み焼きとかおいしそうですよ」
「確かにそれは前食べたけどおいしかったな。でも、こっちのもんじゃ焼きもおいしいぞ」
「へぇ~~、そうなんですか。じゃあ両方注文しますか?」
「いや、俺は広島焼きとチャーハンにする」
「それって前と同じじゃないですか」
「いいんだよ。好きなんだから」
「同じものばかり食べてると、栄養が偏っちゃいますよ」
「うるさい。それよりもみんな注文決まった? 決まったなら、店員さん呼ぶけど」
「俺達は大丈夫だ。呼んでくれ」
「僕達も大丈夫」
「わかった。すいません、注文お願いします」
全員の同意を得たので、拓海は店員のおばちゃんに注文をする。
注文を伯母さんがすぐに取ると、一旦裏へと戻りすぐにお好み焼きのタネが出される。
タネを受け取る拓海の横で、いつものようにこのみが拓海に向けてへらを差し出していた。
「このみ? このへらはなんだ?」
「やだなぁ、拓海先輩は。わかってるくせに」
「さっきまで、俺に全て任せることはしないって言ってたよな?」
「いやですね。全てはしませんよ。ちゃんと注文はあたし達が引き受けますから、拓海先輩は焼くことに集中してて下さい」
「それって前回とほぼ同じことだよな? ただ俺が注文しないだけで」
このみに反論するが、その反論が受け入れられる気配がない。
ニコニコと笑顔でへらを渡すこのみを見て、諦めた拓海は素直にへらを受けお好み焼きを作ることにした。
「さすが拓海先輩、よっ男前。料理長」
「もうその言葉はいいよ。前にも聞いた」
色々と諦めた拓海は手際よくお好み焼きの生地を作り焼き始める。
この時最近ギターよりもへらばかり持っているんじゃないかと思う拓海であった。
「拓海って、本当に料理上手いな」
「悠馬はわかってないかもしれないけど、拓海は本当に何でも作れるんだからな。学校に持ってくる弁当だって、自分で作ってるんだぞ」
「拓海先輩、それは本当なんですか?」
「本当だよ。てか、何で悠馬君じゃなくてこのみが驚くんだよ」
このみが興味心身に学校での拓海の昼食の話に食いつく。
話を聞きながら、拓海はこのみのお弁当事情を全く知らないことに気づいた。
大食いのこのみが普段は何を食べているのか、そのことを拓海は知らない。
たぶん学食で大盛りの定食を食べていることを想像する拓海だった。
「そういうこのみは昼ご飯何を食べてるんだよ。もしかして学食?」
「あたしは基本的に購買の菓子パンですね。メロンパンとかチョココロネをよく買ってます」
「お前人の心配ばかりしてて大丈夫なの? そんなのばっかり食べてると、このみの方が栄養不足になるぞ」
「大丈夫ですよ。このみの動力源は甘いものですから」
「本当?」
3枚焼いているお好み焼きをひっくり返しながら、拓海は微妙な表情をする。
このみが甘いもの好きなのは知っているが、本当にそんな事をしていて体を壊さないのかが心配だった。
「本当ですよ。基本的にお父さんとお母さんは忙しくて家にいないので、いつも購買で買ってるんです」
「このみちゃんは学食には行かないの? あそこなら無料で大盛りにできたりするけど」
「あそこはものすごく量が多いんですよね。1度は行ってみたいと思ってます」
「じゃあ何でこのみは行かないの? 大盛りとかそういうの大好きだろ?」
「よく考えてみてください。女の子ががつがつ食べるのって、何か品がなさそうじゃないですか。そういう所を他の人に見られたくないんです」
「その割には俺達の前ではがつがつ食べてるけどな」
学校とこの場の何が違うのかが全然わからない拓海であった。
このみはといえば拓海の横で笑っている。
「昼飯か。俺はよく学食で食べてるよ。あそこの味噌ラーメンって、超上手いんだよね」
「そうなんだ。僕もお弁当だけど、たまには学食行ってみようかな」
「剛はコンビニだっけ?」
「そりゃあな。そこまでお金もないし」
「剛はいつも合コンばっかりしてるから金がなくなるんだよ。もっとお金は有意義に使わないと」
「うるせぇ。いつも漫画ばっかり買ってるお前にいわれたくないわ」
「2人共喧嘩するなよ。とりあえずお好み焼きが焼けたからそれを食べろ」
お好み焼きの上にソースと鰹節と青海苔をかけると、それを悠馬と剛の皿にのせる拓海。
他の焼けたものもこのみと古川と篠塚の皿に乗せた。
「ありがとうございます。やっぱり拓海先輩が作るお好み焼きはおいしそうです」
「ありがとう。そういってくれると作ったかいがあるよ」
「そんなに褒めなくても」
「褒めてないから。それとマヨネーズはそれぞれで勝手につけて食べて。好き嫌いがあると思うから」
そういった拓海は鉄板に油を引きなおし、もんじゃ焼きを作る準備に入る。
全員が楽しそうに食べている中、拓海だけ黙々と料理を続けていた。
「拓海先輩は食べないんですか?」
「もんじゃ焼き作ってるから後で食べるよ。今は手が離せないから」
「しょうがないですね。そういうことでしたら、あたしが食べさせてあげますよ」
「はい?」
そういったこのみは小さなへらにのったお好み焼きを拓海の口元に差し出す。
そのへらとこのみのことを交互に見る拓海であった。
「このみ、それお前がさっき使ってたヘラだよな?」
「はい、そうですよ」
「それって間接キスになるんだけど、わかってる?」
「知ってます」
「お前は大丈夫なの? 俺とそんなことして」
「別に気にしません。やっぱり拓海先輩は子供ですね。そんなこと気にするなんて」
「それは前も聞いたよ」
「拓海先輩は気にするんですか?」
「別に気にしないけど」
「なら早く食べてくださいよ。腕が痛くなってきました」
「わかったよ。食べればいいんだろ? 食べれば」
このみが差し出したへらに拓海はかぶりつくとお好み焼きを食べる。
お好み焼きは生焼けになっておらず、ソースとこのみのかけたマヨネーズもあっており、とてもおいしかった。
「どうですか? お好み焼きの味は?」
「おいしいよ。俺が作った奴だけど」
「そうですか。それはよかったです」
このみはそういうと再びお好み焼きを食べ始める。
へらも代えないで、拓海がかぶりついたへらをそのまま使ってお好み焼きを食べ進めていた。
「なんだったんだ?」
「相変わらずお前達の食べさしあいは全くうらやましくない」
「俺は結構よかったと思うけど。なんか仲がいい兄と妹って感じで。すげーー興奮した」
「そんなことをいうのはお前だけだ」
「このみちゃん、うれしそうだね」
「そうですね。このみちゃん、よかったですね」
4人がそれぞれの感想を言う中、拓海は黙々ともんじゃ焼きを焼いていく。
その後もことあるごとに焼いている拓海の口にこのみは食べ物を入れてくる。
全てが焼き終わるまでその食べさせあいは続けられ、お好み焼き屋にいる間このみは終始うれしそうに顔をほころばせていた。




